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番外編2.オレの魔王(ヨメ)!

番外編1の数百年後に相当するお話。勇者と魔王の実態も大きく様変わりしています。

◆番外編2.オレの魔王(ヨメ)


 魔界の深奥部のさらに人気のない(まぁ、この場合は“魔気”がないとでも言うべきか?)場所にそびえたつ古城。

 その城の主にしてすべての魔物の頂点に立つ存在、「魔王」とオレは1対1で対峙していた。


 言い忘れていたが、一応オレは、「勇者」なんて呼ばれてる。

 元は、こことは別の世界で二流大学のグータラ学生やってたんだが、テレビゲームの最中にお定まりの“異世界からの勇士の召喚”とやらで半ば無理矢理(そりゃ画面に出た「召喚に応じますか?」って質問でYESを選んだけどさぁ)連れて来られてたんだ。

 もっとも、身体がそれなりに丈夫なのと肺活量が大きいこと、そして早口言葉が得意なことくらいしか、元の世界では取り柄がなかったオレだが、勇者としては意外にその特徴が役に立った。

 なにせ、修練の結果、ゲームで言うところのHP(たいりょく)がハンパじゃないレベルで増えていくうえに、素の頑丈さもガンガン上がっている。今なら裸で寝ている時に胸を短剣で刺されても、相手が一般市民ならかすり傷すらつかないんじゃないかね。

 さらに長たらしい魔法の呪文をひと息で素早く唱えられるのも、戦闘時には大きなアドバンテージだ。おかげでオレは、“史上初の剣より魔法の方が得意な勇者様”として微妙な感じで有名になっちまったし。

 ──いや、もちろん剣とか槍も一通り訓練受けたし使えるんだよ? ただ、武器攻撃より魔法使うほうが速いし確実ってだけで。


 ともあれ、国内各地を転戦して可能な限り戦力増強(レベルアップ)してから、オレは最終決戦に臨んだわけだ。

 魔王は、その呼称のイメージを裏切る、やや小柄な若い美形の青年だった(たぶん、その角と肌の色を何とかすれば人間界でもモテそう。ちくせぅ!)が、オレとは対照的に剣による攻撃を得意としていた……って言うか、さっきから一度も魔法とか使ってきやがらねぇ!

 おかげで、オレも長い詠唱時間が取れず、剣と楯で相手の攻撃をいなしつつ、隙を見ては単文節の攻撃呪文を唱えることくらいしかできてない。

 「えーい、貴様、それでも勇者か? 先程から、ちまちまとショボい魔法ばかり使ってきおって。勇者なら勇者らしく聖剣の技で勝負せんか!」

 「そっちこそ、仮にも“魔”の“王”なんだから、暗黒魔法の粋とか見せてくれよ! まさか、魔法が苦手ってワケでもないだろ?」

 戦いの合い間にそんな軽口を返すと、フイと魔王が視線を背ける。微妙に涙目になってるし。

 (うわ、まさか図星!? でも、ちゃ~んす♪)

 オレは、先日とある遺跡で発見した高難度の遺失呪文(ロストワード)をこっそり詠唱開始する。


 「ぅぅ……貴様も「魔王だから魔法が得意に決まってる」だなどと思っておるのか。誰だって得手不得手はあるのだぞ。我には、魔界で誰にも負けぬこの無双の剣技があれば、それでよい!」

 「魔法なんて飾りですよ、重臣達えらいひとには、それがわからんのです!」なんて、虚ろな目でブツブツ言ってる奴には、ちょっぴり同情しないでもないが、戦いは非情なのだ。

 「……故に七彩の神ハマンよ、古えの盟約に従いて彼の者に災厄を為せ……」

 「! しまった、その呪文を止めよ!!」

 「(もう遅いぜ)──TEN-UP-LUPA!」

 奴が気付いた時には、オレはすでに【無作為超変異(テン・アップ・ルーパ)】の呪文の詠唱を終えていた。


 ──BOMMMMB!!!


