04,5.プレイヤー
今日は予告通りの時間に投稿する事が出来ました。いやぁ、時間遅れたらどうしようってヒヤヒヤしましたよ…。
日本という国で五日前、あるゲームが無料配信された。と言ってもまだBテストでのプレイになるが、それでもゲーマー達はテスターになろうと応募し、それに選ばれると歓喜した。
VRMMORPG“アルギカルオンライン”。それがそのゲームの名前だった。
1:名無しの冒険者@
キターー(゜∀゜)ーー!
2:名無しの冒険者@
キャラメイクが出来ないのが辛い
3:名無しの冒険者@
>>2
全然出来ないって訳じゃないだろ
寧ろ自分と似た容姿のアバターだから親近感湧くわ
4:名無しの冒険者@
因みにお前らどんな名前にした?
5:名無しの冒険者@
>>4
エビコロッケ
6:名無しの冒険者@
>>5
エビコロッケとかww
7:名無しの冒険者@
てか案内人が可愛いんだがww
8:名無しの冒険者@
最初はみんな冒険者って職から始まるんだね
9:名無しの冒険者@
>>8
みたいだね
私マジシャン的なのになりたいな
10:名無しの冒険者@
俺は今から始めるところ。|
「…行ってきますっと送信!」
Enterのキーを押した少年は、ワクワクしながら箱から装置を取り出す。箱より取り出された何本ものコードが付いたヘルメットに不安を抱かない事もないが何か体に異常が起こった場合には機械が強制終了させて現実に戻してくれるし、プレイして何時間か経った時には時間を教えてくれるようになっている。事前にしっかりと取扱説明書を読んでいた少年は書いてあった通りにヘルメットを装着し、専用のカプセルへと入った。するとログインしますという無機質な声が聞こえ、暫くすると少年の意識は現実になかった。
『皆さんこんにちは。私は皆さんをこのゲームへと案内人する案内人にゃ!まずは君の名前を教えて欲しいのにゃ』
パッと目の前に現れたのはワンピースを着て、頭に付いた猫耳をピクピクと動かす女の子。まるで本当にそこにいるかのように見える技術に一頻り感動すると、少年は女の子同様目の前に現れたキーボードを操作する。
『名前は…マモルね。いい名前にゃ!それで、アバターはこのままでいくかにゃ?それともメイクする?』
そう言って手鏡を少年へ見せると、そこには現実通りの少年が写っていた。何処にでもいる平凡な顔付きのそれを見てメイクする、しないの内しないのボタンを押す。
やはり、そのままの自分でプレイしてみたい。…ログインする前見た掲示板にも、親近感が湧くからいいと書いてあったからな。
ボタンが押されて猫耳の女の子はうんうんと頷いた。
『了解にゃ。さてそれではアルギカルの世界へ行ってらっしゃい!』
初期設定が終わったのか女の子は消えていき、代わりに見えてきたのは自然豊かな木々の鬱蒼と茂った森だ。多分ここでチュートリアルが始まるのだろう。
そう思い辺りを見渡すと、ピロンと何かの音が鳴った。よく見ると視界の端には半透明のボタンがあり、それが点滅している。
これは……これを開けって事か?
