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レクイエム・ロード  作者: 捨石凞
第1章 名も無き亡霊編
16/26

沙英の家にて

「久しぶりだな、沙英の家に行くのも。 何年ぶりくらいかな?」

「だいたい、中学入る頃から正くんが来なくなっちゃったから、3年くらいじゃないかな?」

「そうか、まあ色々あったしな……なんか行きづらくなっちゃったんだよな。 高校で別になってからは会うことも少なくなったし」

「でも、連絡くれれば正くんならいつ来てもいいよ。 お父さんたちも歓迎するだろうし」

「……それも行きづらい要因の一つなんだがな」

 沙英の家に着くまで、こうした話をして盛り上がっていた。

 会わなくなったからといって仲が悪くなったわけじゃない。

 これも幼馴染という関係の強みなのかもしれない。

 家に着くまで、話が絶えることも無かった。


「ただいまー」

「お邪魔します」

 沙英の家に着いて、すぐお母さんが出てきた。

「お帰りー、あら正道くん? 久しぶりね」

「は、はい、ご無沙汰してます」

「いやあね、謙遜しちゃって。 そんな気を遣わなくてもいいのよ」

「いや、そういうわけにもいかないですよ」

「そう? でもそんなに固くなってるとおばさん困っちゃうわ。 これからは息子として付き合っていくのに」

「え?」

「もうお母さん、分かりにくい冗談言わないでよ! 正くん困ってるじゃない」

「可愛げがないわね。 そんなんじゃせっかくの旦那さん候補逃しちゃうわよ」

「だーかーら!」

「はは……」

 どうやらお母さんは相変わらずのようだ。

 でも、こんな人だったからこそ助かってたのかもしれない。

「ほら、正くん私の部屋行こ? ここにいたらいつまでもからかわれるよ」

「あ、ああそうだね」

 正道は沙英に引きずられるようにして、彼女の部屋に入っていった。


「ここまで来れば大丈夫だから。 ごめんね、お母さんあんなことを普通に言ってくるから……」

「そんな、気にしてないよ。 相変わらずだなとは思ったけど」

「うう……」

 たわいない話で気を解せたか、正道は沙英と会った頃と比べて大分元気を取り戻していた。

「沙英、実はさ……」

 これなら何の問題もないだろうと思った正道は、本題であるここ最近の自分の身に起こったことを話した。

 余計な混乱を避けるため、レス関連のことは伏せておいたが。

 一通りを話し終えた後、沙英は涙目になっていた。

「そんな……確かにそんな事件が街で起こってるってことは知ってたけど、まさか正くんも襲われてたなんて……」

「まだ過去形に出来ないのが辛いな。 俺を襲った奴は、まだ俺のことを狙ってるかもしれないから」

「警察に頼ることは出来ないの?」

「それも考えたけど……無理だろうな。 何件も起こってるはずなのにパトロールを強化してるくらいしか見てない。 おそらくあっちもどうすることが出来ないんだと思う」

 犯人が人外の化物みたいな奴だからな、捕まえられるはずもない。

「でも! このままじゃ正くんが死んじゃうかもしれないんでしょ!」

「俺だけじゃない……もしかしたらお前も狙われてるかもしれない」

「え? そんな……どうして」

 自分の命が狙われてると言われて、さすがの沙英も動揺している。 分かってたことだけど、伝えるべきと判断した正道はレスと会話していたことを簡潔にまとめて話していく。

「まだ推測かもしれないし、そのことは深く考えなくていい。 ただ、俺が狙われてるのは明白だ。 本当は、誰も巻き込みたくなかったけど……事態は俺の予想以上にマズイことになっちゃっててさ」

