一日目 反省してるつもり
▼▽ 一日目 反省してるつもり ▽▼
今度は少し真面目に、やろう、絶対にゆるさないと思った。同じあやまちを何度も繰り返しちゃ駄目だよね。
「パルちゃんごめんね。ほんとに一緒にいたかっただけなんだ」
甘えるよーにパルちゃんにゆっくり抱きつくと、すぐに優しく抱き返してくれた。そのまま嘘泣きして同情を引いて、後々からかいやすくしようかと思ったけど、背筋に何かが走ったのでやめておいた。
「ふぅ。素直に一緒にいたいと言えばよかったのだ」
僕は言ったはずだ。覚えてないのか疑わしいので、パルちゃんをジトッとみつめた。
「僕は素直に言ったのに、パルちゃん、駄目だ! ばっかりだったよー?」
「うっ……そんなことはないぞ」
パルちゃんが目を逸らした。この反応は、絶対忘れていた!
「パルちゃんが嘘つきだ! ぷぅ」
僕は怒ってるんだ! っていう感じを出すために頬を膨らませてみた。そのままパルちゃんをジッと見詰めていたら、僕に目を合わせて、真剣な表情になった。
その後、僕の顔に両手を寄せてきたので、何かな? と思っていたら頬を挟まれた。
「ぷふっ。はひふるんはよー」
「すまぬ。ティルと一緒にいるのが楽しかった。だが、それ以上に怖かったのだ……また、離れていくのではないか。また、失ってしまうのではないか……とな」
「へーほふよくわかんないけど」
パルちゃんが途中で頬から手を離してくれた。
「だが、ティルが良ければ……」
パルちゃんは言葉が出てこないみたいで、目をつぶっちゃった。なので、僕はパルちゃんの手を強引に握って、振り回した。
「僕はパルちゃんと一緒にいたいな」
「私も一緒にいたい。だが……」
パルちゃんが俯いちゃった。
「危険になったら離れてるから、ねっ! 大丈夫!」
「言葉が出なくて、すまぬ」
「気にしない。友達なんだから、なんでも言ってね」
「ああ、わかった」
パルちゃんが顔を上げて笑ってくれた。とても可愛いく見えるね♪
「ティル。私は少しここに居るので、ボールの試験を受けに行ってくれないか?」
「一緒に行かないの?」
「うむ。だが、すぐ見に行く。すこしだけ一人にして欲しいのだ……」
パルちゃんが振り返って、頭の横で手を振ってる。さっさと行けって事かな?
「んー……またあとでね!」
心配な気もするけど、ずっと傍に居ても落ちつかないかな? そう思って、荷物を持った後すぐに僕も振り返って、ボール試験の所へ向かい始めた……
「ありがとう」ってパルちゃんが言ってたかも?
僕の前に何人か並んでいたけど、少し待っていたら僕の番が来たみたいだ。
前の人達とパルちゃんを参考にしようと思ったけど、パルちゃんの動きはどう考えても参考にならなかった。パーフェクトとか絶対おかしいよね!
見てて青いボールは少ないみたいだと思った。
『白色の玉は体で受け止めて、赤色の玉は避けて、青色の玉は投げ返せ』
机の上に置いてある、その説明の紙を見直して、僕もいい方法を思いついた!
「はじめ!」
その掛声と同時に白いボールが顔めがけて飛んできた。左手で叩いて落とすと、すぐに右側から赤色のボールが飛んできた。
避けるために前に一歩踏み出すと、足元めがけて白と赤のボールが飛んで来た。赤を綺麗に避けて白を蹴り飛ばすと、待望の青いボールが来た!
それをしっかりと手でつかんで、次々と来る赤と白のボールを上手く捌きながら、振りかぶった人を見た。
その人が投げる直前に、僕はその人めがけて全力でボールを投げつけた!
「いっけーーっ!」
その人が投げたと同時くらいに、その人のお腹辺りにボールが当たって、その人は後ろ側にもんどりうって倒れた。
そのまま続けて、ボールを捌くのを何度かミスしたけど、青いボールを十数回投げ返して、三人を倒す事に成功した! 誰も倒してないし、やったね!