 軽い爆発音とともに七色の煙に包まれる魔王。

 ちなみにこれは攻撃呪文じゃなく、敵1グループに致命的なバッドステータスを確実にもたらす補助系の魔法だ。

 ただし、【陥夢(スリープ)】や【痺像(パラライズ)】と言った並の補助魔法と異なり、たとえ対象の魔法抵抗力がどれだけ高くともお構いなし。しかも、効果は高位の回復魔法などで解呪するまで半永久的に持続するといういやらしさ。

 問題は、その“状態異常(バッドステータス)”の内容を任意に選択できないことなんだが……。

 (できれば“石化”か“麻痺”あたりだと助かるんだがなぁ。猛毒や鈍足、筋力低下あたりでもOKだ)

 逆に“沈黙(魔法使用不可)”や“精神消耗(魔力が徐々に減る)”あたりだと、この魔王にはあんまり意味ねーし。


 「くっ……やってくれたな」

 もうもうたる煙の中から、魔王の声らしきものが聞こえる。

 (お、少なくとも“沈黙”じゃなかったか、ラッキー)

 けど、なんか奴の声がおかしくなかったか? 妙に甲高いと言うか……。


 「油断していたとはいえ、この我にまともに魔法をかけるとは、流石だと褒めてやろう。しかし、ここからはそうはいかんぞ。我が魔剣の錆にしてくれるわ!」

 威勢のいい言葉とは裏腹に、剣にすがるようにしてヨロヨロと煙の中から現れたのは……。

 「お、女の子ォ!?」


 「なにッ、女の子だと? ちっ、どこから紛れ込んだのか知らんが、ここは男の戦場だ。女はすっ込んでろ!」

 えーと、信じ難いが、この口ぶりからすると、やっぱ、この角の生えた女の子が、さっきまで戦っていた魔王その人なのか。

 いや、オレの装備してる「密偵の片眼鏡スカウター」にも、確かに「種族:鬼魔族(♀)/クラス:魔王/レベル:1」ってデータが表示されてるんだけど。


 「おい、そこの貴様! 貴様も勇者のハシクレなら、その女の子とやらを保護してやらんか」

 ──さっきから思ってたんだけど、この魔王、微妙に“いい人”(魔族だけど)だよなぁ。今時多いカッコだけ騎士のオサレナイト(笑)どもより、よっぽど正々堂々とした紳士っぽいし。

 「えっと……本当にいいのか、保護しちゃって」

 「ふん、心配せんでも、魔王の誇りに懸けて、我は逃げも隠れもせぬわ」

 うーん……ま、本人の了解が得られたんだし、いっか。

 オレは、剣を収め、この部屋に入った時に外して床に置いたマントを拾ってから、“保護すべき女の子”の前につかつかと歩み寄る。

 「な、なんだ、どうした貴様、何をするつもり……」


 ──フワサッ……


 微妙に腰が引けている魔王っ()にオレは、マントをかけてやった。

 「? 何のつもりだ」

 「いや、さすがにその格好で表を歩くのはちょっと……」

 真紅の袖無しレオタード(しかも背中はほとんど丸出し)にニーハイブーツという服装は、正直すごく萌えるが、いくらなんでも過酷な環境の魔界をその格好で出歩くのは無謀だ。今時、サッキュバスの盛装だって、もうちょっと露出が低いし。

 ……と言うか、服装まで変わってるのな。凄いぞ、遺失呪文!


 「?? 何を無言っておるのだ。我は、“女の子”とやらを保護せよ、と言ったのだぞ?」

 「うん、だから、そうしてる」

 魔王娘の見かけは、身長や顔つきからすると、人間で言えばおおよそ13、4歳と言うところか。オレより頭ひとつ分背が低く、栗色の髪を腰までなびかせ、美人と言うより可愛いタイプの容貌だが、胸だけは年齢不相応に発達してる。いわゆる童顔巨乳ってヤツだな。

 正直、好みのタイプ直撃だった。

 ロリコンじゃないぞ? オレまだ19歳だから、5歳差くらいなら十分セーフだろ? 「大学生の彼氏とおつきあいする中学生の女の子」って、普通にいそうだし。

 ──そう、オレは、この「わけがわからないよ」と言った顔つきで、キョトンとしている魔王ちゃんを“お持ち帰り”する気満々なのだ!


