06.大魔術師(笑)の初めての遠出前編
まだ充電の残量が30%以上もあるのに、いきなり電源が切れるこの子(携帯)。
スタック?そんなのデータが飛んだら意味ないっ…って事で連続投稿しました。
皆さんの携帯は大丈夫ですか?
野原でスライムと対峙する少年マモルを見守りつつ、自分へと集まる視線の多さにため息を吐いた。
確かに見知らぬローブを着た如何にも怪しい人物がいたら、それは見てしまうだろうけども…それでもこの視線の数は多すぎる。
と言うかさ。皆んなこっち見てないで魔物を倒そうよ。
「おぉ、やった!スライム倒せたぞ!」
そんな僕の心境を知らないマモルは、ご丁寧にスライムからドロップしたのであろうアイテムを持ってこちらへと駆け寄って来た。
僕はそんな彼の様子に何度目になるか分からないため息を密かに吐く。
何故こうなってしまったのか…それは今日の昼頃へと遡る。
昼、仮眠室で寝ていた僕は何かを感じて目を覚ました。何がとは分からないが、熟睡していた僕が起きるくらいなのだから余程の事なのだろう。飛び起きた僕へと待ちわびていたかのように集まった精霊達の数を数えて、全体いるのを確認した僕は仮眠室を出る。
何だろう。何だか変なモヤっとしたものが胸の中でつっかえて取れない。こう言うのを嫌な予感と言うのか。
原因は何かと考えて、そう言えばと廊下を魔術無しで歩いていた足が止まった。
ネシムが、いないー………。
いつもは一層の事騒がしいくらいに脳内で喋っている彼女が、今日は何故か朝から話し掛けてこなかった。今まではこんな事一度もなかったのに…。
言いようもない不安に駆られて、嫌な汗をかくのを感じる。
「……ネシム?」
無言。
まさか、本当にいなくなった?
いやしかし、そんな馬鹿な。
「ネシム、ネシムっ!」
『はいはい、何ですか〜?』
「……」
あれ、いた?
まるで寝起きのような間延びした声が脳内で響いた。
何故返事をしなかったのかとか、色々聞きたい事はあるが、取り敢えず居なくなった訳ではなかった事に心から安堵する。
『そんなに叫んでどうしたんですか?あ、もしかして寂しかったんですか?そうでしょう?そうなんでしょう?!』
「…うるさいよ」
『酷い!?』
居てくれてちょっと嬉しい。けれどそれを素直に伝えるのは癪だからとわざと悪態をつけば、ネシムはきゃんきゃんと吠えるように説教めく。
ホッと息を吐けば、心が一気に軽くなった。
しかし、それでも胸の中にある嫌な予感は消えない。ネシムが原因でないなら、この予感は一体…?
歩みの止まっていた足を再び動かし、取り敢えず自室へと向かう。
もしかして、契約した者たちとは別の精霊に何かあったのだろうか?
いや、もしそうならば精霊達が騒ぐ筈だ。
ならばとさらに頭を回転させても、何もわからない。そして息抜きにと廊下の窓から外を見た時だった。小さく庭と広大な森が見えるいつも通りの景色だが一瞬、ふと何かが動いたように見えた。
「……魔物…じゃないね」
確かにこの森には魔物がゾロゾロといたが、あの一瞬見えた何かは毛色が違った気がする。
兎に角、確かめに行かないと。庭に近いところに居たし、もしあれが魔物だったとして庭や城に攻撃を仕掛けられでもしたら困る。
急がば回れと言うが、そんなものは無視して窓を開けると、その窓の縁に飛び乗った。
『ちょ、ちょっと!?Mr.クード、何するつもりですか!?自害なんてダメです、そんなの許しませんからね!』
「大袈裟だな。ここから落ちても、僕なら死なないよ」
『何を根拠に言ってるんですか!兎に角ダメったらダメです!』
はいはいとネシムの言葉を受け流して下を見る。地面は……うん、とても遠い。けれど精霊魔術を使えばなんとでもなるだろう。
「地よ、ここから地面へと滑り台の形に変形せよ」
「(滑り台!滑り台!)」
「(スルスルー、スルスルー)」
城の壁が伸びて滑り台の形へと変形していく様を見て、僕はその滑り台へ飛び乗った。
