家族の優しさ、特訓の締めくくり
一通り話し終えたと思っていたら、大分時間が経ってしまっていた。
「しまった、随分長いこと話し込んじゃったな…うわ、未久から連絡来てるし」
未久からLINEで「遅いけどどうかした?」と来ていた。随分前に。
(まずい…こりゃ怒ってるかな)
[なんでもいいから早く返事してやれ。余計に心配かけてしまうぞ。]
(分かってるよ。というか、お前からそんな言葉が出るとは…)
[正論を言っているだけだ。お前の周囲にいる人間に関してはほぼ好印象を持っているぞ。いい友人と妹をもっているな、遊佐といううるさい奴以外は]
(あ〜、お前と遊佐は確かに合わなそうだな…)
とは言え、レスの口からそんな言葉を聞くとは思わなかった。
未久に「返信遅れてゴメン。もう少ししたら家に帰るから」と返し、沙英にお暇する旨を伝えた。
「うん、分かった。未久ちゃんにちゃんと伝えといてね」
「分かってるさ」
玄関に向かう際、お母さんにお暇することと自分と未久をしばらくここで過ごすことについて話したところ、
「もちろんいいわよ。未久ちゃんにも会いたかった所だし」
と、即OKを貰えた。
「いいんですか?そんな即決で…こっちとしては嬉しいんですけど」
「いいに決まってるじゃない。あなたも未久ちゃんも長い付き合いなんだし、そんな遠慮するような仲じゃないはずよ」
確かに付き合いは長いけれど、それとはまた別問題だと思うのだが…
「それに、そんなことを提案したのは君じゃなくて沙英でしょ?」
「やっぱり分かっちゃいますか」
「君がそんなこと考えそうにないもの。絶対に選ばないでしょ」
「まあ、普通はそうだと思いますが…」
「とにかく、明日からでもウチに来なさい。なんならずっとでもいいのよ」
「いや、さすがにそこまでお世話になるわけにはいかないですから。お気持ちだけ受け取っておきます」
本当いい人だな。だからこそ、今の自分の事情に関わってしまうことに申し訳なさを感じてしまう。
この人を悲しませてはいけないなと思ってしまう。それだけの魅力がこの家族にはある。
「それでは、お邪魔しました」
「また明日ね、正くん」
「ああ…沙英」
「うん、なに?」
正道は照れくさそうにしながら、「ありがとな」と伝えた。
「ううん、私の方こそ」
お互いぎこちないやり取りをしていると、
(…うふふ、初々しいわね)
お母さんがなんだか微笑ましい顔をしているのに気づいて、足早に去ってしまう。
[おーおー、青春ですなー]
(茶化すな)
レスのからかいの言葉をあしらいながら、帰路に着いた。
帰り道の途中、突然レスが話してきた。
[すまん、正道。少し時間取れるか?]
(?どうした、いきなり)
[今後は特訓の時間を取るよりも、あそこにいた方がいいだろう。だから]
レスはそこで一拍おいて、
[これから、実戦状態の練習をしたい。人気のないところに行けるか?]
レスがいきなりそんな提案をしたのも意味があってのことだと思った正道はすぐに了解して、
(ここから近くだと…例の公園だな)
[例の?]
(奴と…俺とお前が最初にあった所だよ)
[…なるほどな]
表情が見れないから分からないが、おそらく笑っているのだろう。
すっかりあそこは俺にとって因縁深い場所になってしまったからな。
そんな理由で、一路その公園に向かうことにした。