 * * * 


 「──と言うわけで、オレたちは今、魔界に近い辺境の宿屋に来ています」

 「ヲイ、こら待て! 何が「と言うワケ」なのだ? サッパリわけがわからんぞ!」

 ははは、目を白黒させてる魔王ちゃんも可愛いなぁ。

 「だいたい、つい先刻まで我と汝は我が城の最深部で戦っていたはずであろう?」

 うん。でも、あのままじゃラチがあかないので、【陥夢】の魔法で魔王ちゃんを眠らせた後、【脱窟(エスケイプ)】で外に出て、で、【帰還(リターン)】の呪文で最後に立ち寄ったこの町にキミをお姫様抱っこして戻って来たのサ!

 「えぇい、爽やかな口調で言うな! それは誘拐とか拉致と言うのだ!」

 ラチがあかないだけに拉致……魔王ちゃん、巧いこと言うねぇ。

 「そ、そうか(テレテレ)……って違~~う! そもそも、我と汝は魔王と勇者。不倶戴天の天敵ではないか!!」

 うーん、そりゃまぁ、一般的に見ればそうかもしんないけど……。

 「“そういう決まりだから”ってだけで、戦い殺し合うだけの関係なんて、空しくね?」

 「! な、何を……」

 お、動揺してる。

 いや、あれだけ紳士で騎士道的な魔王ちゃんだから、物の道理を説き聞かせれば、それを無視できないと踏んでたんだけど、やっぱりなぁ。

 人が良いって言うか素直(ちょろい)って言うか──“王”を名乗るには向かん人材(魔材?)だよ。


 「そもそも、魔界の代表たる“魔王”と人界の代表たる“勇者”の戦い──「人魔決戦」は、どちらかが敗北した時点で速やかにお開きとなるはずだろ?」

 実は、オレ……とその他数名の“勇者”は、RPGなんかでよくある「魔族の人間世界への侵攻」を退けるために戦っているわけじゃないのだ。

 いや、大昔は本当にそういう時期もあったみたいなんだけど、今では人界と魔界は相互に協定を結んで、完全に友好的とは言わないまでも“好意的中立”くらいの関係を長らく保っている。

 これは、人間と魔族の間で大々的な戦争を起こすと、双方の被害がハンパないことになることを両方の王様がしみじみ痛感したため、300年ほど前に正式に停戦協定を結んで、今に至るらしい。

 人間界でも、大陸中央はともかくここくらいの辺境国家になると魔族の商人とか普通に街中歩いて商売してたりするし、逆も然り。

 民間レベルでの交流は結構できてるし、共存共栄とまでは言わないまでも、魔族と人間はそれなりに巧くやれてるのだ。


 とは言え、人間同士あるいは魔族内でも国家間、部族間の争いは頻発するのに、異なる種族間で揉め事がまったく起こらないなんてこともあり得ない。

 そこで、協定を結んだ両陣営のトップが考えたのが、この「人魔決戦」──それぞれの最高実力者による古えの戦いを模した、100年ごとの代表戦だった。

 人間側は、代表である“勇者”を1~9人の任意の数送り出す。

 魔族側は、代表である“魔王”が魔王城の最奥部で勇者を迎え撃つ。

 勇者は、その旅の途上で魔物を始め人間の賊も含めた“敵”を討伐する権限を持ち、腕を磨きながら魔王城を目指し、魔王は任意の部下を派遣してそれを阻む。

 ただし、双方にルールと言うかレギュレーションがあって、勇者は魔界に近づくにつれていい武器防具を買えるようになるし、魔王側も魔王城に近いほど強い魔族を派遣できる。

 勇者は事前の特殊な儀式魔法のおかげで、死んでも王都の神殿に転送されて復活できるが、代わりに持ち物と所持金が全て没収ート(先に進んだ奴ほど大概はそれで嫌気がさしてリタイアするらしい)。

 「あ、オレ? オレも冒険始めた序盤に2回ほど死んだけど、ほら、主戦力が魔法だからさ。あんまし装備の力に頼ってなかったし」

 今使ってる剣も、かなり高価とは言え王都の近くの工業都市ゾリンで普通に買える折刃剣(ソードブレイカー)だしなぁ。

 「……つくづく、インチキな奴め」

 「ははは、お褒めに預かり恐悦至極」

 「褒めとらんわ!」


 そしていよいよ勇者が魔王のもとにたどり着いたら最終決戦開始。勝った陣営が負けた陣営に対して、境界線上の領土だの関税率だの法制だのの、いくつかの政治的アドバンテージを得るってワケだ。