「よーしっ! もっとこーい」
そこからは人も少なくなったし、簡単だなと思っていた。でも、僕が青いボールを持っていると、なんでかわからないけど、ボールが飛んでこなくなっちゃった。
「ぷっくっくっ……そこまで、止め。ぶはっ」
終わったら、試験官の生徒が口に手を当てて笑って、その後ろで、鬼が口を押さえて親指をグッと立てていた。どうしたんだろうと思った。今は真面目にやってるし、僕のした事は駄目だとも書いていなかったはずだ。
怖いけど、逃げると追われそうな気がするので、鬼の傍に歩いていった。
「先生、駄目でしたか?」
「いいや、駄目じゃないぞ。とても面白かったな」
真面目な表情だけど、また手を口に当ててる……
「面白かった?」
「ああ、違うな……素晴らしかったぞ」
なんか納得がいかなくて、首を傾げていたら、鬼が横の方を指差した。
そっちの方を見てみると、人がたくさん走っていて、一番奥の所は人がたくさん座り込んでいた。あっ、体操してる人もいる。
「次は走るんですか?」
「そうだ。その調子で、次も真面目にやるように」
自分で決めて走るのは好きなんだけど、言われて走るのはめんどくさいなぁ。どうしよっかなーと思った。
「ティル」
呼ぶ声が聞こえたので、そちらに振り向くとパルちゃんが歩いてきてた。
「あっ、パルちゃん。次は走る試験みたいなんだけど、一緒に走る?」
「うむ。次に勝った者が勝負の勝者でいいな?」
まだ勝負って続いてたんだ……
「もう僕の負けでいいから、勝負は止めようよー」
「ぬぅ……」
悩み始めたみたいなので、考え直してくれるのを期待して黙って待っていた。
考え直してくれると期待した僕が馬鹿だったとすぐにわかった。
「では勝負して、ティルが勝ったら、一つ頼み事を聞こうではないか!」
パルちゃんから今までにないくらい気合の入った声が聞こえた。
なんだかパルちゃんハイテンションみたいなんだけど、どうしたらいいんだろう? ちょっと考えたけどわからなかったので乗ってみる事にした。
「僕が負けたら?」
「私が頼み事を聞いてもらうのだ」
パルちゃんがうんうんうなずいて納得したようにしてる。
「んーと、僕が二つならいいよ」
僕にあんまり得がないように思えたから、てきとーな事を言ってみた。
「なんだと。んぬぅ、だが、私が言い出したのだ……わかった、その条件で勝負だ!」
少し悩む素振りが見えたけど、すぐに気合の入った声が聞こえた。
「ぇえっ、ほんとにいいの?」
ちょっとだけ答えを間違ったかも知れないなーと思った。
「私が勝てばいいのだ。問題ないぞ。ふふふ……」
パルちゃんの顔がにやけておかしい。それに、不気味な笑い方してる。あれは絶対えっちぃ事考えてる笑い方だ! 僕にその気はないのに……ヤバヒ。
「ちょ、ちょっと考え直していい?」
「駄目だ!」
パルちゃんが急に真剣な表情になって、がっちり両肩をつかまれた。指が食い込んでちょっと痛いし、目が笑ってないよう。ヤバヒ。
「ティルが二つならば良いと言ったのだ。断るのはずるいぞ!」
「えーと、うん。勝てばいいんだよね、うん」
「うむうむ」
負けそうになったら逃げよう。僕は心に堅くそう誓ってパルちゃんと一緒にうなずき、一緒に試験官の人に紙を渡した。
「お願いします」「はいっと」
「最初は向こう側の壁まで全力で走って壁に触ってね。次は速度を落としていいけど、そのまま向こうから十二往復するんだ。毎回こちらと向こうの壁に触るのを忘れないようにしてね。終われば後は柔軟で終わりだよ。係の人が数えてるからさぼらないでね?」
そう言って、試験官の人は壁の傍にいる生徒を指差した。
「説明ありがとうございました」「はーい」
あれが係の人かな? そう思いながらいちおー返事をした。
八十メートル×十二だから……
「大体千メートルだね」
「直線が二十五回だから丁度二千メートルではないのか?」
「そうとも言うね」
「ふふふ」
パルちゃんが生暖かく笑うのを見て、ちょっと間違えた位どうでもいいじゃんと思う。別に腹は立っていないけど、弱みを握られるわけにはいかないので怒る事にした。
「何がおかしいんだよー。間違ったからってバカにするなよーっ」
「馬鹿にしたつもりはないのだ」
「ふんだっ」
頬を膨らませて、横を振り向いたら、パルちゃんが抱きついてきた。
「すまぬ……ティルがあまりにも可愛くみえてな」
これは、この言葉は……やばひ。
「ぱっぱっぱっぱろちゃん。はやくはじめよう。ね!」
