03.大魔術師(笑)の書斎
投稿する時間が遅くなってしまい申し訳ございません。
お詫びに二話連続で投稿致します。
クエストなるものの存在を突き付けられて気分が一気に下がった僕は、兎に角自分の部屋へ行こうと歩いていた。
紙と埃でまみれていた資料室から来た道を戻って階段の前へ来ると、そこを今度は右に進む。ネシム曰く、僕の部屋は階段から右へ進み、右側の手前から二番目のところがそうらしい。
他の部屋と同じ扉をしたその部屋だが、何故かここだけは懐かしさを感じる。まるで実家に帰って来た時のようだ。
扉をぼんやりと眺めていると、頭の中でオホンと態とらしい咳が聞こえた。
『まず中へ入りましょう。懐かしむのは中でも出来ます』
「そう…だね」
銀色のドアノブを捻って開けると、他の部屋とは違い驚く程に扉はスムーズに開いた。まるで今の今まで使われていたかのようだ。
「…あ、僕の部屋だ……」
目の前に広がるそこは、僕が夢にまでみた部屋そのものだった。
大きな本棚達が壁を覆い、アンティーク調の机と椅子、そしてティーセットがあるだけの部屋。だがどこか上品さと気品があり、自分が求めていたのはこれだと胸の中が歓喜でいっぱいになる。
まさかかつて退屈だった日々の中で夢みたものが現実になるなんて思わなかった。
『因みに寝るところは仮眠室だそうですよ』
そんなネシムの声も聞こえない程にふらふらと夢心地で部屋の中へと入り、椅子へ腰掛ける。机の上に置いてあるインクとペン、そして紙をぼんやりと眺めて視線を横へとずらした。そこにはワゴンに乗ったティーセット。
紅茶は…あっただろうか?
いつも通りの感覚でワゴンを此方へ引き寄せ、ワゴンの引き出しを開けて探る。
あぁ、あった。紅茶だ。
さて、湯を沸かして紅茶を……。
『Mr.クード?』
「……え?』
いきなり聞こえたネシムの声に、まるで夢から醒めた時のようにぼんやりしていた頭が冷めていった。何となく視線を手元に移すと、何故か手には包装された紅茶のティーパックを持っている。
あれ、僕は今何をしていた?
目を瞬かせ、取り敢えずティーパックを机の上に置く。
「ごめん、ネシム。どうやらぼーっとしていたみたいだ」
『まぁ確かにぼーっとしてましたけど…大丈夫ですか?』
「うん、大丈夫だよ」
『そうですか、ならいいんです。あ、ティーパックを仕舞うならワゴンの引き出しの中ですよ』
そう言われ、ティーパックを偶々開いていたワゴンの一番上の引き出しへと仕舞う。が、ふと疑問が頭を過ぎった。
これは、僕が出したのだろうか?
でなければ、何故偶々ワゴンの引き出しが開いていたのだろうか。中には他にも紅茶のティーパックが入っていたので、あそこから出されたティーパックだと見て間違いない。そしてネシムは実質的に不可能だ。
なら本当に僕が…?
「…ねぇ、僕何してた?」
『はい。魔術を使ってワゴンを引き寄せ、ティーパックを引き出しより取り出しました』
「魔術…?僕が?」
『はい』
前ネシムにステータスを見せてもらった時には、魔術が使えるなんて表示されてなかった。だからてっきり僕はまだ使えないものだと思っていたが…本当は使えたのだろうか。
「ねぇネシム。僕が今何のスキルを持ってるか分かるかな?」
『スキル:魔術の才能(各精霊より懐かれやすい)/無の魔術(Level.1)』
いつの間にか増えてる…!
無の魔術というスキルは前なかったものなので、今さっき習得した事になる。嬉しいのだが、腑に落ちなく素直に喜べない。
頭の中にある知識では、無の魔術とは魔力がある人間が生まれながらにして持っている力である。その力の内容は様々で、身体強化や鑑定、ある物質を操るなどが一例として挙げられる。しかしその力がいつ覚醒しどんな力なのかは個人差があるので不明とされている…というものらしい。
僕の場合の無の魔術はどんな力なんだう?