気分はまさにアトラクションに乗ってる気分だ。ローブの異常なまでの防御力のおかげで、摩擦云々はないが、ひたすらに長い。
「(はやく、はやく!)」
「(変形急げ、急げっー!)」
なんか、ごめんね。
地達が大急ぎで下の方の変形に取り掛かっている様子を見て、何だか申し訳ない気持ちで一杯になる。
本当ごめん。梯子とかあっても……届かないか…。
変形が完全に終わった頃には滑り台の終盤に差し掛かっており、その少し後やっとのことで足を地面に着ける事が出来た。
ローブを叩きながら後ろを振り向いて滑り台を見ると、よくこれを滑ってこられたなと感心してしまう程に急斜面の滑り台があった。だがこれも、もう用なしだ。
「地よ、崩れろ」
「(ボロボロー、ボロボロー)」
どんどんと滑り台が崩れていくのを見ることなく森の方を向くと、魔物がいるので足音には気を付けないといけないので、無の魔術で浮きながらに庭を進む。城と森の間にある庭だが、これがとても広い。
今回は滑り台で庭の真ん中辺りまで来れたから良かったが、帰りはこの庭を歩かないといけないのかと思うと気落ちしそうだ。
まぁ今そんな事考えても意味ないんだろうけど。
音を立てずに進んでいるからか、もしくはまだ庭だからか分からないが、魔物が襲ってくる感じがしない。
進んで進んで進んで…ひらすら進むとやがて木々が増えてきて、ここからは森なんだと改めて思う。
さて、目的の人物…人かどうかは分からないけど、探すか。
警戒しつつ、辺りを見渡し地図を発動させる。すると今までには見たこともなかった、白い小さな点がゆっくりと地図上を動いていることが確認できた。
あれ、これって確かに…プレイヤーの表示だっけ?
『はい、その通りです。…多分テスターであるプレイヤーが迷い込んでしまったんでしょう』
となると、不味いな。何せここにはLevel60以上の魔物がゴロゴロといるマップだ。いくら強い武器を持っていても、殺られてしまうかもしれない。
『その上テスター達は今日で五日目のプレイ……まだまだ低Levelでしょうから、確実に殺られてしまうでしょうね』
どうやらかもしれないでは済まされないようだ。プレイヤーの危機が確実になったところで、僕は地図に表示された白い点の方へと進んで行った。
白い点の近くまで来ると、黒髪黒目の青年になりきれていない少年を見つけ、何となく姿を草陰へと隠す。
それにしても妙に軽装備だ。着ているのが只の服って……。
『防御力のない只の服でここまで来れたのに尊敬しますよ。…あ、プレイヤーのステータスを表示しますか?』
うん、お願い。
『ステータスを表示します。
名前:マモル
職業:冒険者
所持金:200Z
Level:1(次のLevelまで7)
HP:20
MP:14
物攻:16(+2)
魔攻:5
物防:10
魔防:9
命中:5
回避:6
装備
武器:基本片手剣(物攻+2)
頭:
胴:白いシャツ(+0)
腕:
足:黒いズボン(+0)
装飾:
スキル:
オプション:』
思っていたよりも低いステータスに小さくため息を吐いた。これでは確かに魔物に殺られてしまうだろう。
このまま目の前で死なれるのを後味悪いけど…僕って姿見せて大丈夫なのかな?
何日か前に、ここは隠れマップだの何だのと聞いた。もしかしたら姿を現した事で何か不味い事が起こるかもしれないのだ。
『それはないと思います。だってほら…クエストで“プレイヤーを救え”ってありますし……』
それ、先に言おうね。
そうこうしている内に、少年マモルが剣を抜き此方へ構えているのが見えた。
あ、何だか泣きそうな顔してる……。
泣かれるのは困るからとその場で立ち上がれば、彼は急に現れたものが人であった事に安堵したのか、剣を持つ手を下ろしていく。
残念、三十点!
そこは剣を下ろさずに相手を注意深く観察するべきだよ。
そんな風に評点した僕は、敵意がない事を見せるため無の魔術を解除して地面に足を着けると、ゆっくりと彼へ近づき笑みを浮かべた。
「君は冒険者かな?」