01.偉大な古代魔術師(笑)
鳥たちのさえずりと、木々のざわめきが聞こえる。
ここは、ゲームの中なのか?
ポツンと立った大きな城に、周りに自然があるそこは、沢山の自然と城や瓦礫が目立つ、しかしどこか神秘的な場所だった。
凄く綺麗なグラフィックだが、なにここ。普通ゲームの出発地点と言えば、穏やかな森や始まりの街的なところじゃないのか?
なのに鬱蒼と木々の茂った、いかにもボス戦臭のする場所って…鬼畜か!?
「…………」
あれ?
今俺はこの鬼畜がと罵ろうとした。それなのに口は動かないし、声も出ない。可笑しいな。
そう思いペタペタと自分の顔に触れて試しに笑ったり声を出そうとしてみたが、うんともすんとも表情や口は動かない。あまりの出来事に唖然とするも、それも表情には出てきてくれなかった。
いやいや、なんだよこれ。どんな人間でも多少の表情筋は動くぞ。完全なる無表情って…サイボーグかよ。
大きな溜息を心の中で吐くと、気持ちが少し落ち着いてきた気がした。冷静になった頭を働かせ周りを見渡す。すると突如、頭の中に変な地図が現れた。
自分はイかれてしまったのかと一瞬思ったが、そうでもないらしい。
『地図:その名の通り、辺りの地形を見る事の出来るシステムで、周りを見渡す事で発動する。プレイヤーは白、フレンドは青、ブラックリストは黒で表示可能。又、ギルドやパーティーに入っている場合はそれ等も表示され、ギルドメンバーは緑、パーティーメンバーは黄色で表示される』
この地図は何だろうと疑問に思った直後、そんな無機質な女性らしき声が頭の中に響いた。
この声は何なんだとは思ったが、ゲーム上でのシステムかもしれない。
取り敢えず地図はそんな感じのシステムらしいが、この頭の中に響く声は何だ?
本当にシステムなのか?
『音声補助システム:このゲーム上での単語、設定、情報、攻略法を音声で教えるシステム。女性と男性の声に変更可能。OFFには出来ません』
え、OFFに出来ないんかい!?
てか女性と男性の声に変更可能って、そんな設定いらん。
まぁこのシステム自体は便利だからいいけどな。
とそこまで考えて気が付いた。
あれ?もしかしてこのシステムが幼馴染み(仮)の言っていた、チートなんじゃないか?
だってこのシステムで攻略法を調べれば簡単にゲームが進むだろ。
なぁシステムさん、違うか?
『オプションNo.410:隠しオプションで付いた能力。キャラクター自身の身体能力、聴力、視力、嗅覚、学力がそれぞれ向上し、魔力量増量(超特大)と各ステータスの向上、魔法などの戦闘の才能がさらに付けられている。「これでアナタも今日からtueeeee」が誘い文句』
…なんか違った!?しかも正にチートだった!?
なんだよ魔力量増量(超特大)って。そんなに俺今魔力量多いのか?
スターテス画面を開こうと、目の前を探すが見当たらない。
と言うよりも、メニュー画面やログアウトボタンすらもない。
「……(ど、どう言う事ですか幼馴染み(仮)さんんんんん!!?!)」
頭を抱えるも、虚しく悲鳴すら響かなかった。
拝啓、幼馴染み(仮)様。
貴女のせいでログアウトすら出来ない日々が四日も続いています。どうしてくれるんですか、この詐欺師野郎。
確かにアンケートには現実はつまらなく残酷だと書きましたが、だからと言って電子世界に閉じ込められたい訳じゃないんです。
兎に角ここから出しやがって下さい。O☆HA☆NA☆SHIはその後じっっくりねっっとりとしましょう。
今俺は最初の地点から見えていた城に住んでいるため、モンスターと遭遇したりなんて事はありませんが、モンスターが周りにうじゃうじゃ居過ぎて日々が不安でなりません。
早くどうにかして下さい。マジで。
敬具、工藤朝輝より
って言うのを幼馴染み(仮)に送りたいんだが、送れたりするのか教えてくれシステム。
『メール:フレンドやパーティーメンバー、ギルドメンバーへメールを送る事が出来ます』
『メールをフレンドの幼馴染み(仮)へ送りました』
流石俺の相棒。仕事が早いな。
だがな、あいつはフレンドでも何でもないんだぞ?
