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滅亡国の大魔術師(笑)  作者: 黒いもふもふ
*****、世界
8/22

05.大魔術師(笑)の疑心



朝、何かに髪を引っ張られている感覚がして目が覚めた。そして引っ張っている主がいるであろう方を向くと、そこには地の精霊達ともう十一つ、黒い光がいた。


「…おはよう、地と闇の精霊達」

「(おはよう、おはよう!)」

「(………おはよ)」


僕がそう挨拶をし椅子から体を起こすと、計二十五つの光は逃げるように少し離れたところへと飛んでいく。何が楽しいのか分からないが、きゃっきゃっと笑いながら飛び交う精霊達の機嫌の良さに、どうして朝からあんなに元気でいられるのかと関心しつつ向かうのは洗面所。と言っても水は出ないので、寝癖が付いていないか鏡で確認するだけである。満足に顔どころか体も洗えない今、一刻も早く水の精霊と契約したいのが切実な願いだ。

寝癖はどうやら付いていない、と言うかこのサラサラの髪は寝癖が付きにくいらしく、特に直す必要もないので洗面台を後にして、部屋のクローゼットを開けた。中には白いシャツと黒いズボン、同じく黒いベストが数着ずつ入っており、どうやらこれは僕の私服らしいので有難く着させて貰っている。今日もそれに着替えると、またその上からローブを羽織った。

いや、正直着る必要はあまりないんだけど、何となく着ないと落ち着かないんだよね。

いつの間にか僕のお気に入りになっているローブだが、何だか今日は違和感がある。モヤモヤした、何とも言えない違和感だ。

何だろう?

チラリとローブの中を覗くと、そこにはズラリと黒い光が入り込んでいた。


「や、闇の精霊!?」

「(……ここ、いい)」

「(…………暖かい)」


たどたどしい言葉でそう言い、擦り付く闇の精霊達。どうやら属性が変わると性格も変わるらしい。しかし今それは置いといて。

いやまぁ、それは僕の体温があるから暖かいだろうね。それでも闇の精……面倒くさいな。闇でいいや。


「闇、そこにどうしても入らないと駄目かな?…変な感じがするんだけど」

「(……気にしたら、負け)」

「何に!?」


思わずツッコミを入れて、ため息を吐いた。

何で朝から疲れないといけないのだろうか。がっくりと体を妙な疲労感が襲っているのを感じながら、椅子へとゆっくり腰掛ける。

結局闇は出て行ってはくれず、こちらが違和感に慣れると言うことで折れたのだが、その違和感を感じて眉を寄せてしまったのは仕方のない事だと思いたい。

机の上に置いてある読みかけの本を手に取って、ぼんやりと考える。

今日の夕方、地もとい地の精霊達と契約をし無事十四体との契約に成功した。そしてその後地が階段を上っている時に闇がいると教えてくれたので、そのまま闇とも契約したのだ。やはり捧げたのは僕の髪一本で、計十一体と契約を出来たのだが…。


