さるかにインタビュー
――あなたがカニ様ですね。お噂はかねがね。このたびは、インタビューを受けて下さりまことにありがとうございます。
「そんなに頭を下げなくて結構ですよ」
――いえ、あなたは世間では英雄同然。敬意を表さずにいられるものですか。親の仇を見事に討ち果たしたその勇気、とても凡人には真似できたものではありません。
「そうですかね。確かに、私がやったことが評価に値するかどうかを決めるのは周囲の方々ですが、私としては胸を張っていいものなのかは判断できかねますがね」
――またまた、ご謙遜を。それでは早速、色々とお伺いしてもよろしいでしょうか。
「ええ。こちらも、積極的に答えさせていただきます」
――そのご好意、大変嬉しく思います。では、まずは親の仇を討つことに成功した感想を聞かせていただけますか?
「感想ですか。それはまあ、達成感とでも言いましょうか。既に御存知でしょうが、うちの親はサルの奴に騙された上に命を奪われましたからね。復讐を果たした後は、もちろん墓に報告しに行きました」
――ぶしつけな質問かもしれませんが、お墓の前ではどのようなご報告を?
「やったよ。とうとう、仇を討つことに成功しましたよ……みたいな感じでしたかね。何せ私は、親の命と引き換えにこの世に生まれ落ちた存在。復讐を果たすことが、当時は義務だと思っていましたから」
――義務、ですか。それはまた、正義感にでも満ちているような。
「でも、時々わからなくなることもありますよ。憎い相手とはいえ、私はあれこれ策を練ってサルを惨殺したわけですから。あの時の私がやったことは、果たして正しいことだったのか。答えはいまだに出ていません」
――……。では次に、あの柿の木は今どうなっているのかを聞かせていただけますか?
「柿の木ですか。あれならまだありますよ。立派に育って、美味しい実をたくさんつけてくれています」
――ほほう、それはいいですね。
「親の墓にも、よく供えています。生前に一口も食えなかったものですから、せめてあの世でたらふく食べてくれていればいいんですけど」
――最後に、仇を討つ際に協力して下さったお仲間について聞かせていただけますか?
「ええ、栗さんと蜂さんと臼さんのことですね。彼らには、非常に感謝しています。生まれたばかりの私に、手を貸して下さいましたからね。普通、哀れみの情だけで他人の復讐に協力してくれる方なんて早々集まりませんよ。私はよほど、運がよかったのでしょうね」
――彼らとは、いまだに親交はあるのですか?
「実は、近頃連絡がとれなくて。風の便りによると、亡くなったという話なのですが」
――何ですって。それは一体?
「私はまた聞きしただけなので確証はないのですが、栗さんは何者かに崖に突き落とされたとか。蜂さんは叩き潰され、臼さんは斧で割られて薪にくべられ……しかし、何故わざわざこんなことを尋ねるのですか? この件に関しては、あなたの方が詳しいでしょうに」
――……それは、どういう意味でしょうか。
「ですから、あなたの方が詳しいでしょうと言っているのです。だって、彼らの命を奪ったのは他でもなく、あなたなのですから」
――ははは、ご冗談を。流石英雄となると、ユーモアのセンスまで備えていらっしゃるようで……。
「気づいていないとでも思ったのですか? いくら変装したところで私にはわかるんですよ。あなたは、あの時のサルのお子さんなのでしょう?」
――ど、どうしてそれを。
「何の因果かわかりませんが、彼らが死んだと聞いた時にぴんときたんですよ。彼らは、復讐されたのだと。となると、心当たりは一つ。あの時、私と彼らが寄ってたかってなぶり殺したサルです。奴にも子供がいて、親の仇討ちを果たそうとしている存在がいる。そう思ったのです」
――もう、隠しても無駄みたいですね。ええ、あなたの言う通り。私は復讐するために、今日ここに来ました。しかし、殺されるとわかっていて、どうして私を招き入れたのです? そこは理解しがたいですね。
「簡単な話です。やられる前に、あなたにとっておきの情報をお伝えしようと考えましてね。実は私、つい最近子供が生まれたんですよ」
――……!
「いやあ、今はかわいい盛りでね。目に入れたって痛くないくらいです。ですが、ここで私が死ねば……」
――子供を盾にして命乞い、ですか。
「いえいえ、そんなつもりはみじんもありませんよ。私はただ、あなたに警告しておきたいだけです。ここで私があなたに殺された時、私の子供がどんな感情を抱くのか。そして将来、どのような行動をとろうとするか」
――……そんなもの、覚悟の上です。
「ほう、そうですか。ならば、一思いに私のことを殺しなさい。私は紛れもなく、あなたの親を殺した張本人なのですから。ですが、最後に言わせていただきたいことがあります。私は先程、あの時サルを殺したことが正しかったのかはわからないと言いましたが、一つだけわかったことがあるのです。復讐は心を満たしてくれるようでありながら、決して何かを生み出してくれるわけではないということを。実際にやってみて悟りました。……まあ、それはあなたも既に薄々理解していることかもしれませんがね」