 ハハ、とつい乾いた笑いを出してしまう正道。

「しばらくどこかに隠れたりとかは?」

「無理だろうな。 それは何の対策にもならないかも」

「でも!」

「落ち着けって。 沙英、俺はさ」

 正道は沙英を諭すようにこう続ける。

「狙われてる件については自力でどうにかする。 自分の命だし、今までも自分のことは自分てなんとかしてきたしな」

「なんとか出来るの?」

「自分の身に関してはアテはある。 むしろ心配はお前や……未久の方なんだ」

「‼︎ まさか未久ちゃんも」

「今は大丈夫だと思う。 でも、俺と一緒に暮らしてる以上、どうなるか分からない。 でも、そんなことあいつに言ったらどうなるかって思うとどうしても切り出せなくてさ」

「……そうだよね、いきなり言われても理解出来ないよね。 私もまだうまく呑み込めてないし」

 正道は、さらに自分の心中を語った。

「本当は……本当は沙英にも言うべきか迷ってたんだ。 混乱させるだけだと思ってたし、徒らに怖がらせるのもなって思ったんだけど……弱い人間なんだろうな、俺は。 誰かに話を聞いて欲しくて、今の状況を知って欲しくて、ううん、そんなことよりも怖くてたまらなかったってのが一番なんだろうな。 だから、沙英にポロって言っちゃったんだろうな……」

 正道はこれ以上は単なる泣き言だと思い、発言することを憚った。

 沙英もしばらくの間黙ってしまい、お互いが何も言わないまま刻々と時間が過ぎていった。

「……私ね」

 長く沈黙していた沙英は、訥々と話し出した。

「嬉しかったよ、正くんがこうして私に話してくれたこと」

「でも……」

「分かってる、確かに怖いことだよね。 いきなりこんなこと聞かされてすごく動揺してるみたい。 なんか上手くいいたいことが纏まらないけど」

 沙英は笑いながら続ける。

「正くんがこうして私のことを頼って話してくれたこと、喜んじゃってるんだ、私」

「……」

 正道は何も言うことが出来なかった。

 自分は今まで誰かに頼るということをあまりしてこなかった。

 頼るってことは弱さを見せることだ。

 不器用な自分にはそんなのは情けないと思ってしてこなかった。

 いや、出来なかった。

 未久と二人で暮らすようになって、家のことを大抵は出来るようになる必要があった正道は、妥協することが許されなかった。 沙英はそんな自分を見かねて度々助けてくれたが、自分の方から頼るってことはしなかったのかもしれない。

 だから、今こうして自分の心中を吐露したことで沙英はこんなにも喜んでいるのだろう。

 改めて、幼馴染との付き合いに関して反省をすべきだなと思っていた正道に紗枝はある提案をしてきた。

「そうだ! 未久ちゃんをしばらく私の家で暮らすってのはどう?」

「えっ?」

 いきなりの沙英の提案に、ちょっと動揺していたが構わずに彼女は続けていく。

「正くんがまず心配してるのは未久ちゃんが一人になることでしょ。 未久ちゃんが私の家で暮らせば、正くんの心配も少しは減るんじゃないかな?」

「いや、でもそれは……」

「ま〜さ〜くん?」

「ありがたーく、頼らせて頂きます」

 すごまれると対抗できない、弱いな俺。

「でもそうなると、正くんは一人になっちゃうけど大丈夫なの?」

「身を守るアテはあるって言ったろ。 それに……」

 レスの事情を考えれば、ヤツを野放しにはしないだろう。 必ず戦うことになる。

[あいつは必ず始末する。 逃がすつもりはない]

 (分かってるよ、全くツイてないな俺は)

 でもこれで、未久が一人になる時間を減らせるはずだ。

 あとは奴を見つければいいだけ……と思っていたが。

「やっぱり正くんも一緒に泊まろ?」

「いや、俺は大丈夫だって」

「正くんいたほうが未久ちゃんも喜ぶし……私も嬉しいから」

「え? なんだって」

「ううん、なんでも。 とにかく正くんも泊まることは決定事項です! 異論は認めませんっ!」

「おいおい……」

 自分の立てた算段が、ガラガラと崩れ落ちていく音を聞いた。

[まあ、それでもいいんじゃねぇか? 動きにくくはなるが、目のつくところに守りたい奴がいるなら安心できるだろ]

 (それもそうだけど……)

 正道はいきなりの幼馴染との共同生活が始まることに不安を感じながらも、悪くはないかなと思ってる自分もいた。




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