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理想の騎士とはなれずとも、何時の日か俺は俺らしい騎士になりたい【テルリーミアス】

試験的に途中で別視点を入れてみました。

今回は近衛隊であり護衛騎士の一人の「テルリーミアス」となります。




「そりゃな? 外見だけなら影武者もあり得ると思うぜ? 公爵家の令嬢様なら余計にな?」

「それならば、経歴に見合わない知識の豊富さも説明が付きますし、錬金術ギルドに近づかない理由にも説明がつくとは思いますが」


 タンネルブルク殿とビルーケリッシュ殿が苦笑しながら諭すような口調で説明している。

 だが、そこでタンネルブルク殿は其処で表情を改め、陽気にそれでいて明け透けに言い放った。


「けど、幾ら公爵家の令嬢とは言え、其処まで流暢に自分の考えを論理だてて説明する餓鬼が他にいるはずないって!」

「なっ!? そんな事は!? ……そう言えば、ワタクシ殿下達もお兄様も気にしなかったので、これが貴族令嬢の標準なのだとばかり」

「いやいや。それはないって。と言うか嬢ちゃん。他に友達いないのか?」

「ほっといてくださいまし!」


 タンネルブルク殿の言葉に声を荒げているのは今回の護衛対象であり、私にとってはもう一つの任務……監視対象である令嬢であるキースダーリエ嬢だった。

 今の御姿は決して淑女らしくはないとは思うが、とても自然な物にも見えた。

 少なくとも此処に至るまでの道中で見ていた姿よりは余程自然体なのではないかと思う。

 

「大体、論理だてて説明する方なら此方にもいらっしゃるでは御座いませんか。それに関してはワタクシだけが特殊では御座いませんわ」


 キースダーリエ嬢は隣に立っていましたヴァイディーウス殿下の方に掌を向けた。

 確かにヴァイディーウス殿下もロアベーツィア殿下も王族として勉学に励み、同い年の子よりも物事の道理をお知りのはずなのでキースダーリエ嬢の言っている事は間違っているとは言いづらい。

 だが、そんな殿下達と並ぶ事事態が本来なら珍しく、有り得ないとまではいわずとも、難しいのも事実だと彼女は知らないのだろうか?

 

「(あの様子を見る限りキースダーリエ嬢はその事に気づいていないらしい)」


 あれだけの知識を持ち、それに見合った語彙力を持っているにも関わらず、気づかないとは……どうも彼女という人間がイマイチ掴みにくいと感じた。


「確かに。殿下達もそうだし、その分じゃ嬢ちゃんの兄さんもそれなりに頭が良いだろうな。けどなぁ。外見がそっくりで、論理展開が似てて、それでいて些細な動作が一緒って。そこまで提示されてて俺等が気づかないと思うか?」

「……リーノ、諦めろ。コイツ等相手にしらばっくれるのは最初っから無理だったってこった」


 キースダーリエ嬢の使い魔殿が小さな姿で彼女の肩に乗り、慰め? のような言葉をかけていた。


「(いや、あれを慰めと言っていいのだろうか? 追い打ちをかえているような?)」


 だが、あれだけ忠義に厚い使い魔殿がそのような事をするだろうか?


「(あれは使い魔殿ならではの慰めなのだな、きっと)」


 私が一人納得しているとキースダーリエ嬢は肩を落とし、今にも膝を地面につきそうな程落ち込んでしまった。

 だが、タンネルブルク殿達はそんな彼女を助ける仕草は見られない。

 流石に淑女としてどうかと思い一歩踏み出すが、私は今の自分の立場を思い出し、そこで歩みが止まってしまう。

 今の私には殿下達の御傍による資格は無く、キースダーリエ嬢に対しても注意を促すなど烏滸がましい事だった。

 私の僅かな迷いの間にもキースダーリエ嬢は自分の中で何かしらの結論が出たのだろう、自力で立ち上がった。

 途中ヴァイディーウス殿下が手を添え立ち上がる手助けをしていらっしゃったが、出来ればもっと早くするべきだったと感じてしまうのは不敬だったろうか?

 誰も気にしてしない所良いのかもしれないが。

 

「まぁいいですわ。バレてしまったらな仕方ありません。これからは猫を外せると思えば良かった事と思いましょう」

「おっ! ようやく言葉使いも戻すのか?」 

「またそこですの! ですから! ワタクシは正真正銘ラーズシュタイン家のキースダーリエですわ! 戻すも何もこの口調が普通に御座います! いい加減其処は認めて下さいませんこと?!」


 淑女らしくはなく、大きな声で反論する姿はここに礼儀作法の講師が居れば眉を顰めるかもしれない。

 だが、この姿こそがキースダーリエという少女が親しい人に見せる姿なのだろう。

 冒険者という荒事もこなす相手にも一歩も引かず、されど権威をひけらかす事無く、同等でモノを言いあう。

 堅物と言われ続けている私には決して出来ぬ事だが、それもまた貴族の在り方なのかもしれない。

 

「いやな。俺等のランク的に他の貴族の護衛任務ってのも受けた事がないわけじゃないのは分かるだろ? だから嬢ちゃんぐらいの貴族の子供がどんなかくらい知ってる。だからこそ嬢ちゃんが普通じゃないのは分かっちまうだよな」

「勿論殿下達や貴女のお兄様も普通と言ってしまうには物分かりが良すぎであり、頭も良いのでしょう。それでもまだ次期国王や次期当主として教育と受けたという言葉で納得出来る範囲です。そういった方々と同等以上に話せるからこそキースダーリエ様。貴女の存在がより際立ってしまっているのですよ」

「ま、とはいえ、アンタが一人で我が儘令嬢してても、それはそれで問題は解決しなかっただろうし、予定調和って奴なんじゃないか?」

「随分貴方方に都合のよい話ですわね。――はぁ、そうですわね。貴方方はそういった方達でしたね。自由気ままに好奇心で動き回る冒険者。そんな方を説得できると思ったワタクシが馬鹿でしたわ」


 溜息を付き、姿勢を正したキースダーリエ様はタンネルブルク殿達に向かって微笑むと優雅に一礼した。


「改めてよろしくお願いしますわ。冒険者キースという仮の姿を取っておりましたが、真の名をキースダーリエ=ディック=ラーズシュタイン。以後宜しくお願い致しますわ」


 その礼は優雅であり、武骨な私では決して真似は出来ない。

 礼儀作法を学ばれ、そして身に着けた人達だけが出来る仕草だった。

 流石、ラーズシュタイン家の令嬢と感嘆の声すら上げそうになる礼だったが、顔を上げたキースダーリエ嬢からは先程までの令嬢としての姿は隠れていた。

 そんな彼女は淑女の表情ではなく、何処か楽し気でいて、そして悪戯を楽しむ子供のような表情を浮かべタンネルブルク殿達に笑いかけていた。


「まぁ、其方様に今後付き合う気があるのでしたらですけれどね?」


 そんなキースダーリエ様の言葉にタンネルブルク殿がしてやれたという顔をしていたのがとても印象的だった。

 一体彼等とキースダーリエ様の間に何があったのだろうか?

 それを知る機会も立場も無い私はそんな疑問を浮かべながらも問う事の出来ない立場に自分が居る事に暗澹たる心持ちだった。

 だがそれすらも自分で招いた事であり、誰が悪いという訳では無い。

 ただ自分の不甲斐なさのみが胸の中で淀みとして溜まっていく。

 私はそんな淀みを振る払うように頭を一度振ると、罪悪感と羞恥、そして自己嫌悪を抱え国境までの護衛任務を遂行するために動き出した。



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