『願いを叶えてくれるコイン』 其の二
「え?ぶちのめすって・・・」
「ん?言葉通りの意味だよ?」
私のぶちのめす発言に驚く依子ちゃん。
・・・ああ、私も初めて華音さんにあった時に悪魔を倒すの見て驚いたっけね。
「えっと・・・そんな事出来るんですか?」
「出来るよ?」
正直楽勝だと思う。
この『コインの悪魔』はっきり言えば雑魚だと思う。
私が遭遇した『壺の悪魔』は、その場で願いを叶えられた。そして叶えた分だけ魂を取られるってヤツ。
つまりは最初からその位のチカラは備えているって事。
でもこのコインの悪魔は、条件を突き付けてその場では叶えない。
・・・ひょっとしたら、叶えるチカラすら無いのかも知れない。
まあ、人の欲望をチカラにとか、絶望させておいて・・・とか、無い事も無いけどね。
兎に角、コインの悪魔は壺の悪魔より数段格下って事ね。
当然、雑魚だからって侮ったりはしない。
私もチカラをつけて間もないからね。
「ま、サクサクやっちゃおうか。」
「先ずはそうだね・・・そのコインを私に売ってくれないかな?」
はいっと依子ちゃんに硬貨を手渡す。
「えっと、これは?」
「1銭。1円の1/100だよ。」
依子ちゃんは恐る恐るコインを差し出す。
「ん、これで契約成立ね。」
「花子さん。結界の部屋に。」
「はーい。」
がちゃっと、先程、衣裳部屋に通じていた部屋の扉を開ける。
でも、”繋がった”先は広い石作りのホール・・・『結界部屋』。
「え?ここ・・・店の中・・・なんですか?」
依子ちゃんの疑問は尤もだ。
そもそも、この広さのホールが『霧島華音』の中にある筈が無い。
「勿論違うよ。」
『扉があれば何処にでも移動できる』
通称、どこでも・・・コホン。
厠神・・・トイレの花子さんである花子さんのチカラ。
さてと・・・
私はぽいっとコインを投げ、すたすたと歩み寄り・・・ふみっ・・・踏みつける。
「ほら、あの子はコインを私に売ったよ?」
「さっさと、あの子の願いを叶えたらどうかな?」
もわっ
私の足の下で、瘴気が生まれる。
「ククク・・・そんなものは知らん。」
「大体、願いを聞くとは言ったが、叶えるとは一言も言ってない。」
「あ〜〜そういう系ね。」
「屁理屈で、有耶無耶にして、そんなチカラ最初から無いもんねぇ♪」
ぐりぐりぐり・・・
「うわ〜香奈ちゃんSだねぇ」
「そお?『女の子に踏みつけられるのはご褒美』って何かで読んだ気もするけど?」
「それ、一部の人にだけだからね?」
ぐりぐりぐりぐり・・・
足蹴にしながら、『魔術』の詠唱を始める。
「えっと・・・ものすごーく緊張感が無い気がするんですけど?」
私と花子さんの会話に依子ちゃんのツッコミが入る。
「そうかな?気のせいだよ??」
緊張感が無い様に見えるかもしれないけど、別に油断とかしている訳じゃない。
現に、足でぐりぐりしながらコインの瘴気を散らしているのだ。
実は、ぐいっぐいっとコインも抵抗をしていたりするのよね。
「おま、足をどけぬか!」
「あら、失礼。女の子の足すら退けられぬ程の弱者だとは思わなかったわ。」
悲しいかな、抵抗すら出来て無いんだけどね。
魔術の詠唱が完了する。実は会話しながらも、ちまちまやっていたのよね。
私は足を退け、コインを拾い上げる。
「これでいいかな?」
「お前!この俺様を足蹴にした罪・・・」
「あーもう、面倒くさいな。」
ぴーんとコインを指で上に弾く。
・・・そして、狙いを定め魔法を発動する。
『閃熱爆炎』
私の右手から放たれた熱線は、コインに触れると轟炎となる。
華音さんが最も得意としていた魔術だ。
「ちょ、ま・・・」
ぶしゅう。
コインは跡形も無く消滅した。
「あ、私の願いを言ってなかったよね。・・・消滅して下さい。」
私は思い出したかのように言うと、くるりと振り向き、そのまま元の部屋に戻った。
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「はい、これで依頼は完了だね。」
「あ、ありがとうございます。」
まだ、ぽかーんっとしている依子ちゃん。
そして、はっした表情になる。
「あ、報酬の事・・・聞いてなかったんですけど・・・いくら払えば・・・」
「そうだね・・・」
私は考える”フリ”をする。
ちらっと『壺』の方を見たりもする。
「えっと、その・・・私、バイトして払いますから、絶対払いますから・・・」
あ、あれ??ちょっと怖がってる!?
ぶっちゃけ、報酬とか貰う気なんて全く無いんだけど!?
何か依子ちゃん・・・華音さんに会う前の私みたいで・・・他人って気がしないし。
「もう、香奈ちゃん。悪ふざけが過ぎます。」
「まったく、こんな所は華音様の真似をしなくても良いんだからね。」
「あはは・・・えっと・・・いっつかなじょーく?」
「え?じょーく??」
あ、また訳が分からないって顔してる。
私は慌てて続ける。
「えっと・・・そうね、報酬はさっきの1銭と紙幣でいいわ。」
「え?それって・・・」
「うん、別に大した事してないしね。」
(うむ、香奈の魔術の練習にちょうど良かった。)
「また猫が喋った!?」
「ふ、腹話術でーっす」
私はかのんさんを抱き上げ、「ソウナンダヨー」っと腹話術の真似事をする。
・・・誤魔化せたかな?
依子ちゃんを見る。
クスクスクス・・・
「あはは、はい。これは報酬です。」
依子ちゃんは笑いながら、1銭と紙幣を差し出す。
そして・・・
「香奈さんと花子さんのチカラと、喋る猫の事は秘密にしてあげます。」
「その代り・・・また、遊びに来ても良いですか?」
っと、にっこり笑って言った。
私の答えは当然・・・
「勿論だよ。」
私も笑いながら言った。
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次回の更新は1章のエピローグになります。
次回更新は今日の夕方16時30分頃になります。