超ブラック企業の社畜の僕(5歳児)がトラックにひかれて異世界に転生した件ですが、なにか?
20XX年 ――超高齢化社会に、若者の労働力は枯渇していた。
そしてついに政府はしびれを切らし、労働基準法を改正。
「働けるものは幼児でも働け!」
そして世は、総ブラック企業時代へと突入する。
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「残業残業で、やってらんないよね。
しかもぜーんぶサービス残業で、給料に反映されないなんて。
まったく政府はなにしてんだか」
僕は強制労働幼稚園の帰りに、メタちゃんに愚痴をこぼした。
外はすっかり暗くなってて、園児バスも、もう走ってない。
これは、歩いて帰らないとダメなパターンだ。
「ワナビ君、そんなこと言ったって、しかたがないわ。
ジャンルや作品傾向によって差があるけど、ブクマやポイントは無視できないの。
内容は俺の方が良いとか、流行を追っただけの作品なんてって、文句言っても……
――所詮負け犬の遠吠えだわ!」
メタちゃんは、可愛くって幼稚園のアイドルだけど……
たまに難しい事を言うから、僕は分からないことがある。
「そ、そうなんだ?」
「そうよ! だからニーズをしっかり押さえたうえで、自分の主張をしないと。
トレンドとオリジナリティの両立が、真の名作を生むのよ」
僕が悩んでいたら、突然トラックが飛び出してきた。
「メタちゃん危ない!」
僕が彼女をかばうように抱きしめたら……
「チャンス到来ね!」
メタちゃんは、なぜか薄っすらと微笑んだ。
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「我は、神である!
幼い子供達よ、手違いでこんな事になって申し訳ない。
本来なら君たちは、過労死でこの世を去るはずだったが……
代わりに『なろう』と呼ばれる異世界に転生させて、チートを授けよう!」
神々しいおじいちゃんが、そう言った。
後ろでメタちゃんが「定番ね」と、呟いたけど……
やっぱり僕には理解ができない。
「チートは何がもらえるのかしら?」
可愛らしくシナをつくるメタちゃんが、微妙にキモイが。
「こんなところじゃな!」
おじいちゃんは事務的に、一覧用紙をわたしてきた。
やりなれてて、疲れてるような雰囲気もある。
「じゃあ、全部もらっとくわ」
僕はメタちゃんの言葉におどろいて。
「えっ、いいの? そんなの!」
思わず聞き返してしまった。
「何を言ってるの? ワナビ君。
今どきチートの100や200…… 常識じゃない。
ちゃんとランキングはチェックしとかなきゃ。
時代はもう、超インフレなんだから」
メタちゃんの言葉に、おじいちゃんも頷く。
「よいじゃろう、後もつかえておるからな……
話が早いのは助かる。好きなだけ持ってくがよい!」
そして僕達2人は、また光に包まれた。
――どこかから。
「次の人どーぞ―!」って、声を聴きながら。
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そこはゲームでよく見る剣と魔法の世界だった。
「この設定は、崩し過ぎると読者離れをおこすけど……
やっぱり、ひとひねり欲しい所よね」
メタちゃんの発言は、相変わらず意味不明だけど。
ここは男の僕が、リードしなくちゃいけないだろう。
「僕もこの手のアニメは見たことあるから、安心して。
――まずは、冒険者ギルドだね」
「もう、ワナビ君はやっぱりワナビね!
今どきそんなストレートな進行は流行らないわよ。
まったり系やほのぼの系なら、あっちの農地だし。
生産系や内政チート系なら、あの街中の方よ」
「そ、そうなんだ」
やっぱり5歳児に、女性のリードは無理なんだろうか?