『無の魔術(Level.1):重力を操る力。今のLevelでは人間一人を数センチ動かせる程度』
重力か。理論的に考えれば、こちらへ重力を発生させればいいだけなので出来ない事もないが、しかし何故今出来るようになったのかが不思議だ。
『あの…非常に言いにくいのですが……』
首を捻っていると、ネシムの困ったような声が聞こえた。
何だろう、すごく嫌な予感がする。例えば幼馴染み(仮)兼作成者のクエストが始まるとか始まるとか始まるとか…。
「……クエストが始まるの?」
『あ、いえ。そうではなく逆です。クエストの一つが今クリアされました』
「え?始まってたの?」
『はい。クエストクリアとなりましたので、報酬に200Gを入手しました』
ネシムが言うにはGとは、この世界で一般的に使われているお金らしい。ただしお金の単位はこれだけではないらしく、他にも色々あるようだ。ゲームをプレイしているプレイヤー達も、これと同じお金を貰っているのだろう。
それにしても200Gか。一番最初のクエストにしては多い方なのかもしれない。
しかしそれにしても…。
「今回クリアしたのはどんなクエストだった?」
『“己の記憶クエスト”の“自室へ向かえ”だそうです』
「あぁ、なる程。僕らはまんまとクエストの通りに動いていたと言う事なのか」
だからクエストクリア出来た訳か。
そう納得していると、ピロリンと音が鳴った。
今度は何なんだ?
『クエストを受注しました。次は“杖を探し出せ”です。報酬は200Gです』
「次は杖探しか……」
げんなりと顔を顰めつつ、部屋の中を見渡す。綺麗に掃除が行き届いているこの部屋の床には、何も落ちていない。となると、どこかに仕舞ってあるか置いてあるのか。
可能性があるとすれば机やワゴンの引き出しの中か、本と本棚の隙間に巧妙に隠してあるかだ。
まずは机を調べよう。机にある二つの引き出しはどちらとも鍵を付けるタイプらしく、引っ張ってみても全く開かない。仕方ない、次だ。
ワゴンの三段ある引き出しで二段目を開けるが、中はナイフとフォークとスプーンだけ。その下はと一番下の段を開けてみるも、ティーセットが入っているのみ。どうやらワゴンはバスレのようだ。よし、次にいこう。
椅子から腰を上げて本棚へ近づくと、適当に本を棚から取って……あぁ、読みたい。
「魔術陣の描き方……薬草の種類……人体の構造…どれも面白そうだな」
『本好きなのは構いませんが、ちゃんと探して下さい』
「いや、だって見てみなよ。こんなに面白そうな本がずらりと並んでいるんだよ!これは読まないと本好きの名が廃るよ」
『いや、廃っていいですから探しましょうよ!?』
ネシムが何か言っているが、僕はさらに棚から本を取る。赤い背表紙、青い背表紙、白い背表紙…そして色んな題名の本たち。
まさに天国!