 「で、あの時、オレの【無作為超変異】を食らったキミは、女性化したうえレベル1になって、持ってる魔剣すらまともに振るえない身になった」

 「それは……」

 「あ、ちなみに、例の魔剣はちゃんと回収して持って来てあるから」

 「そ、そうか。それはかたじけない……って、何で我が貴様に礼を言わねばならんのだ!」

 目まぐるしく表情の変わる魔王ちゃんのラブリーな様子を楽しみつつも、ここは非情になって断言する。

 「はっきり言おう。キミはあの時負けたんだよ。魔王の敗北、言い換えると勇者であるオレの勝利をもって、第四次人魔決戦は幕を閉じた」

 「!!」

 薄々は理解していたんだろうけど、改めてその事実を突き付けられて、ショックを受けた様子の魔王ちゃん。

 「そう…か。我は負けたのだな……ククククッ」

 嗚呼、自嘲の笑みを浮かべつつ、ハラハラと真珠の如き涙を流し続けて無言ですすり泣く少女の何と可憐なことよ。

 オレは、黙って胸元に魔王ちゃんを抱きしめ、泣き続ける彼女の頭を優しく撫でてやる。彼女も今だけはその気遣いに感謝したのか抵抗しなかった。


 「み、見苦しいところを見せたな」

 しばしの後、オレの渡したハンカチで涙を拭きつつ、真っ赤になりながらも何とか威厳を取り戻そうとする魔王ちゃん、けなげ可愛い!

 まぁ、ここでソレを口にする程、オレもKYじゃない。

 「それで、今回の決戦の事後処理じゃが……」

 「あ、その辺りは既にウチの王さんに連絡して進めてあるから。魔族(ソッチ)の側からも、すでに龍族から特使って人(龍?)が王都に向かったみたい」

 「そ、そうか……今更我にできることはないのじゃな……」

 ズズーンと落ち込む魔王ちゃん。

 予想通り武力──と言うか剣技一辺倒のお飾り魔王様だったみたいだなぁ。人魔決戦の時期には、そういう脳筋系魔王が選ばれるのはよくあることらしいし。

 たぶん、政治関連の事柄は、戦いのとき言ってた重臣連中に牛耳られていたんだろう。

 でも……。

 「いや、ひとつあるよ。人魔決戦のご褒美をオレに与えて欲しい」

 「ん? なんじゃ、それは。確かに、人魔両陣営の施策以外に、戦いに勝利した個人にもひとつ褒章が与えられるのが習わしではあるが……」

 そう、これがあるからこそ、バトルマニアでもないのに勇者なんてヤクザな職業(しょうばい)を続けてこれたのだ。

 オレみたく、異世界から召喚された人間は、たいてい“元の世界への帰還”を願うらしいけど、オレには別の思惑があった。

 「それはお主らの王から貰うべきであろう?」

 「うん、ウチの王様の承認は得てるんだけど、でも、キミの許可がないと意味ないものなんだ」

 「なるほど、我が城の秘蔵の宝物か何かか。フッ、よかろう。我が敗北した以上、じきに次の魔王が選出され即位するじゃろうが、それまではまがりなりにも我が王だ。好きなものを持って行くがよい」

 おお、魔王様本人の言質を取ったぜ。

 「──二言はないよね?」

 「うむ、我が誇りに誓って。それで、お主は何を所望するのだ?」

 「オレは──」

 大きく息を吸い込んで、ハッキリと宣言する。

 「オレは、キミを嫁に欲しい!」


 * * * 


 「──と言うわけで、オレたちはこれからまさに新婚初夜を迎えようとしています」

 「またか!? これがお笑いで言うテンドンなのか!? と言うか、人生で一番大事な伴侶を娶る式典をスッ飛ばすとは何事じゃ!」

 純白の婚礼衣装のまま、角を振り立てて怒るマイハニーこと魔王ちゃん。


 「あれ。じゃあ、魔王ちゃんもオレとの結婚に至る過程と婚礼を大事だと思ってくれてるんだ」

 ──ニヤニヤニヤ……

 擬態語で表すとまさにそんな感じになりそうな人の悪い笑顔を向けるオレの言葉に、ハッと我に返った魔王ちゃんが、真っ赤になって狼狽している様が、めっさかわえぇ~。

 「そ、それは……ふ、ふん。我にとって生涯初にしておそらくは一度きりの行事じゃからな。いかに其方(そなた)の希望に対し魔王として応えた結果と言えど、仇や疎かにはできぬ!」

