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聖域有する街・グラベオン





 グラベオンの街は私の考える「THE・港町」と「巡礼地」が混ざり合った不思議な感覚のする街だった。


 結局皇女サマ達はあっという間にスケジュールを整理してグラベオンの街へ行く事を可能にしてしまった。

 と言うのも、どうやらこの地は帝国にとって本当に大切な場所であるらしく、元々この街へ来る事は予定に入っていたらしい。

 ただもっと後の時期を予定していたのに、それを速める事になったので、関係各所には「ごめんなさい」と「ご苦労様」と言いたいです。

 まぁ、今回私は思い切り被害者なんだけどね!


 と、愚痴はともかくグラベオンと帝都は然程離れた場所では無かった。

 馬で無理をすれば日帰りできるかなぁ? って距離だ。

 ただし休みなくの行軍でようやく程度なので、私達は普通に道中の宿に泊まった上でグラベオンの街までやってきたけど。

 道中は何事もありませんでしたよ?

 相変わらず皇女サマには意味深で思惑ありげな眼で見られたり?

 妙に私に対して見下し感が半端ない騎士がいたり?

 ええ、それも帝国に来てからの「日常」なので何事も無かったですとも。

 そろそろ、そうとも思ってないとやってられないよね。


「<良かったのは部屋をお兄様と一緒にとれたから寝る時は普通に寝られたぐらいかなぁ?>」

「<んぁ? 一体何だよ、急に>」

「<いやさぁ。いい加減日常になってるなぁと思って……帝国側の対応が>」

「<あー。そろそろオマエのオニーサマがこえぇよ、オレは>」


 当然私に対する対応はお兄様には筒抜けなわけで。……多分ヴァイディーウス様にもだろうけど。

 あと、自慢だけど私とお兄様は貴族としては異例な程仲が良い。

 私はお兄様が大好きだし、お兄様も私を可愛がってくれている。

 比較対象が王族としては仲が良すぎなヴァイディーウス様とロアベーツィア様なので微妙だけど、私達の仲の良さも貴族としては異例なはずだ。

 そんな両思いの家族が妙な眼に合っていたらどう感じると思います?


「<オマエが止めてなきゃ今頃、帝国側に抗議の一つくらい入ってるだろうな>」


 そういう事です。

 私だって対象がお兄様だったら内心怒り狂っている自信があるし。

 相手は帝国の皇族とはいえ、限度があると思う。

 特に今回の場合、初対面からだったからねぇ。

 

「<ついでに帝国側の騎士サマの一部は完全アウトだからねぇ>」

「<オレさぁ、アイツ等みて思ったんだけど。この世界にはマトモな騎士様ってのはいねぇのか?>」

「<いや、流石にそこまでは、ねぇ? いると思うんだけどねぇ。……私も会った事ないけど>」


 いや、マクシノーエさんはマトモなのかな?

 ここまでくるとマトモと思いたい。

 と言うかマトモの基準がもはや分からなくなってきた。

 そして最近思うんだけど、もしかしたら私達の「騎士」というのものの理想が高すぎるんだろうか?


「<『物語』だと騎士ってのは国や主に殉じる高潔な人物って描かれているからなぁ。実際はこんなモノなのかもね>」

「<まーな。結局リーノが言っていた通り騎士とは言え「人」って事か。……にしてもひどすぎる気がするけどなぁ>」

「<それに関しては全面同意>」


 私に対して無関心の方がましに見えるって一体どういう事だろうね?

 最初は義務感だけで皇女サマ達を護っている騎士の方が問題があると思っていた。

 けど実際最近鼻につくのは皇女サマ達に対して好意的な騎士の方だった。

 彼等は私に対しての態度が日に日に悪くなっていったのだ。

 どうも皇女サマは貴族の中では「聖女」と囁かれる程慈悲深い人、らしい。

 詳細は知らないけど、そんな相手が此処まで意味深に企み警戒する相手である私“が”悪いと考えているらしい。

 こっちにしてみれば「勝手に警戒されてる上、勝手に悪いと決めつけられちゃたまったもんじゃない」と言った所だ。

 ってな訳で最近は無関心で私に対しても皇女サマに対しても義務感で付いている騎士の方がマシに見える。


「<一部を除いてだけどな>」

「<そーね。何故か一部の騎士サマも私に対して見下している上に怒ってる? 感じだからねぇ>」


 そういった私に害意を向けてくる騎士サマを抜かすとマシなのは本当に数人って事になる。

 クロイツの言った通り「騎士も人間」とは言え、この結果はあんまりだと思うのは私達が「騎士」という職業に夢を見過ぎだからなのかねぇ。


「<何かあった時騎士はあてにならないって事を念頭に動いた方がよさそうだね>」

「<めんどくせぇことだけどな>」


 内心ため息をついてクロイツに同意すると私は馬車の窓から街並みに目を向ける。

 グラベオンの街は港町らしく煩雑だけど、それ故に活気に溢れていた。

 陽気に歌い仕事をする肌の焼けた人達。

 昼間から酒片手に語り合う人々。

 客を呼び込むために声を張り上げる店の人達。

 日差しに負けない活力に溢れた人々の居る街はまさに私の想像する「THE・港町」だった。

 けど、ある区域に入ると途端にそういった雰囲気がなりをひそめる。

 道一本の違いだと言うのに、まるで聖地に来たような厳かな雰囲気が漂い始めるのだ。

 道歩く人々が変わるわけじゃない。

 巡礼服というか教会関係者と分かる服装の人が増えるけど、そういう所じゃなく、もっと根本的な所が違うのだ。

 本来なら陽気で煩雑な雰囲気と厳かな雰囲気は混ざり合う事は無い。

 ないと思っていた。

 けど実際グラベオンの街は私の予想をはるかに超えてこの二つの要素が上手く混ざり合い融合している。

 まさか真逆ともいえる雰囲気がここまで調和がとれるとは思ってもみなかった。


「(これもまた神々が近しいせいなのかねぇ)」


 いや、それで全部済ませてしまうのはただの思考の停止か。

 少なくともこの街を治める人間は相当優秀なのだろう。

 

「(気苦労も多そうだけど)」


 と、全く見た事も無い人間に沸いた同情の気持ちに内心苦笑する。

 無意味に過ぎる行為だ。

 もしかしたら現実逃避に近いのかもしれない。


「(現実逃避しても現実は許してくれないってのに、私も懲りないなぁ)」


 それでも一時とは言え逃げたくなって現実逃避をしてしまうのだが。

 どうせ強制的に現実に引き戻されるのだから、これくらいは許して欲しいものである。

 内心嘆息すると外を見るのを辞める。


「(さて、グラベオンの街で私は騒動に巻き込まれる事無く帝都に戻る事が出来るのかねぇ)」


 何処かで「無理だよ」と囁いた気がしたけど、私はその囁きを無視した。



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