表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/22

第2章 始まり 第1話

「はっ?」

 明治は、呆然としていた。自分の部屋にいたはずなのに、いつの間にか外、しかもまったく見覚えのない場所に立っていたのだ。

 明治は、その場に立ち尽くしたまま、ふと、手に持っていた石を見た。

 先ほどまで、明治の部屋を呑み込むほどの光を放っていた石は、今はその光が嘘のように消え失せ、どこか透明感のあったその表面は、ただの石のようにくすんでしまっていた。

 明治自身は知らないことだったが、実はその石は、有史以前に存在した超古代文明が作り出した、オーパーツだったのだ。そして、明治は偶然にもそのオーパーツに秘められた能力を発動させ、その結果、現在の状況に置かれたのだ。

 自分が持っていたものが、超古代文明の遺産だとは全く思っていない明治は、とにかく今の状況を掴もうと、先ほどから聞こえてくる騒がしい音のほうへと歩き出した。

 やがて、小高い丘の頂上に辿り着いた明治が目にしたものは、およそ信じられないような光景だった。

 戦国時代の映画などに出てくる鎧に身を包み、刀を振りかざし、切り結ぶ人々、中には、背中にのぼりを背負っている人や、馬上から弓を射る人、長い槍状のものをもって突っ込んでいく人などが入り乱れ、幾人もの人々が地面に横たわっていた。

 およそ、映画や漫画でしか見ることのない光景を前に、明治は混乱していた。

「何これ?映画か何かの撮影?」

 しかし、それにしては撮影する機材や、スタッフが見当たらない。それに何より、風に乗って明治の元に届いた匂いには、血の匂いのようなものが多く含まれていた。

 戦場などの、命をやり取りする場にいたことのある人であれば、ここが本物の戦場だということ、また、この場にとどまることで、危険な目に遭うことも分かっただろう。

だが、極一般的な場所で育った明治に、そんなことがわかるはずもなかった。

―ガサッ

 背後から聞こえた音に、明治は思わず振り返った。

 そこには、下にいるような人たちと、同じ格好をした男が立っていて、明治を訝しむように睨みつけていた。

「あ、あの…」

 明治が何かをしゃべろうと口を開いたが、男が遮った。

「貴様、何奴!面妖な格好をしおって!」

「え、えっと、あの、その…」

 明治が戸惑っていると、男は腰に提げていた刀をスラリと抜いた。

「さては貴様!敵方の間者―スパイ―だな!ここで斬ってくれる!」

「はっ?え?ちょ、ちょっと…」

「ええい!問答無用!覚悟!」

 明治が何かをしゃべろうとするが、男は聞く耳持たない様子で、手にした刀を大上段に振りかぶった。

 これが、映画の撮影ならば、刃をつぶした模造刀を使うので、斬られたところで、打撲程度で済むのだが、男の気迫のせいだろうか、振りかぶられた刀から伝わってくる空気が、明治に本能的に、死を連想させた。

「ひっ」

 迫りくる刀を目の前に、明治は思わず、目を瞑り、体を強張らせた。

 瞬間、

―ヒュッ!

 何かが空気を切り裂いて、明治の頬を掠め、トンと軽い音を立てた。そして、

「うっ…」

 今まさに明治を殺そうとしていた男が短い悲鳴を上げ、そのまま仰向けに倒れこんでしまった。

 明治が恐る恐る目を開けると、男は、額に矢を突き立てられて、絶命していた。

 痛みで熱い頬を無意識に押さえながら、何が起きたのか理解していない明治は、ゆっくりと後ろを振り返る。

 そこには、矢を放って、残心の形でこちらを見ている人物がいた。その人物は、いまだ弦が震えている弓をゆっくりと下すと、甲冑を鳴らしながら、明治のほうへと歩いてきた。

 明治は、とうとう緊張の度合いが限界を迎えたらしく、矢を放った人物が近づいてくるのを視界の端に収めながら、そのまま気を失ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