 お、開き直ったか。

 とは言え、確かに“大事な場面”だからな。よーし、気合い入れて回想すっぞー!


 * * * 


 「は、はぁ!? な、何をバカな事を申しておるか。そもそも、今はこんな情けない姿になっておるとは言え、我は本来男で、しかも魔王なのじゃぞ!?」

 オレが「嫁に欲しい」と言った時の魔王ちゃんの反応は、今思い返してもおかしくなるほど無茶苦茶狼狽してたなぁ。

 「や、でも、それって裏を返せば、“現在はたおやかで可愛らしい女の子”ってコトだろ。それに、第三次人魔決戦に勝った魔王が、剣を交わした当時の女勇者を妃にしたって聞いてるけど?」

 「……存じておる。そのふたりは我の祖父母にあたるでな」

 魔王ちゃんいわく、“魔王”の地位は世襲ではないものの、事実上魔界の有力な7~8家から選ばれることが殆どらしい。で、魔王ちゃんの母方の家柄も、その中に含まれているのだとか。

 「魔王が勇者を娶った前例があるなら、勇者が魔王をお嫁さんにしたって別段構わないんじゃない?」

 「そ、それは……」

 なまじ、理性的で物事の道理をわきまえた“彼女”は、オレの言葉に対する巧い反論が見つからないらしい。

 しかも、(勝手に勘違いしていたとは言え)ついさっき「魔王の誇りに賭けて」「好きなものを持って行くがよい」って言ったばかりだし。

 「おっと、安心してくれ。何も今すぐ君を押し倒そうってワケじゃない。マジックアイテムでメッセージを飛ばしたとは言え、一応“目標を達成した勇者”として王都に帰って直接王様に報告するのが筋だろうしな」

 「う、うむ。そうじゃな。それが勇者としてあるべき態度であろう」

 「で、その足で王都の教会がキミと式を挙げたいと思ってるんだ」

 「はぁ!? ま、まさかとは思うが……その“式”と言うのはもしかして……」

 「もちろん、オレ達の結婚式さ!」

 キラリと歯を光らせながらイイ笑顔で答えるオレ。うむ、あーいうのは金持ちのキザハンサムしかできんと思ってたけど、何とかなるモンなんだな。

 そして、それに対する魔王ちゃんの反応は……。

 「──汝、本気なのじゃな?」

 「馬鹿者」と罵倒するでもなく、「フザケるな!」と激昂するでもなく、むしろ低めの声で今までにない程真剣な目付きをしていた。

 「無論。オレは確かに軽口好きで、シリアスになるよりは笑って過ごす方が好きなタチだけど、生涯の伴侶を娶るという一世一代の勝負所で、冗談は言わないさ」

 此処が勝負の分かれ目と直感したオレは、極力真面目な表情で答える。


 時間にすればわずか十数秒。しかしオレには永遠にも思える沈黙の後、魔王ちゃんはゆっくりと頷いてくれた。

 「わかった。どの道、魔王の地位をクビになれば行き所のない此の身だ。決闘の勝者たる汝が望むのなら、妻でも(はしため)にでもなろう」

 ぃ……。

 「い?」

 「ぃやったーーーー!!」

 「! こ、こら、いきなり大声を出すな。近所迷惑であろう」

 魔王のくせに(?)妙に良識的な彼女がたしなめるのも耳に入らず、オレは両目から滝のような“感激の涙”を流しながら、人生最大級の感動を噛みしめていた。

 「お、大げさなヤツだ。我のごときハンパ者を娶るのがそんなに嬉しいのか?」

 「もちろんだよ!」

 グイッと彼女の両手を握ると、彼女の瞳を覗き込む。

 「それから、魔王ちゃん、これから必要以上に自分を卑下するのは禁止。キミが本当に強かったことは、四代目正統勇者であるオレが、しっかり認めてるんだから」

 「……ふ、ふん。まぁ、いいだろう。夫の言う事は妻としては無碍にはできぬからな」

 (ツンデレキターーーーッ!)