何百メートルもある城の最上階の窓から外を眺めつつ、頭の中でそう考えるかのように言う。
ゲームへログインしてから四日、俺はこのゲームをまだ完全には理解出来ずにいた。だがこの数日間で分かった事も勿論ある。
まずは演じないと表情を変える事や言葉を発する事が出来ないという事だ。これは初日に分かったのだが、どうやら王子系の妖美な美男子とアンケートに書いた…正確には書かれた事が関係しているらしく、普段の自分で過ごすと表情筋が動かないのだが、王子様(笑)の演技をして笑ったり話したりすれば、思い通りに表情筋が動き話す事が出来るようだ。
お陰でさらに王子様(笑)の演技に磨きがかかった。
お次に幼馴染み(仮)の言っていた協力者とやらだが…そのままの意味だったようだ。城の豪華すぎる寝室で寝ようとした時、全身鏡に自分が映り、そして見てしまった。
白銀に輝く髪に、宝石のような黄金色の瞳。肌はまるで白磁のよう。目元のキリッとしたそれはもう超絶の美男子……って違った。
確かに驚く程に美男子だったが、本題はそこではない。
最も重要なのが、頭の上にあったオレンジ色で書かれたアサーティルの文字。システムに聞いたところプレイヤーの名前は白色、NPCの名前はオレンジ色で頭上に表示されるとか。
そして思った。
待て、オレンジ色って事は俺はNPCか?なんじゃそれ!?
てっきり一人のプレイヤーとしてゲームをプレイしていると思っていたから、半端なく驚いた。そして常に予想の斜め上を行く幼馴染み(仮)を、ある意味尊敬した。
にしてもNPCってゲーム上で作られるシステムだろ?
いいのかよ、生の人間がこんなんやっても。
『フレンド幼馴染み(仮)からメールが届きました。開きますか?』
そんな風に考えていると突如、ピロンと言う音と共に頭でシステムの声が響いた。
おっ、なんだもう来たのか。
開いてくれ。
『やっほー、元気にやっているようで何よりだよ工藤君。それだけ罵倒出来てれば大丈夫だね。
今から工藤君の設定を話すからよく聞くんだよ?
君アサーティル・クードは滅亡した国の王族に仕えていた偉大な大魔術師。そしてその滅亡した国こそ、この場所なのだー!あ、因みに工藤君の今いる城は王族の住んでいた城ね。更に言うと、後一年半でプレイヤー達がこのゲーム内にやって来ます。まぁ、最初は野原からのプレイになるから直接は関係ないけど、後々このマップを発見してやって来るプレイヤーが出るかもね。と言うのもこのマップ、実は隠しマップなのです!でも安心して。四日前からプレイしてるBテスター達には見つからないように工夫してあるから、まったり出来るよ。
それから協力者とは何ぞやって思ってたよね。それについてもしっかり説明するから聞いてよ。
協力者とはプレイヤーではなくNPCとしてゲームをプレイして、このゲームやシステムを支えて欲しいって意味なんだ。つまり!
工藤君は影でゲームを支え、支配できる…と言うことになるよ。ヤッタネ!』
ちょっ、影で支配って…どこの悪役だよ!?てかそれ、幼馴染み(仮)が楽しみたいだけだろ。
思わず宙を睨みつけたくなるが、それも出来ない。
『てへぺろ☆』
なんか通じた!?
幼馴染み(仮)に不可能はないんだろうか。テレパシーとか透視とかも出来そうに思えるから、恐ろしい。
『それで話を戻すよ。
もしかしたらもう気が付いてるかもしれないけど、工藤君は素のままで話したり笑ったり出来ないんだ。それはね、役を演じる事で工藤君の素性をバレないようにする予防線なんだよ。
それに考えてもみてよ。かっこいい顔してても残念な発言をしたら、台無しでしょ?
だからそう言う風にしたんだよ。
大丈夫!
思い通りに発言出来なくてイライラしても、音声補助システムのネシムちゃんに愚痴ればストレス解消出来るからね!
それじゃあ言いたい事も全部言ったし…バイバーイ☆』
こ、こんにゃろぉおおおおおお!
何がストレス解消出来るからねだよ。イライラするのを見越してやってるなんて、性格悪すぎるぞ!
『仕方ありません、あの人は常にああですから』
ピロンと音がして、女性の声が頭に響いた。
音声補助システムさん……俺の味方はアンタだけだよ。てか、名前あったんだな。
『音声の音とシステムのシムでネシムです。個人的にはまぁまぁ気に入ってますよ。適当に決められた感はありますが…』
そんな声に内心で微笑みながら、これがいつまで続くのかと考える。
俺は小さい頃から病弱で、病院に通いながらも学校には行けていた。けど、それも中学の終わりまでだった。
高校に入る前体調が急に悪化して入院を余儀なくされてからは、病院のベッドの上で寝転ぶだけの毎日。正直、高校へ普通に通える同級生達がとても羨ましかった。
だからなのだろうか。
ああは言いつつも、こんな風に過ごせると思うと心が弾んでくる。
これからは病弱な工藤朝輝ではない、健康的なアサーティル・クードとして俺は…否僕は生きるのだ。
「ネシム、これからよろしくね」
『はい、こちらこそよろしくお願いします。Mr.クード』