いまできることはなにか?
いつも通り朝食を作っていると、珍しく未久が起きていた。
「お兄ちゃん、おはよう」
「ああ、おはよう。 自分で起きるなんてどうしたんだ? 今日は雨の予報は出てないはずなんだが?」
「ものすごく失礼なこと言われてる……そんなことよりも起きてても平気なの?」
「心配してくれてるのか? だったらお兄ちゃんのことを優しく起こしてもらうとか……」
「そんな冗談言えるくらいなら元気そうだね、よかった」
(露骨なまでにスルーされてしまった。 まあ期待もしてもいないけど)
「でも、昨日の今日だし休んだ方がいいんじゃないの? 体、まだ痛むんでしょ?」
「だーいじょうぶだって。 お兄ちゃんは頑丈だから、あの程度の怪我は問題ありません」
本当は未久の言うようにまだ休んでいたい所だが、正直何の対策もしないままゴロゴロして過ごすのは惜しいので、今日も学校に行くことにする。
(自分が襲われたことで忘れかけてたけど、新しく被害者が増えたわけだしな……)
今の自分が事件とは無関係とは言えない状態となった正道は、まだうまく動かない体にムチをうつように学校へと向かうことにした。
(さて、ここからどう動いていこうか?)
学校に着いてからずっと、正道はこれからの身の振り方を考えていた。
(レス、あいつはまた俺を狙ってくるだろうか?)
[正体を知られているからな。 遅かれ早かれ襲って来るとは思うが……今日明日、ってことはないと思うぞ]
(どうしてそう言い切れるんだ?)
[あいつらは殺人行為をしたいのであって、戦いを好んでいるわけじゃないんだ。 だから、昨日殺しそこねたからってすぐに襲って来るとは思えない。 むしろ、警戒してしばらくは襲って来ないんじゃないかな?]
レスの言葉を信じるのならば、当分の間は身の安全は保証されるのだろう。
(なるほど、殺人行為を何のためらいもなくするようなやつだからそんなのお構いなしだと思っていたけど、なかなかどうして慎重派なんだな)
[とは言え、用心しておくに越したことはないと思うぜ。 そうやって安心している時に後ろからズブリと、なんてあまりにもお粗末だからな]
(う……そうならないように気をつけるようにします)
そうやって、気を引き締めてくれるのはありがたいんだけどね。
[まあ来るかどうか分からないことを悩んでいても仕方がない。 それよりも今後の指針を決めておくべきじゃないのか?]
(おっと、そうだった。 話が逸れてしまっていたな)
正道はしばらくうーんと考えるが、
(すまん。 考えようにも奴のことをほとんど知らないんだけど……)
レスははぁ、と呆れて
[命を狙われたというのに……随分と呑気なものだな]
(仕方ないだろ。 実際ああして対峙するまで、無関係だと思ってたんだから)
[そんなんじゃどうしようもないな。 とりあえず、しばらくは奴のことについて調べてみたらどうだ?]
(奴のことを調べるって……お前は知っているんじゃないのか?)
[残念だが、奴の足取りに関しては俺も分からん。 だが、奴と俺は似たような存在だからな。 近くにいるならそれとなく感じ取ることは出来るぞ]
(うーん、でもある程度検討を付けるには弱いな。 やっぱり地道に調べていくしかないか……面倒くせー)
[我慢しろ。 これも自分の身を守るためだ。 死ぬ気でファイトだ!]
(ったく、好き勝手言いやがって……)
ブツブツと文句を言いながらも結局はそうするしかないのか、と諦める正道だった。
放課後、正道は始めに図書室へ向かった。ここなら一通りの新聞やインターネットなど、情報収集するには家よりも効率よく集められると考えたのだが……
「なんでここにお前がいる」
図書室には遊佐が先客できていた。
「それはこっちのセリフだ。 お前こそ何の用でこんなところに……」
「いや、ちょっと勉強をしようと……」
「嘘をつけ、嘘を。 お前のことだ、かわいい図書委員の子でも狙っているんだろ?」
「それはお前のほうだろ。 勝手に俺が狙っていることにしないでくれ」
だめだ。 遊佐が絡むと30分は軽く経ってしまうぞ……
[おい、このうるさいのは何なんだ]
痺れを切らしたように、レスの口調が危ないものになっていた。
(いや、大丈夫だ。 すぐに終わらせるから)
「それで、図書委員の子狙いじゃなければ何しにここに来たんだ?」
正道がそう聞くと、遊佐は待ってましたというような顔で、
「フッフッフッ、よくぞ聞いてくれました! 俺は今、超常現象研究同好会で例の連続不審死について調べてるのサッ!」
「超常現象……ってまたよく分からないところに入ったな」
「何を言う! 超常現象ってのはだなー」
「その話はまた後で聞くから、今はその連続不審死について聞いていいか?」
あのまま喋らせといたら、レスが体を乗っ取ってでも遊佐の息の根を止めるかもと感じた正道は、遊佐が現在調べているという連続不審死の情報について聞いてみることにした。