不安半分期待半分でそのボタンを押すと、それは半透明のまま視界に広がった。どうやらメニューのボタンだったらしく、目の前の表示には自身のステータスやアイテムが入っていているのであろうカバンのアイコンなどがある。そしてメニューの下の方、手紙のアイコンとクエストと書かれたアイコンが点滅しているのを見つけた。まずはと、手紙のアイコンをタップする。
「あぁ、何だと思ったら運営からのメールか」
内容は応募してくれた事への感謝と、何か不具合があったら教えてほしいとの事だった。同封してあったプレゼントを受け取るとそれはお金だったようで、所持金が200Z増えている。恐らくZとはこのゲームでのお金の単位だろう。
まぁ手紙を読んだだけだからこんなもんか。
他にメールがないのを確認し終わると、一旦メニューへと戻りクエストのアイコンをタップする。すると一つだけクエストが表示された。
“初めての戦闘-スライムとの遭遇-”
いかにもと言ったクエストだ。内容はやはりスライムを一体倒すだけらしいが、その時に戦闘方法を教わるのだろう。
兎に角クエストをクリアすべく、スライムを探して歩く。
森なので見晴らしはよくないが、相手はスライムだ。すぐ見つかるだろうと探すも、中々見つからない。
もしかして思っているよりも小さいのだろうか?それとも、景色の緑色と同化しているのか…。
「マジかよ……全然見つからねぇじゃん。てか、そもそも他のプレイヤーも見当たらないし…」
キョロキョロと辺りを見渡すも、やはりスライムどころかプレイヤーも見当たらない。確かに学校やら部活動やらで忙しく、時間がなかったため配信されてから五日後にプレイし始めたが…それでもプレイヤーが一人も居ないというのは流石に可笑しい。少なくとも数人は居てもいい筈だ。
仕方ないな、チャットで聞いてみるか。
メニューを再び開き、チャットと書かれた吹き出しのアイコンを押す。すると案の定、多くのプレイヤーがチャットへ書き込んでいた。最も、自分が書き込もうとしている内容は見当たらないが。
「初ログインで森に出たんだけど、何か知ってる人ー……っと」
自分の顔と共に書き込んだ文章が表示されると、これで助かるかもしれないと一安心した。そして早速呟かれたチャットの内容を見る。
やまっちゃん:ログイン出来た
闇の剣士:野原に人居すぎww
白兎:スライムが正にスライムww
桃山:あ、死んだ……
アーク:南無w
わんこ:誰かパーティー組も(つД`)ノ
♪あーちゃん♪:組みまーす!
わんこ:ありがとう
マモル:初ログインで森に出たんだけど、何か知ってる人ー
闇の剣士:それバグじゃね?w
ナナミ:今ログインしたけど、野原に出たよ
マモル:マジかwじゃあ死亡覚悟で森探索してみるわ
闇の剣士:チャレンジャーw
桃山:俺みたいに死なないよう頑張れ
ナナミ:何かあったらログアウト!
どうやらログインすると野原に出るらしい。プレイヤーやスライムが居ないのはそのせいかと、納得する。
さて、チャットで探索すると言っちゃったし、ここは素直に森を探索しようか。
鬱蒼と木々が茂る森を見据えて、一歩二歩と恐る恐る踏み出した。だがそれでもモンスターはやって来ない。ホッと一息ついて、更に歩き出す。ガサガサと進むごとに足元の雑草が音を鳴らす、至って普通の森。
何もないのか。それはそれで残念と言うかなんと言うか……。
そう思った時だった。ガサリと草が音を立てたのだ。モンスターかと思いそちらを向いて武器である剣を抜く。最初から装備されていたものなので攻撃力のない何とも心ともない剣だったが、何もないよりかはマシである。
初の戦闘に緊張してギュッと剣の柄をきつく握ると、その心情を察したのか草陰からそれは姿を現した。
「………え?人?」
そう、それは正に人だった。ローブを羽織っており、顔が鼻から下までしか見えない以外は何の変哲も無い人間だ。ただし、その人物の頭上に表示してある名前らしきハテナはプレイヤーである白色でなく、NPCを指すオレンジ色であった。
そうと分かると緊張感が一気になくなり、武器を持つ手が自然と下へと下がる。それを見てなのか否か、目の前に立つNPCは口に柔らかい笑みを浮かべ、口を開いた。
「君は冒険者かな?」
「あぁ、そうだ」
低くもなく高くもない中性的な声に驚いて目を見開くも、慌てて首を縦に振る。もしかしたらこれは、こういうイベントなのかもしれない…そう思ったのだ。
「そっか……ここは危ないよ。早く立ち去った方がいい」
「そう言われても、帰り方が分からねぇよ」
「あぁ、成る程。ならそうだね……僕が君を送って行くよ。帰りたい場所はどこ?」
え?マジで?
