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ソラという僕

作者: のり

「アイは自分の出生について知っているのか」

またまた僕がこだわっている「でき婚」にまつわることを聞いてしまった。


もちろん意味や価値のない話であるが、自分にあきれながら続ける。


「でき婚で生まれていたのなら、親を恨むしかない。でき婚には子どもとして親を親として認めたくないだろう。君も親に興味を持って親子について理解を深めるべきだ。僕のアドバイスを聞いてくれないのなら君と別れてもいい。決死なる思いで僕は愚かなるアドバイスをしている。もし君が寛大なるおバカさんなら分かると思う。決して難しくないことを言っているから、落ち着いて聞いてほしい」


君はスマホをいじりながら上の空。ただただ僕は君の天然な感じに溜め息をついた。生温い炭酸が切れたサイダーを飲み干したのだ。


どんより曇った空のもと、テクテクと一本の通い慣れた地道を僕は歩いている。かすかに雨のにおいがする、そろそろしたら雨が振り出しそうだ。意識をしながら歩くスピードを徐々に上げる。ただただ雨に打たれたくない思いに駆られながら。必死に家路をたどりながら過去の親子関係を羨んでいる。今の僕にとっては何のための家なのか。帰るのことに、意味も価値など微塵も感じられない。親子関係は太くて丈夫で切ろうにも切れないからがんじがらめにされる。


家にいても、まったく落ち着けないのはなぜか。親子関係に起因しているのか。ただ子どもから脱皮したのか。石ころを蹴飛ばしながら僕は家路へ向かうのだ。頭を過ぎるものに僕は立ち向かっているのだ。たまに耳にする親子のこと。膝を突かずに転けたときの鼻をつく感覚。記憶の片隅にある些細なるトラウマ。痛みに纏わる残片が、いつも僕や世界中の人たちを苦しめているから、普遍的な親子のテーマに泣けそうになる。


「子どもは親を選べない」こと。「親も子どもを選べない」など。親からすれば子どもより苦にはならないだろう。理想の親や子どもにはなれない究極の苦しみ。息を潜めて淡い海面辺りを見つめるような生き方をしている。僕の家族は平凡であり、決して裕福ではないが生活には困らないのだ。親子三人である。父「ソウ」と母「ウミ」がいて、僕「ソラ」が生まれた。


なぜ僕ら親子三人が出会い家族を演じなければならないのか。良く分からない運命のいたずらってやつに失笑しながら、僕たち人間は当たり前のように生きているのだ。気づかない人は呑気な怠け者と言える。


僕なんて子どもは、ただ必要でもなく、もちろん必然でもなく、快楽に任せて、産み落とされたのであろう。愛の形が僕という子どもである偶然性に、いい年をしているのに僕は父と母を恨んでいるのだ。僕が僕のことを愛せないのも短絡的に産み落とされた出生の理由にある。でき婚に未だに理解できないのだ。僕はソラという名を持ち、どんより曇った空を眺める日々。


でき婚のことは撤回すると言っても何一つ覚えていないアイ。

「結局、結婚のあり方なんて僕らには関係ないな」と言うしかないのだ。僕らには近くて遠い未来の話だけど、悔しいほどにアイは無関心であった。


そうだ。父と母を恨んでいるだけでは、何一つ始まらないから、ソラという名を授かったことを誇りにして僕は生きるよ。

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