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一日目 指導室

▼▽ 一日目 指導室 ▽▼


 指導室と表札がかかった黒いドアを開けてもらって部屋に入った。そこはそれほど広くなくって、普通の白い壁に白い床、灰色の金属製の机と椅子がある普通の部屋。

 先生と向かい合って立っているんだけど、逃げたくてしょうがない。並んで立っているパルちゃんに助けを求めたいけど、助けてくれない気もする。

「先生もな、本当は罰など与えたくないのだ。だが、示しはつけなければいけないんだ」


「えーと、話し合いでなんとか。僕、話せばわかる子なんです」

 先生から本当は叱りたくないという気持ちが痛いほど伝わってきた。だから、手を組んで目を潤ませて、先生の目をジッと見詰めて言った。すると、先生が微笑んでくれたので助かったと思ってホッと息を吐いた。

「己の未熟が招いた事。謹んでお受けいたします」

 先生はパルちゃんの言葉にうんうんうなずいてる。


「君は良く出来た子だな。今回は初回に免じて許してあげよう」

 そう言って先生はパルちゃんの頭をなでた。

「良いのですか?」

「わかってるようだから構わないさ。だが、次はないから心しておくように」

「はい。以降気をつけます」

「すみませんでした」

 パルちゃんが丁寧に頭を下げたのが横目に見えたので、僕も先生の怒りをやり過ごせれば良いなと考えて頭を下げた。


「君は、心も体も未熟みたいだな。先生はな、嘘泣きもごまかすのも大嫌いだぞ」

 体もって酷くない? とちょっと言い返したい。でも、威圧されているように感じちゃって、怖くて顔を上げられないよう。僕がなにしたっていうんだ……

「教育者とは大変なのですね」

 自分だけピンチを切り抜けられたからって、他人事みたいに言うパルちゃんなんて嫌いだ! 抜け駆けだ!