「ほら、これなんか今は亡き戦友国から輸入した本だ。かなり珍しいものなんだよ。それからこれは精霊と契約する為の本でね。後ろの方が空洞になっていて杖を仕舞える優れものなんだ。あぁ、あとこれも捨てがたいな。ある種族が書いた本なんだけど、今じゃその種族は絶滅寸前で……」
『ちょっと待って下さい!杖の件をサラッと流さないで下さいよ!聞いてますか!?』
「今はそれどころじゃない!」
『それどころですから!クエストに関わる重要なところです!』
「あぁどこまで話したっけ?そうそう、絶滅寸前の種族が書いた本だけど………」
『聞けやゴラァァァアアアア!!』
その瞬間、キーンと頭に何かを刺されたかのような激痛が走った。ついでに耳鳴りもして、状態は最悪だ。
「い、ぃだい………」
『ほら、杖をさっきの本からパパッと取って下さいよ。そうすればクエストクリア出来るんですから』
最近ネシムが辛辣になってきた気がする。
未だにジンジンと痛む頭を抱えて、精霊の本のページをパラパラと捲った。勿論読んでいる訳ではない。ページを捲り続けるとバラッと音がして、見るとそこには箱が付いていた。白い箱の蓋を開けるとまず見えるのは、敷き詰められた赤いクッション。そして白色の陶器のような素材で出来た約二十センチ程の杖が目に付いた。
『これがですか…』
「そうだよ。長さは二十一センチで素材はドラゴンの牙。僕だけの杖だ」
『これでクエストクリアですね。報酬に200Gを入手しました。次のクエストは“魔物スライムを討伐せよ”です。』
ネシムはそう言うが、それは可笑しい。僕の知識ではこの森にスライムなんて存在しない事になっている。いや、もしかして。
「他国に行くって事かな?」
『多分そうでしょうね。流石にこの国の森にいる魔物は強過ぎますし…』
って事は、初めての遠出をするのか。この先を思い、思わずため息が出た。
遠出をするにはそれなりの準備がいるし、そもそもこの国から出る為には、あの強い魔物がぞろぞろいる森を突破しなければならない。それなのに僕のLevelはまだ一でしかない。
どうしたものか。
「…取り敢えずLevelを上げないと。それに、精霊とも契約しないとね」
精霊と契約すると、その精霊が属している属性魔術が使えるようになる。だから、少なくとも火、水、風、地、光は使えるようになりたいと思っている。火や水は野宿をする時の必需要素で、風や光は普段の生活で使い勝手が良く、地は何かが攻めて来た時防壁を作るのに適しているからだ。こういうのは決して強そうだからとか、カッコイイからと言う理由で決めてはいけない。
さてまずLevel上げだが、これは後回しにしようと思う。先に無の魔術のLevelを上げ、精霊と契約をする。精霊との契約に必要なのは、どれだけ自分が精霊達に気に入られるかだけなので、道具は何も要らないからすぐ出来るだろう。そして無の魔術のLevel上げも、物に働いている重力を操るだけなので危険が少ない。全く危険がないとは言わないが、あの森に突っ込んで行くよりかは断然的に安全である。
「無の魔術は自分を浮かせたり、そのまま移動させたりすれば自然と上がっていくだろうけど…問題は精霊だね」
精霊は基本的に各属性の要素がある場所に居るのだが、契約時にあえて別の場所に呼ぶ…なんて事が少なくない。それは精霊が気ままな性格をしており、例えば水の精霊と契約しようと泉へ行ったら、精霊に泉へ突き落とされた…なんて事があったりするからだ。それが原因で契約者が死んでしまっては元も子もないと、精霊を閉じ込める結界を張った場所へ精霊達を呼び寄せ、そのまま契約をする方法を使う。
だが僕の場合はその方法はあまり使いたくない。何故ならその方法で契約した精霊は懐きにくくなり、力が十分に出し切れなくなってしまうからだ。
だから要素がある場所へ直接出向き契約を結びたいのだが…。
水にしても火にしても、この城ってそういうのからきし無さそうだよなぁ。地は城から一歩出ればあるからいいし、風はこの城の中にいても感じられるからいいとして。
問題は光と水と火だ。
一体どうすればいいのか…と考えて、ふと上の階から持って来たカンテラに目がいった。
「火はカンテラの火を使えば何とかなるか。水は…最悪僕の涙かな。でも光は……」
『太陽とか月の光は駄目なんですか?』
「…………いや。確かにそれがあったね」
ポツリと呟いたネシムの案に、何となく何かが負けた気がしたが、それを採用して契約をする事にした。
「では、無の魔術を発動させながら契約をやっていこうか」
感想、アドバイス等お待ちしております。