「さて、今日はどうしようかな。水と契約したいけど…地と闇。僕の涙で出来ると思う?」

「(………無理)」

「(号泣?号泣?)」

「いや、号泣はしないよ。……やっぱり無理なのか」


やはりそう簡単にはいかないらしい。

となると今日は火や風と契約をするか。いや、今は朝で太陽も出てるし、光と契約するのもアリかな。

そうと決まれば契約をし始めようと、椅子から立ち上がって窓へと向かう。カーテンが開いている窓からは光が差し込み、少なくとも数体はそこにいるだろうと思われる。


「地。もし光達が暴れたら壁を作って光を防ぐよ。だから動けるように準備しておいて」

「(了解、了解!)」

「(………俺は?)」

「闇は消される事なんてないと思いたいけど、念の為に離れたところに隠れておいて」

「(………ん)」


闇自身も光との相性が良くないのを知っていたのか素早くローブから出て行き、ちゃんと闇が椅子の下へと隠れたのを見届けて僕は髪を一本引き抜き床へと落とした。

スペルは地や闇の時となんら変わらない。だから滅多に失敗なんてしない筈だ……多分。


「光の精霊達よ。今我が魔力を与えよう。それを気に召されたならば、このアサーティル・クードに力を与えておくれ」


目の前をしっかり見据え、そう口ずさむ。すると太陽の光が段々強くなっていき、僕はすかさず右目を瞑った。これで最悪な事態が起こっても右目だけは失明しなくて済む。

そんな僕と強くなっていく光を見て不安になったのか、地が僕の肩に擦り寄って来たが、まだ防壁を作るには早すぎだ。

視界が真っ白に染まる前、その時に防壁を作る。三…光が壁をも照らし始めた。二…天井をも光が照らし始める。一…僕を光が飲み込む。ゼロ。


「地よ、防御せよ!」

「(防壁、防壁ー!)」

「(守れ、守れー!)」


僕がスペルを唱えると床が伸び、約十五センチ程の半ドーム型の防壁が僕を覆うように展開された。

やがて耳をつんざくような音が数秒続き、光が徐々に収まっていき部屋の中が薄暗くなっていくのが感じられる。防壁のおかげで光からは守られたのだが、如何せん前が見えないから状況が分からない。


「地よ、崩れろ」

「(解散、解散!)」

「(ボロボロ、ボロボロー)」


ガラガラと音を立てて地の防壁が崩れ落ちると、それらは跡形もなく消え去り床も元通りに戻った。

さて、今重要なのは床よりも光との契約だ。一瞬地へ視線を向けた後再び前を、正しくは空中に浮かぶ七つの光の玉達を見据える。クリーム色をした光の玉達こそが光の精霊だ。


「光の精霊達よ。僕の魔力は気に入って貰えたかな?」

「(えぇ、とても気に入ったわ。貴方の魔力って質がいいのね)」

「へぇ、そうなのか。そういうのは自分では分からないからね。勉強になったよ」


うふふと上品に笑う光の精霊達の様は、まるでどこかのご令嬢のようだ。うふふふあはははとお互い笑い合う様子は、地や闇からしたら不思議な光景だったかもしれない。

しかしこうしてコミュニケーションを取るのも大事な事なので、こればかりは譲れないのだ。


「(貴方、わたくし達と契約を結びたいのでしょう?)」


いきなり向こうから本題を切り出されるとは思ってもみなかったので軽く驚いた。しかしそれはあくまでも内心だけであって、表には表情にも出さずに笑顔を保つだけ。

目指すは笑顔という仮面を被った貴族同士の会話だ。


「そうだよ。契約をして頂けるなら、こちらとしてはこれ以上にない程幸せなんだけれどね」

「(ふふふ、地や闇の精霊達とも契約しておいてよく言うわ)」

「でも珍しくはないだろう?」

「(まぁ、確かにそうね。でもそれも大昔の話よ?)」


他の国の事は知らないが、僕が知ってる知識でこの国の魔術師達は何種属もの精霊達と契約するのは珍しくもなかったらしい。つまりそれだけ盛んに精霊との契約が行なわれていた証拠である。

しかし、大昔とは一体?

僕の笑顔が一瞬崩れたのか、光の精霊が面白そうにころころと笑った。


「(ねぇ貴方、今が何年だか知ってるかしら?)」

「確か……二百七十三年だった筈だよ」


確かその筈だ。

この国が敵国と戦争をし、僕が瀕死の怪我を負ったのがその時だったから。あれ、でもちょっと待って。

僕が、怪我を負ったって……いつ?

だって僕、否俺は病院に通院してて瀕死の怪我なんて負った事ないのに…。それにどうしてここにいる事が、この国の知識を持ってる事が当たり前になっている?