 という心の叫びはかろうじて口から出さずに済んだが、オレの(精神的な意味での)HPがヤバい。圧倒的じゃないか、この萌えっ娘は!


 ともあれ、その後も魔王ちゃんのツンデレ全開な言動に萌え殺されそうになりつつ、なんとか王宮で報告を済ました。そこで「望みのままの報償を」と言われたものの、人生最大の欲しいものは、すでに手に入れちゃったしなぁ。

 「ま、まさかと思うが……それが我だとか言うのではなかろうな?」

 イェース、ザッツ・ライト!

 正確には“可愛くて気立てがよく働き者の嫁さん”かな。

 「──ふ、ふん。おだてても何も出せんぞ。それにしても、自国の王の前であれだけ堂々とデタラメを並べ立てるとは……」

 ん? オレとしては別段嘘八百を並べ立てたつもりはないんだけど?

 報奨くれるって言うから、マイハニーと結婚してどこか辺境の村でひっそり余生を暮らすことを願い出ただけじゃん。

 「ほほぅ、しかし、我のことを「魔王城から助け出した魔族の少女で、どうやら城で無理矢理働かされていたらしい」と紹介したではないか」

 ええ、その通りですが何か? 一言も嘘は言ってないぞ、嘘は。

 今のキミは、紛れもなく“魔族の少女”だし。

 「お主、勇者なんぞやってるより詐欺師にでもなった方がよいのではないか? それに後半部分は……」

 「好きで“魔王”やってたわけじゃないだろ? むしろ勇者対策に一時的に押しつけられたって方が正確だろうし」

 そうでなければ──“彼”が実力で魔王の地位を勝ち取ったのなら、少なくとも城に直属(こがい)の部下の一団なりがいたはずだ。

 おおかた、勇者の剣技に対抗すべく、剣術に特化した(そしてそれしか能のない)“彼”が選ばれ、今代の魔王の椅子を押しつけられたに違いない。

 「……む、当たらずと言えども遠からずじゃな」

 う~ん、外見年齢(とし)に似合わぬ憂いを帯びた表情も、ビューティフルだぜ、ハニー!

 「ええい、こういう時くらいしんみりさせよ! それにしても、我の素性の説明(ごまかし)はともかく、辺境で開拓業を営むとは、汝にしてはエラく立派なお題目ではないか」

 ありゃ、もしかして、オレって、そんなに信用ない? 心外だなぁ~。これでも(主に人間社会の)平和のために戦った“勇者”のハシクレなのに。

 「どの口がぬかしおるか。

 ──いや、待て。確か勇者として異界より召喚されるのは、自らの利害をなげうって他の者のために戦える人間のみだと、書物で読んだ記憶があるな。ふぅむ……此奴(こやつ)がのぅ」

 その意外感120%の視線はやめてくれないかい、マイワイフよ。

 確かにオレはマイペースなちゃっかり者で、「正義!」とか「秩序!」とかいう代物にあまり熱心な方じゃないけど、それでも小市民的道徳倫理観くらいは持ち合わせてるんだからさぁ。

 「汝の言う“小市民”は元魔王を拉致して自分の嫁にするのか?」(じと~)

 アウチ! 確かにソレを言われると反論できないなぁ。

 ま、それはともかく、一応、これでも色々考えた挙句の結論なんだよ?

 今、人間界と魔界の間は、ごく一部で交流があるものの、あくまで全体としては相互不干渉という状態にある。これは、“長年の対立”と“種族的価値観の差異”というものに基づくと言ってよい。

 しかし実際には、前者は、すでに300年間ものあいだ事実上の平和状態が続くことによって、その意味を実質的に失い、後者に至っても……って聞いてる?

