表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/20

プロローグ あるいは退屈な日常

 学園モノは初めてです。気楽にお付き合い下さい。

 よろしくお願いします!


 夢を、見た。


 今とは全く違う自分、でも確かに自分だとわかる奇妙な夢だ。


 そこでの俺はすごく惨めな奴だった。


 ……本当に、どうしようもない奴だった。

 特別な力なんて持ってないのに偉そうにしていた。

 行く先々の場所で誰からも嫌われていた。

 

 当然のように苛められ

 笑われながら這いつくばり

 必要以上に卑屈になって――――


 っそれでも……強くなる努力ができず自分を変えられない……!!


 弱気になって未来に怯え、家に引きこもった。

 家族には辛く当たり、悲しませた。


 いつからかパソコンから見えるのが俺の世界の全てになった。


 世界は灰色で、昇る朝日にも色が無い。


 弱くて、醜い。

 自分の事しか考えられていない。


 そんな奴だった。


 夢の最後は無理矢理連れ出された車の中で……

 家族と一緒に、交通事故にあって……泣くこともできずに死ぬ。


 でも、それも当然の天罰だと思えた。


 そんな憂鬱で、でも凄く生々しい夢で……

 俺は段々、そいつが俺の夢なのか


 それとも――――



 今の自分が、そいつの夢なのかわからなくなっていく。







 “世界には、知らない方がイイ事もある”


  と、どこかの国の偉い人は言う。



 詰まらない物の考え方かもしれないけど……

 それは本当のことなのかもしれないと、俺は思う。


 …………平和な日常というのは、誰かが知らなくていい、とてもくだらないことを知ってしまったばかりに、簡単に崩れてしまうことがある。


 俺はそれを今、思い知っているからだ。



 なーんて。


 授業中だというのに中二病真っ盛りの事を考えるのが忙しい高等部一年生がここに居た。

 しかもさっきまで寝ていた。

 あくびしながら目尻をこすると、涙まで浮かべていたりもした。


『ねーレイ?さっきからずーっと居眠りしてた上に、今度は窓の外ばっかり見てるけど、勉強しなくていいのー?』


 耳元で現実を突きつけてくる言葉にめげず、初夏の気怠い陽気に身を任せる。

 いやいや今日もいい天気ですなぁ。

 ……あー、駄目だ。

 午後からにわか雨か。気流が変化する式が見えた俺は、傘、持ってないなとブルーになる。


 もういいやー……もっぺん寝よ。


空瀬見ウツセミ!!おいうつせみィッ!!


 貴様ッ!!私の話を聞いてるのか!?」


 しかし、教室中に響き渡る――――というかむしろもうあれだ。

 空気をつんざくという方がしっくりくるような……何かの攻撃みたいなけたたましい声で、無理矢理に覚醒させられた。


『聞いてないの思いっきりばれてるよレイ!!』


「……やばい~!スピカ誤魔化してくれ」


『無茶言うなよ』


 マジレスされた。まぁもともと無理なのがわかりきってる話なので無理もない。

 あれ……日本語がおかしいな?


「お前――――ッ!!

 わざわざ学校に来て講義も聞かずに黙って座ってるぐらいならなァ!

 来なくたっていいんだぞ!!」


「……あー。か、勘弁してくださいよ先生……。

 俺が悪かったから……ね!」


 魔導化学のクラインがカツカツとこっちに近づいてくる。

 メガネで背中に定規が入ってるような説教くさいババアだ。生徒の大半には多分、顔を会わせるのも嫌だと思われているに違いない。

 ダークエルフらしい長身で、カッチリと一分の隙もなくスーツを着こなす銀髪褐色肌のその姿は、ミスカトニックの生徒ならば廊下で遠目に見ても恐怖の的だ。あと学生時代になんの部活してたのか知らないがとにかく一喝するときの声がでかい。もう何から何まで俺の苦手な女だ!


「へらへらと笑いながら一体何の言い訳のつもりだ貴様?気に入らないならここから出て行ってもらっても、別に構わんぞ」 


 口許は笑みを浮かべているが、ギラリと光る眼鏡の奥は笑っていない。何故だかこっちを睨む黒豹が頭に浮かんだ。

 しどろもどろになりながらも必死で俺は釈明する。


「い、いやほんと、あの、先生、……ね?うとうとしてたけど続きはちゃんと聞くんで……」


「……授業が終わったらついて来い愚か者め。授業時間分は私も今日のカリキュラムを喋らねばならんのでな」


 俺の弁解の言葉などこれっぽちも歯牙にかけず、ニヤリとサディスティックに笑うクラインの今の顔を見れば、ヘビー級の世界チャンピオンだろうが普通に背中を向けると思う。


(マ~ジっかぁ~……っ!!

 よりによってクラインに目を付けられるとは……!!ああ厄日だ……!)