分からない。あぁ、分からない。


「(……ちょっと、大丈夫?顔色悪いわよ?)」

「ぁ……光……大丈夫、大丈夫だよ…。だから早く契約を済ませてしまおう」

「(まぁ、貴方がそう言うならわたくし達はそれで構わないけど…)」


光達が一つとなって僕を包み、地や闇の時のように脇腹へと痛みが走る。そして第六感が鋭くなるのだが、しかし今の僕にはそれを気にしていられる余裕すらない。どこかぼんやりと……流石に目は瞑っているが、心有らずといった感じだ。

いつから、俺は演じている筈の役(僕)が本当の自分だと思っていたのだろう?今まで演劇をやってきた中で、こんな事は一度もなかったのに。俺が、僕が誰なのか分からない。今確かにいるのは僕で、そして俺だ。なのに、なのに………。


「(ティル、ティル!)」

「ぇ…?」


はたと我にかえると、目の前には地と闇と、そして光が漂っていた。計三十二体の精霊達はみんなこちらをじっと見つめている。

あれ、なんで。


「もう契約終わったの?」

「(何言ってますの。もう既に終わりましたわ)」

「………そう」


どうやら考え事をしていた間に契約は終わってしまったらしく、ローブを脱ぎ、シャツを捲って脇腹を見る。そこには白金色の刺繍が元々彫ってあったかのように存在していた。小さな三つの魔術陣から茨城が生えているかのような細かい模様の刺繍は、各種属の精霊達と契約した証である。これを見る限り、本当に光との契約は終わったようだ。

シャツを整えローブを再び羽織ると、ふらふらと自室を出る。確か仮眠室は二つ下の階にあった筈だ。

無の魔術で体を浮かせて滑るように移動すると、ぞろぞろと精霊達がついて来た。


「(……どこ、行く?)」

「…仮眠室だよ。ちょっと疲れたからね」


間違えではない。ここ数日椅子で寝ていたので体の節々が痛いし、何よりも疲れが溜まっている。

最も、変な事を考えて精神的に疲れたと言うのが本音だが。

廊下を進み階段を下りてやっと仮眠室の部屋まで来ると、幾つもある寝台のうち一番奥にある寝台へと崩れるように寝転んだ。

あ、僕が寝ている間精霊達はどうするんだろう?

チラリと共に部屋へと入って来た精霊達を見るが、ただ漂っているだけで文句を言ったりなどはして来ない。

でもまぁ、僕が寝てる間に暴れられたら困るし…。


「精霊達、僕は寝るけど…君達はどうする?」

「(わたくし達は待機してますわ。何かあったら呼んでくださいませ)」

「(おやすみ、おやすみー)」


ふわりと光は太陽の光が当たっている場所へ、闇は僕の寝転んでいる寝台の下へ、地は床の中へと各々飛んでいく。

成る程、そうやって待機するのか。

今まで溜まっていた疲れが一気に押し寄せたのか、精霊達の動きを見届けた直後瞼が重くなった。

頭がボーッとしてきており、どうやら本当に眠たくなってきたようだ。


「おやすみ……精霊達……」


そこで僕の意識は途切れた。



「(眠ったね、眠ったね)」

「(………疲れてた、んだ)」

「(まぁ、七体もの精霊と契約した後なら仕方ありませんわよ)」


精霊達は自分達の好む場所に待機しながらそう話す。

彼、アサーティル・クードは寝台に寝転び毛布も被らずに寝ている。きっと被るのも億劫だったのだろう。

しかし眠っているその時にも魔力は延々と練られていて、いつ何者かが攻め込んで来ても対処出来るようになっていた。


「(…本当、変わったお人ね)」


彼は魔術をまるで昔から使い慣れているかのように使い、寝ている今も魔力を練り上げ続けていつでも魔術が使えるようになっている。つまり隙がない状態だ。しかしそんな大層立派な魔術師かと思えば、ふとした瞬間に練り上げていた魔力が散り、まるで素人のように隙だらけになってしまう。

魔術に長けた彼の中に何か別のモノがあるような、そんな感覚。

それが精霊達の知るアサーティル・クードだった。そしていつか、本来の彼を知れたら…と思う。


「(ねぇ、ティル。わたくし達本来の貴方に逢えるのを待ってるわ)」


例えそれが何年掛かろうとも、ずっと、ずっと………。


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