1-4トレンカの街
ゴゴゴゴゴゴ
―――来る。
ワーティは、構えた刀に魔力を満たしていく。
ザアッ!!!
植物の塊が、勢いよく森から飛び出してきた。
「<紫電一閃>」
魔力を帯びた刀は植物の檻を砕き、目を回しているドドの胸を打った。
「こいつか?」
気は失わないが反撃できない程度に痛めつけ、ワーティは盗まれた物を奪い返す。
「手間ァ掛けさせやがって。」
「ひぃ・・・ボウズめ・・・」
ガタガタを震える男に、ワーティはあざ笑う様にして告げる。
「ああ、ボウズは禁句なんだよ。」
「ワーティ!」
後を追うようにして現れたマリリンは、火を伴う土で枷を作り出し「よいしょ」とドドの両手にかける。
「マリリン、怪我は無いのか?」
「ん、問題ない。」
「こいつ、一体何者なんだ?」
「取り敢えず市街警護団に引き渡した方が良い、トレンカの街護には父さんの知り合いがいたはず。」
世界魔法を調べているんだって、とマリリンが呟けば、ワーティは目を丸くした。そしてふたりはドドを引きずりながら無言で歩き出した。
「すみません、こちらにアレイ・トルマンさんはいらっしゃいますでしょうか?」
「なんだお前ら、団長に何の用だ?」
市街警護団駐屯所、通称「街護」。王宮魔道騎士団と連携をとり、街や人々の安全を護る武力と頭脳の集団である。
「折り入ってご相談がございまして。」
「魔術学校の生徒がわざわざ?帰れ帰れ、団長はお忙しいんだ。」
マリリンは埒が明かないと、引きずってきたドドをぐいっと差し出す。
「魔導師団に引き渡していただきたい者がいるのです。」
「なんだと?」
「どうしたんだ?トリア。」
すると通りがかったオールバックの中年男性が、若い街護員に声をかけた。
「おや?バーユイさんとこのお子さんじゃないか。」
「ええっ?!ウィルバート様の?!」
「はい、マリリン・ウィルバートといいます。彼は友人のワーティ・アルマンです。」
「ア、アルマンって・・・まさか王宮騎士団エドワルド・アルマン氏と関係が?!」
「僕の兄です。」
トリアと呼ばれた彼は、目を白黒させた。
「トルマン団長、彼らが魔導師団に引き渡して欲しい人物がいるということで・・・」
「ほう。それにしても、なんだってこんなところへ?君らは学院生じゃなかったかな?」
「ええ、少しばかり不具合がありまして・・・」
ちらりとトリアのほうを見ると、トルマンは察したようにして頷く。
「大丈夫だ、トリアはこう見えて口は固い。それに、ウィルバート家の名前を聞けばわかる者にはわかる。」
「では、簡潔に・・・世界魔法についての研究成果が、外部に持ち出されそうになりました。こいつが実行犯ですので、取り調べをお願いしたく参りました。」
「わかった、身柄をあずかろう。」
トリアに「連れて行け」と言ってドドを引き渡そうとすれば、気を失っていた彼はうなされる様にしてモゴモゴと何かを言った。
「俺は、俺のせいじゃない。悪いのはみんなアイツだ・・・俺は世界魔法なんて知らない・・・」
「黙って歩け。」
有無を言わさずにドドを立ち上がらせて連れて行こうとするトリアの腕を、マリリンが掴んだ。
「何を・・・?」
「なにか、何かドドが・・・」
「魔王のせいだ・・・」
俺は魔王に、操られていただけだ。