「おっさん系もトレンドだけど、あたし達には無理ね。
となると…… ここは思い切って、あの手を使いましょう」
僕はメタちゃんに連れられて、いきなりダンジョンへ向かった。
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メタちゃんがそのダンジョンを制覇するのに、半日はかからなかったと思う。
「チートも、もらい過ぎると大変ね。
どれがどれなのか、覚えきる事が出来ないもん」
それが、ダンジョン・マスターにのし上がった彼女の第一声だった。
「メメメ…… メタちゃん。
こ、この後どうするの?」
なんだかメタちゃんを見てると、漏らしそうになる。
もう年長さんだから、そんな事はできないけど。
「社畜、ダンジョン・マスターときたら、もう『ダンジョン経営』しかないでしょ。
これからワナビ君が社長で、あたしが有能秘書よ」
「――でも、メタちゃん。
僕は社畜だったけど…… チラシの折り込みの内職しかできないよ」
恐る恐る言ったら、魔王…… じゃなかった、メタちゃんが。
「良いのよ、ポンコツ社長に有能秘書もトレンドだから!」
ほほほほほ! と、高笑いした。
僕の後ろにいたダンジョンのモンスターも、みんな震え上がる。
ああ、なんてことだ。真の魔王がこんな所にいたなんて……
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転機は突然訪れた。
ダンジョン経営のためのチラシの折り込み作業が、すっかり板についた頃。
「マスター、とんでもない魔物が現れました」
声をかけてきたのは、僕の先代のマスター。
伝説のドラゴンさんらしいが、今はメタちゃんのペットをしている。
「僕は折り込みの内職で忙しんだ。
魔物のことなら、メタちゃんに言って」
「それが…… メタの姉御がやられちゃいまして」
「メタちゃんがやられたんなら、僕じゃ太刀打ちできないよ」
「マスター、そこをなんとか……」
嫌がる僕を、ドラゴンさんはガブリとくわえて、強引に社長室(内職工場)から連れ出した。
「ワナビ君、やっと来てくれたのね! 敵は異世界移転が可能な妖怪よ。
名前は『世壊シ』と言って、えーっと。
相手の能力をコピーする力があって……
それで、夜を操る? みたいで……
空間を自由に制御して、攻撃をすり抜けたり……
『玩具生成』で、おもちゃを武器にしたり。
『バーニングフィスト』って言うスーパーヒーローの技を使ったりするの!」
「メタちゃん! なんだいその棒読みなセリフは?」
「だってまだ3回目のリレーなのに、能力が複雑すぎて覚えれなかったのよ!」
楕円形で、全身黒い毛で覆われた毛むくじゃらな、蜘蛛みたいな妖怪の下敷きになったメタちゃんが、カンペを片手に叫んだ。
相変わらず、なにを言ってるのか良く分かんなかったけど。
「今助けに行くよ!」
僕は主人公らしく、秘めた力が覚醒することを祈ってメタちゃんに向かって走り……
――簡単に妖怪に吹っ飛ばされた!
「バカね、ワナビ君! そんな少年漫画みたいなご都合主義が、今のなろうで通用すると思ってるの!」
「くそっ! いったいどうしたら」
やっぱり、ご都合主義は通用しないのか。
それなら、年長さんに上がってから、使用を禁じていた。封印していたあの技を使うしか……
僕は拳を握りしめ、立ち上がる。
「妖怪め、僕の真の必殺技を受けてみろ!」
「ほほう、ならばその技…… コピーしてやろう」
目が赤く輝いたけど。
僕は妖怪に向けて、再度全力で走った。
「うわーん! メタちゃんをかえせー、ばかー!」
そして大声で、両手をまわす。
――必殺、幼児泣きわめきグルグル・パンチだ!
「あら、あの妖怪幼児をいじめてるわ」「可愛そうに…… あの男の子泣いてる」「ちょっと奥様、通報した方が良いかしら?」
ダンジョンのあちこちから、ヒソヒソ声が聞こえだし。
「なに? ええい、仕方ない!」
いたたまれなくなった妖怪は、別の世界へと移転していった。
「ありがとうワナビ君、とっても素敵よ。
やっぱり必殺技は、オリジナリティが無いとダメね。
あなたの心の叫びは、きっと読者のハートを射止めたわ!」
やっぱりメタちゃんが何を言ってるのか良く分からなかったけど。
彼女が喜ぶ姿を見るのは嬉しい。
そして、メタちゃんは僕のほっぺにキスをした。
「ど、どうして?」
僕があせってると。
「最も偉大なアニメ監督の作品でも、終わり方はこうよ!
本物の王道は、いつだって色あせないの。
そこも、ちゃんと覚えておいて…… ワナビ君」
ダンジョンのみんなも、僕達を見て幸せそうに笑ってる。
トラックにひかれたときはどうしようかと思ったけど、この世界はとても素敵なのかもしれない。
もし心配事があるとしたら、僕の必殺技が盗まれたことだけだ。
……誰かあの技を使うだろうか? このリレー小説で。
この作品は、単体で読んでも楽しめるように書きましたが、
リレー小説にもなっています。
主催者 yukke様の作品がスタートです。
URL
http://ncode.syosetu.com/n8268eg/
『僕、妖狐になっちゃいました 《夜襲・前編》 ~特別企画『ボスキャラ大移動』~』
続いて、師走皐月様。
URL
http://ncode.syosetu.com/n8537eg/
『平凡男子高校生のSUPER HERO LIFE~外伝~【ボスキャラ大移動リレー小説】第二部』
以上をご覧になると、さらにお楽しみいただけると思います!
続編は
URL
http://ncode.syosetu.com/n9419eg/
全ての神妖怪が集まる御子神神社は問題だらけ。神社とは須らく壊れるもの?【ボスキャラ大移動】
蠍座ノ白鴉 様の作品です! 引き続きお楽しみください。