世の中優しい人もいるんだなぁ…NPCだけど。
心の中でそう関心していると、ピロンと音がした。
何事かとメニューを開くと、ハートマークのアイコンが点滅している。またかと思いつついつかのようにそれを押すと、そこに広がったのは好感度と書かれたページだった。
“NPCやプレイヤーと関係を持つ事が出来き、好感度MAXになれば友人や親友、または恋人になる事ができます。関係を持つと相手からプレゼントを貰えたりするので、積極的に関わっていきましょう。またプレイヤーはパーティーを組んだり、プレゼントをあげる事で、NPCは話しかけたり、プレゼントをあげる事でメーターが上昇していきます。NPCに話しかけてメーターが上昇するのは一日に五回までですが、そのNPCの好物をプレゼントすると一気に仲良くなる事が出来ます。”
そんな説明文を消すと、今度はメーターが表示された。きっとこれが好感度とやらなんだろう。ハテナと横に書かれたメーターは灰色だが、少しだけピンク色の好感度があり、メーターの中央には他人と書いてある。しかしまだ好物も何も知らないのでプレゼントの仕様がない。
まぁ、それは後でいいよな。今はそれよりもハテナさんとの会話が先だ。
好感度のページとメニューを閉じて、視線を目の前のNPCへと移す。
それで、何だったか?
「あー…えっと、帰りたい場所だったっけ?俺は野原に帰りたいんだ」
「……どこの野原?」
「…あ……分かんねぇ」
ダメじゃんと呟かれたのが聞こえたが、ごもっともである。どうしてもっと詳しい事が分からないんだと己の無力さにがっくりと肩を落とす。するとその様子を見てなのか、クスリと笑い声が聞こえた。
「ならどんな野原に行きたい?強い魔物の出る野原?弱いスライムなんかが出る野原?」
「是非スライムで!!」
まるで先生に指名してほしい小学生のように大声でそう言うと、沈黙がその場を覆う。
うわ、恥ずかしい!
うわーうわーっと悶絶するも、後の祭りだ。しかし恥ずかしすぎて悶絶せざるを得ない。
でもし、仕方ないよね。俺コミュ障なんだもの!
「くっ…あははははは!分かった分かった。そんなに言うなら、そこに連れて行ってあげるよ」
「あ、ありがとうございます…」
あぁ、笑われちゃったし…。
顔が羞恥心で赤くなるのを感じながら礼を言うと、NPCは構わないよと優しい笑みを浮かべた。
でもこの人いい人なんだろうな。さっき笑った時も、人を馬鹿にするような笑いじゃなかった気がするし。
まぁ色々あったが、結果これで帰る手段が出来た訳だ。
ハテナさんには少し悪いが、さっさと帰らさせてもらおう。そして早くチュートリアルをやりたい。
「それじゃあ僕の近くへ寄って。このまま野原へと転移するよ」
「は、はい!」
言われた通りに近づき、転移の不安からか拳をギュッと握る。
NPCはローブの中から紙を取り出し、そして次の瞬間には景色が消えた。
「うわっ!?」
あっという間というのはこう言うのを指すのだろうなと納得するくらい、消えた景色とはまた違う景色の場所へと一瞬のうちにやって来ていた。もう唖然とするしかない。
だが俺と同じくらいに口や目を見開いて唖然とする人達がいた。頭上に表示させている白色の文字からして、プレイヤー達だろう。
なんと言うか…プレイヤー達に視線を向けられ途轍もなく居た堪れない。
「よし、これでもう大丈夫だね」
「あ、はい。ありがとうございました」
「どういたしまして。こちらこそ役に立てて良かったよ」
優しく笑うNPCさんが優しすぎて、思わず目頭が熱くなった。
待っててくれ、いつか俺あんたの友人になってみせるから!
頑張って好感度上げて、好物も見つけてみせるから!
そう決意した、俺のある日だった。
誤字、脱字等の報告やアドバイス、感想などお待ちしております。