あまりにも焦って口を動かしてしまったせいか、口が上手く回らなかったのが自分でもよーくわかった。
「そうだな。では行くとするか」
係の人の近くに歩み寄って、荷物を床に置いた。
「君達で多分最後かな? 壁に足をつけてね……いいかい?」
「はーい」「お願いします」
「では、初め!」
その掛け声と共に、僕は全力で走り始めた。パルちゃんも走り始めてるはずだけど、横に並ぶ感じもないし、すぐに反対側の壁に着いた。
振り返ってすぐに駆け出すと、それほど離れてはいないけど、パルちゃんは壁までまだかかる感じだ。
この調子ならいける! そう思って僕は全力で折り返し、走り始めた。
今、三往復目だ。まだまだいける、パルちゃんとはまだ離れてるし、勝てそうだ。
いーまー六往復目。ちょっと息があがってきたかも。でも、まだ差はあるし大丈夫。
やばひ、九往復あー、抜かれそう。必死に走ってるのに、パルちゃんはすぐ横を平気な顔して走ってる! やばひ。
らすと十二往復目なんだけど、もう無理。パルちゃんはすでに折り返してて、もうゴールしそうだ。息が上がってもう無理。
「ハァハァ」「ゼヒッ、ゼィ、ハッ、ゼヒッ、ハッ」
ゴールしたけど、呼吸が、疲れた。もう駄目。壁に、寄りかかって、休もう。
「ふぅぅ……大丈夫か?」
「ハァ、ハァ、駄目、ぽい」
「ほら、これでも飲むがいい」
パルちゃんが水筒からコップに飲み物を入れてくれてる。心配そうに僕を見ているのがわかるので、優しいなと思った。
「ハァハァ、えっと……ありがと」
「気にするな」
「んきゅんきゅ……ふぅ。ごちそーさま」
水を飲み終わって、パルちゃんにコップを返そうとしたら、顔を赤らめてる……走ったから顔が赤いせいもあるんだろうけど、それだけじゃない気がする。
「ティル、そのだな……」
そういえば、負けたらお願い事の約束あったなぁ。
パルちゃん言い辛そうにしてるし……ちょっと、ぜんぜん、かなり、まったく気が進まないけど、僕も女だ、二言はない!
目をつぶって大きく息を吸って、吐いて、呼吸を整えた。
「パルちゃん。僕、初めてだから優しくしてね」
「は? 何をだ?」
パルちゃんがそう言って一歩後ろに下がった。さっきまで赤かった顔が普通の肌色になって……むしろ白いかも?
「あれ? 違った」
ああ、もしかして、僕の早とちりかもしれない。僕のバカ。
「ティルはエッチが好きなのだな? 良くわかったが、私にその気は無いぞ」
そんな目で見ないで! 僕は悪くないし……そうだ、パルちゃんが悪い!
「僕もそんな気はないよ!」
「ならば、何故そんなことを言ったのだ?」
「それは……パルちゃんが、なんでもないよ」
あうっ、まずい。手を振ってなんでもないと強くアピールしたつもりなのに、返って疑いを深めちゃったかも。
パルちゃんがジトッと僕を見詰めてる。
「ティルは、私が変態だと思っていたのだな……」
「変態だなんて思ってないってば! 普通に女の人が好きな……あっ」
セーフだ思うけど、最後まで言ったらアウトだった。
「ほほう? それが本音か?」
でも、パルちゃん的にはアウトだったみたいだ。
「ぁぁ……パルちゃん、誘導尋問なんてずるいよう」
「ふっ。どうやら、じ・っ・く・り、と話し合わねばならないようだな」
やばひ……パルちゃんが両手を広げて迫ってくる。逃げようと思ってたけど、壁によしかかって座ってたら、逃げれないよね。なんとかしないと……
これだ、この手しかない!
「パルちゃん、優しくしてね」
とても可愛く、愛らしく見えるように、手を組んで、首をかしげて、上目遣いでパルちゃんを見詰めながら口を動かした。
パルちゃんの目が萌え始めた……怒りの火が見えそうで、逆効果だったみたいだ♪
「ティィィィルゥッ! 覚悟はいいな……」
「手加減してほしーなー」
パルちゃんのおどろおどろしい唸り声のような声に対して、目をつぶって無心になって棒読みで呟いた……
僕の笑い声じゃない事にした声が響いていると、ちょっとなんか人増えてないかな。そう思って目を開くと、おにーっ!
「あははは、なんで、一緒に、あははっ、こしょばしてるのっ。もういーやーっ」
僕は泣いても笑っても仕返しを忘れないっ……
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馬鹿ばかりで内容はスカスカです。気楽にどうぞ。
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