『見るモノ』 其の一
「え?誘拐・・・ですか??」
此処は『私立霧華高等学校』の理事長室。
私立霧華高等学校と言うのは、私が華音さんより引き継いで理事長をやっている学校だ。
ちなみに、私の母校でもある。
何時も通りに、霧華の大学部に行っていた私に、放送で呼び出しがかかった。
正直・・・校内放送で「桃井香奈理事長、桃井香奈理事長、至急高等部の理事長室までお越しください。」ってフルネームで呼ぶのは勘弁して・・・講義室を出る時に「え?あの人が理事長なの?」的な視線とひそひそ話がしてたんだから・・・でも、それどころでは無い、緊急事態だった。
理事長室に着くなり、「2年生の生徒が誘拐されましたっ」と校長から告げられたのだ。
「詳しく話してください。」
私は奥のちょっと偉そうな椅子に座ると、校長に説明を求める。
2年生の生徒『加瀬千佳』は、昨日の朝の登校中に何者かに連れ去られた・・・可能性がある。
朝何時も通りに学校に行ったと、親御さんの証言があるが、学校は欠席している。その後、夜遅くになっても、帰宅しないので親御さんが捜索願いを出した。
「家出の可能性は?」
「・・・低いと思います。学校内、家庭内でも問題の有った生徒ではありません。」
「彼女の家は、この辺りでかなり大きい水産加工会社です。その線を狙った誘拐事件では無いかと、警察の方の見解です。」
「社長令嬢・・・って訳ね。」
この霧華高等学校・・・小中高、大学まで一貫教育なんだけど・・・は、近年共学化がされたとは言え、元お嬢様学校。
裕福な家庭の人も多い。私の家は、そうでも無かったんだけどね。
「でも、それならば、身代金の要求とか無いんですか?」
「ええ、今のところは・・・」
「・・・失礼。」
校長の持っていたスマホがなる。
どうやら、加瀬千佳に関するところみたい。
私は此処までの情報を整理してみる。まあ、校長の話を聞いただけだけど。
・・・正直、どちらとも確定できない状況だと思う。
警察の方も、この辺りで有名な会社の社長令嬢・・・って事で、誘拐の線で進めているんだと思う。
なんて、考えていたら・・・
「警察からでした。捜査状況は芳しくないようです。」
進展なし・・・ね。
あれ?警察ってこんなに逐一報告入れてくるものなの??
「それで・・・ですね。」
「警察の方からで、是非、香奈様の御チカラをお借りしたい・・・と。」
「・・・え?」
ああ・・・そういう事ね。
まあ、私が理事長を務める学校で誘拐事件が起こったのだから、その報告があるのは当然だけど、警察の方から逐一情報を入れてくるっていうのは、私に捜査協力を頼みたいから・・・と。
「わかりました。私は店の方に戻りますので、店の方に来てくださいと伝えてください。」
「はい。」
言って校長は、警察の方と電話のやり取りをする。
私は電話が終わるのを待つ。
「直ぐに霧島華音に行くとの事です。」
「そうですか、では私は店に帰ります。」
「学校の方は宜しくお願いしますね。」
学校の方は校長に任せ、私は霧島華音へと戻った。
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「ただいま。」
「おかえりなさい。香奈ちゃん」(お帰り、香奈。)
霧島華音に帰ると、何時もの様に一人と一匹に迎えられる。
「今日は早いんだね。まだ講義があったんじゃないの?」
「あ〜それなんだけどね・・・」
私は花子さんとかのんさんに事情を説明する。
「・・・って訳なの。」
(ふむ、失踪事件の捜査協力か・・・ならば、『占術』・・・『フォーチュナー』だろう。)
「はい、私もそう考えます。」
「花子さん、警察の方もそろそろ見えるだろうし、準備しちゃいましょう。」
花子さんは店の奥の扉を衣裳部屋へと”繋げる”
身につける衣装はフォーチュナー。
オリエンタルな占い師を思わせる衣装。
この衣装は普段のゴシックプリンセスとは違い魔術は使えない。その代り占術が使える。
・・・簡単に言えば、占いの凄いバージョンなんだけどね。
私はフォーチュナーに着替えると、応接室で警察の方を待つ事にする。
暫くして、店の扉がノックされる。
コンコン
2回なので一応・・・花子さんが対応する。
「はーい。」
「警察の者です。香奈様の御チカラを借りる様にと・・・」
少しの間があり、花子さんが応接室へと案内してきた。
「警察の方・・・ですね?私は桃井香奈。霧島華音の店主です。」(にゃー)
「にゃ、にゃー?」
「もう、かのんさんっお茶目な悪戯しないで下さいっ」
「ほら、にゃーは猫さんですっ!!」
私は、かのんさんを持ち上げると、びしっと警察の方に見せる。
かのんさんは、私の手を振りほどくと、結局はテーブルの隅で丸くなった。
「い、いや・・・にゃ、にゃーもそうですが、随分個性的な服を・・・い、いえ・・・」
「・・・も、申し遅れました。チバ県警捜査1課の堂島と言います。」
チャっと、警察手帳を見せる。
あ〜ドラマみたいに見せる人も居るんだね。こういうのはドラマだけかと思ってたよ。
てか、今、個性的なとか言いかけたよね!?
む〜〜〜〜仕事着だもんコスプレじゃないもん。
「ど、どうかしましたか?」
私の態度が不機嫌に見えたみたい。
私はなるべく冷静に話始める。
「いえ、何でも無いです。」
「それで、私に協力を仰ぎたいとの事ですが?」
「はい、先ずは此れまで分かっている事を説明したいのですが・・・」
「そうですね。あ、・・・お掛けください。」
「花子さん・・・お茶をお願いします。」
私は、向かいのソファーを進める。
「失礼します」と言って、堂島刑事はソファーに座る。
「それでは、お願いします。」
「はい、先ずは・・・」
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基本的に1週間に1回の更新になります。
次回更新は 5月22日の14時30分頃になります。