 教壇に返っていく説教が長いし恐ろしい教師の後ろ姿を眺めながら、俺はしょんぼりとうなだれた。よりによってクラインの授業でぼーっと外なんか見てるんだから自業自得もいいところだが。


 それにしても今から憂鬱には違いない。あーさいあくだ。


 周りからは完全に同情より馬鹿を見る目で見られていた。

 笑っている奴もいる。

 まぁ初めてでもないし妥当な反応と言われればそうなのだろう。


(……やれやれ。まったく薄情な奴らだ)


 我ながら勝手な事を思う。

 が、それでもいい気はしないので笑ってる奴を睨み返してやると、向こうが鼻で笑って目を逸らした。

 まったくもって下らねー。なんて呑気な事を思っていたら、また教壇からクラインの大喝、もとい激励(?)が飛んできた。

 ただし今回は俺だけでなく、授業を聞く全員に対しての言葉だった。


「――――いいか。

 入学以来一ヶ月、環境に慣れて気が緩み始める頃合だ。貴様らの中にも勘違いしている者が多いようなので、良い機会だと思って言っておこう。



 ここは、教師われわれ生徒おまえたちに授業を聞いてもらわねば成り立たぬような、底辺の学び舎ではない!!」



 どよっ――――――!?


 突然の言葉に生徒の間から戸惑いの声が上がる。

 俺も流石にその言葉には驚いた。椅子からずっこけかけた。


「それしか能のない我々が

 金を貰うためにお前たちに話をさせて貰っているのではない。

 何も知らず愚かで使えないお前たちが

 知識ある私達の話を聞くために頭を下げて金を積んでいるのだ!


 ふん、実際はそれさえ国か親頼りだがな!


 つまり、我々はお前たちにわかりやすく物を教える義務など、どこにもない。別にこの学校を出ていこうがいくらでも自分の研究で飯が食える超一流たちだ。

 だからお前たちが死に物狂いで我々の話を聞け!

 分かり辛いなら理解する努力不足だ、私の代わりに授業できるまで授業予定を予習してこい!

 将来の図は自分で描け!

 貯めた知識は活かすも殺すも自分次第だ。


 ―――――分かったか!!」


 教室に沈黙が落ちる。そらそうだ――――。


「返事は、どうした貴様らァッ!!」


 ――――ハイッ!!と示し合わせたように全員の声が響くのもそらそうだろう。

 ……これも教育の賜物という奴なのか?


 (俺やっぱ、この学校に付いて行ける気がしねー……)


 一人でにがくっ―――と頭が落ちる。

 大人様が背負わそうとしてくるもんが大層過ぎて、首から上がとろけそうだった。

 ああ――――これだから上流階級は。


 自分で言いやがるのはどうかと思うが……しかし。

 クラインの言葉は決して、誇張や自意識過剰というわけでもないのである。


 学術都市アーカムのミスカトニックアカデミーと言えば泣く子も黙る。



 地球では十指に入るほどの名門校であるし、規模も通常の学校とはまったく桁が違うのだ。なにせ異世界との窓口みたいなもんなんだから。

 都市の機能の半分が、この学園の機能を円滑に運営するために集まっていると言っても過言ではない。それほど教育研究に力を費やしながらでも、同時に経済都市としても十分以上の都会として成り立っているのが、アーカムという都市の名を今や世界中の人間が知っている理由なのだ。


 そんなとんでもない名門だというのに、俺みたいなどこにでもいるふっつーのボンクラがどうしてこの学園に在籍しているのか。


 その理由というのがただ一つ。


 生まれた時にもらったこの瞳が、地球に限らず交流のある世界全ての記録をひっくり返して見ても非常に稀少な魔眼……あらゆる魔眼の能力を使いこなす可能性を秘めていると言われる、おとぎ話のように馬鹿げた特A級指定の魔眼

最終定理セオリー・オブ・エブリシング

かもしれない、という事が発覚してしまったからだ。


 たったそれだけの理由で――――。

 たかが眼球二つのために世界様ともあろうものが多大な資金と言語チートな魔具をポンとただの高校生の前に用意してしまったのである。


 ようするに俺の吹けば飛ぶような人生の価値より、この魔眼の価値の方が世界にとっちゃ、純金宝石のように重いそうだ!


 なんつー話だ!


 とはそりゃ思うが、まぁそんな恐ろしい魔眼の価値もろくに知らず、ほいほい気軽に人前で使ってしまった俺と両親の不注意に対しての責任も、十分重いとか言われそうではある。けど知るかそんなもん!


 ……とか強がってみても、期待も疲労もこの小さな背中にはやっぱり重い。

 重すぎるっ!!

 ……色んな意味でぐったりした俺の脳にはやはり、複雑な授業の内容は入ってこないのだった。


(あーあ……。クラインの説教は嫌だけど、さっさと放課後にならねーもんかねえ……。こんなときはダンジョンでも行かねーとやってられねーは、ああマジで)


 一応ノートを開いてペンを下に向けるも、好きな事への妄想だけで時間はみるみる過ぎていく。


 結局この机の上だけはいつも通りの俺の日常、

 あるいはどこにでもある高校一年生の昼下がりの風景なのだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