 「zzz……ハッ! む、無論、聞いておるぞ! 居眠りなんぞしておらぬからな!!」

 ──えっと、簡潔に言うと、「人間と魔族の間の垣根をもう少しだけ低くしましょう」ってことが狙いなんだ……将来生まれてくるオレたちの子供のためにも、ね。

 「! ……すまぬ。我は其方そなたを見くびっておったようじゃ」

 や、別にいいよ。開拓村の村長さんの仕事はそれなりにハードそうだけど、それでもお互いの理解を深める時間くらいは、これからいくらでもあるだろうし。

 「そう、じゃな……」

 うんうん。

 ──と言うワケで、早速、健やかベイビーができるようなイイコトしようぜ、奥さん!

 「そ、其方というヤツは……折角、見直したばかりじゃと言うに」

 呆れたように苦笑しつつも、魔王ちゃんはオレのハグを拒まなかった。

 それをいいことに、オレはギュッと強く抱きしめる。

 そして彼女の手も、おずおずと俺の腰に回され……俺たちは出会ってから初めてその心をひとつにしたのだった。


 * * * 


 諸々の些事を経て、ようやく魔王ちゃんとの結婚式を迎えることができたオレの心は、もはや昼間っからクライマックス状態というワケだ。


 あまり女性経験豊富と言えないオレには、凝った手練手管が使えるわけじゃないし、抱き上げた彼女をベッドに横たえ、最初はただ強く、思いのたけを込めて彼女を抱きしめた。

 それに対し彼女は最初は身体を堅くしていたものの、唇や頬、まぶたやうなじなどにキスの雨を降らし、両掌で彼女の華奢な肩をなだめるように撫でていると、少しずつその身体から力が抜けて行った。

 オレは、いつしか熱い吐息を漏らすようになった彼女の唇を自らの口で塞ぐ。

 同時に、彼女の方からも、おずおずとオレの唇を啄ばみ始めた。

 オレが舌を差し込んで彼女の綺麗な歯並びをなぞると、対して彼女はその舌に自らの舌を絡めてくる。

 口腔内で互いの舌が絡み合い、それに伴い唾液の交換をも繰り返す。

 キスだけでボルテージが高まりつつあるなか、オレの手はゆっくりと彼女の肢体を弄り始めた。

 恍惚としていた彼女も、さすがに一瞬身体を固くしたが、直ぐに再び力を抜いて、その身を委ねてくれた。


 …………


 で、新婚初夜の翌日は、すっかり甘甘らぶらぶになったマイ・ワイフとともに、王都を一通り観光してから、オレは王様に領地としてもらった辺境の開拓地へと向かい、そこの領主に就任した。

 ──どっちかって言うと、“領主”って言うよりは“村長”ってほうがピッタリくるんだけどな。

 「よいではないか。領主と領民が一体となって日々の労働に励むなど、王国全土を探しても珍しかろうて。村の民も皆善良で気さくな者ばかりであるし」

 いや、まぁ、そうなんですけどね~。

 ま、とりあえずオレの人生の目的である「美人で気立てのいい嫁さんもらって悠々自適のラブラブ生活」は達成できたんだから、良しとするか。

 「こ、コラ、そういう事は往来で口にすべきことではないぞ」

 マイハニーは、結婚して丸一年が経つというのに、いまだこういうコトでは恥ずかしがり屋さんだ。まぁ、そこが可愛いのだが……。

 「はぁ~まったく。そろそろパパになるのだから、もうちょっと落ち着いてくれてもよいと思うがな」

 ! マジで?

 「うむ。昨日、診療所のデプリス殿に診察してもらった結果故、まず間違いなかろう」

 ヒャッホー!

 あれ、でも、なんで昨晩、教えてくれなかったの?

 「たわけ! 昨夜は、夕飯の後、言おうとしたら其方が……」

 ん? ああ、なんだか知んないけど、モヂモヂしてるハニーの様子が可愛くて、そのまま押し倒しちゃったんだっけ。

 「!! だ、だから、そういうコトをだな」

 あー、はいはい。了解しました、奥方殿。

 しかし……そうか、子供か。

 よーし、パパ、ますます頑張っちゃうぞ!


 ──その後、オレと元魔王の間に生まれた娘が、異世界から襲来した“邪神”と戦う勇者に選ばれたりするのだが、それはまた別のお話。

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