 そう思いながらパルちゃんの方を横目で睨むと、心配そうに僕を見詰めてくれた。

 罪悪感がするんだけど、僕が悪い訳じゃないよね? んーと、えーーと、思い出してみると僕が悪かったような気がする……


「さて……未熟な君は訓練場千週か、反省文千枚だな」

「先生! ちょっと多すぎませんか?」

 本気なのかふざけているのかわからなくて、手を上げて声をぶつけた。反省文の方が若干楽そうだけど、どちらを選んでも僕には不可能な内容だ。

「おまけしてあるからな」

「もっとまけてもらえませんか?」

 増やすおまけのような気もしたけど、減らしてくれるおまけかもしれないと信じてそう提案してみた。


「そうかそうか、おまけで増やして欲……」

「わーっ! わーっ! 待って!」

 僕は増やすと言葉が聞こえた瞬間、思わず先生につかみかかってしまった。でも、綺麗に避けられて、小脇に抱えられちゃった……この体勢はまずい。

「初回だから優しくしたつもりだったんだが。君には体罰しかないようだ。悲しいな」

 先生の口調が楽しそうに聞こえるので、ろくな事にならないと感じて即座に抵抗しようとしたけど、ジタバタも出来なかった。


「待って待って待ってください! 話せばわかります!」

 しょうがないので声だけで抵抗したけど、結果は……

「駄目だ。君は屁理屈ばかりだからな。体に覚えさせるしかない」

 スカートをめくられた。ヤバイ。気付かれても終わりだし、叩かれても終わりだ。

「や! 待ってーっ!」

 必死な思いで叫んだけど、ベチュンとお尻を叩かれた。お尻が痛かったけど、それよりもなによりも、少し湿った音が痛かった……

 うう、僕は終わったかも。


「お子様だからしょうがないか……よし、ここまでにしよう。よく頑張ったな」

 よそよそしい声ではーとが砕けて、励ましの声で目に涙が浮かんだ。

「ん? しょっぱい?」

 パルちゃんの追い打ちで目の前が真っ暗になった――



 ――暗くなった直後に、目の前の景色が急に切り替わったように感じた。大きな木がたくさんはえてて、見覚えがある懐かしい風景が見えたからだ。

 パルちゃんは許せなくないけど許さない。実行犯である鬼の記憶は絶対に消し飛ばしてやると決めてから、なんでこんな森の中にいるのか、理由を考えた。

 目線が低いし僕が少しちっちゃくなったような気がする。もしかすると、ここは僕が生まれた村かもしれない。でもそうなると、移動手段がわからない。


 学園から一日で来れるような距離でもないし、なによりも魔物の襲撃でもうなくなっちゃったはずだから、この森があるのはおかしい。

 悩んでいると体が勝手に動き始めた。

 ちょっと、そっちは危ないよ? そう呼びかけて、どこに行くのかわかっていたので止めたかった。止まろうとしても、体がいう事を利かない。


 森の奥は駄目だってば! 奥の方は魔物の領域だから、いっちゃいけないよ! 呼びかけても通じない。

 ぁぁ、ほんとに駄目なんだって。そこの太い縄で縛られてる木は越えちゃいけないって、いつも言われていたのに……

 ああ、越えちゃった。誰か止めて。早く止めてくれないと、あの、頭がたくさんある太った悪い魔物が来ちゃう……


「ニンゲン、ガキ。ヤワイ、ウマイウマイ」

 頭が三つある魔物が見えた。今の僕なら倒せる自信がある。でも、体が動かないし声も出せないからどうしようもない。

「おじさんどうしたの? お顔が怖いよ」

 僕よりちょっと高い声が聞こえて、魔物から少しずつ後ずさってるのがわかるけど、逃げれそうにない。相手の体が大きすぎる……

 僕の予想が正しければ、多分、絶対に夢だろう。


「ハダ、ヤワイヤワイ」

「おじさん痛いよ。触らないでよ、止めてよ」

 魔物に腕を握られても僕は痛くないから夢なのはわかったけど、嫌なものは嫌だ。

「メス。ヒトリ、ミナ、イタダク、モチカエル」

「止めてよ、離してよ!」

 ペチペチと魔物を叩いてるけど、まったく効いてない。あ、噛み付いた。


「ウルサイ、コノママ、タベルカ」

 そう言って魔物は口を開いた。大きい口だなぁ、今の僕でも一口かも?

「パパー、ママー、助けてよー」

 目の前がにじんで、何も見えなくなってきた。

 それに体が揺れてる? なんだろ?

「……ル……テ……か……ぶ……だ……」

 なんか揺れが激しくなってきた――



「――ティル。どうした! ティル。大丈夫か!」

 声が聞こえて目を開くと、パルちゃんの顔が目の前にあった。

「ああっ。パルちゃん? 大丈夫だよ」

 やっぱり夢だったみたいだ。良かった。そう思いながら返事した。

 ベッドの上に寝かされていたみたいで、ここはサボるためにパンフレットに目を通しておいた、仮眠室か休憩室かと考えた。

 ちょっと見回すと、どっちかと言うと保健室だなと思った。


「急にうなされ始めて心配したぞ」

「悪い夢を見たんだ、それに魔物が出た。心配させてごめんね」

 パルちゃんが少し離れたので、腹筋を使って息を吐いて起き上がり、足を伸ばして座っている状態になった。

「いい、気にするな。あんな事があった後なのだ、悪夢を見てもおかしくはない」

「あんな事? 僕どうしたの?」

 パルちゃんはパイプ椅子に座ってわかったようにうなずいてるけど、僕は悪夢を思い出しそうなので、その直前を思い出したくない。だからそう聞いた。


「元気を出せ、誰しも小さい頃は、そのような事はあるものだ」

 頭を優しくなでてくれるのが少し嬉しいけど、言っている意味がチョッとわからない。

「小さい頃って何で? 僕、そこまで小さく無くない? おかしな寝言でも言った?」

 もしかしたらさっき見ていた悪夢が関係あることなのかもしれない。そう思って思い出さないようにして、頭に浮かんだことを適当に並べた。


「これからは私が面倒を見るから、無理をするな。虚勢を張らなくても大丈夫だ」

「や、別に面倒なんて見てもらわなくて大丈夫だけど」

 自分の事は一応自分で全部してきたから、面倒を見てもらうような事は無いし、家事で出来ない事もないはずだ。でも、頭をなでてもらっているとほんわりして、家族のような姉妹関係もいいなーと思った。

「不安を押し隠して明るく振舞っていた事を薄々感じていたのに、それに早く気付けず、すまぬ事をした……」

 パルちゃんは目を閉じて、辛そうに謝ってくれた。言い返したい事はあるけど、まだ続きのお話しがありそうなので黙っていた。


「そなたがそんなに年若いとは思わなかったのだ」

 パルちゃんが抱きついてきたので抱き返すと、そんな言葉が聞こえた。

「パルちゃん? 若いってなんで? 僕パルちゃんと同じ位の年だと思うよ?」

 年若いって意味がわからなくて、怒りで頭がフットーしそうだヨ?

「隠さなくても大丈夫だ。才能を見込まれて、最低年齢の十で入校したのだろう?」

「十歳って事? 僕十八なんだけど」

 身長が百五十センチあると思いたいはずだし、いくら下に見られても十歳はおかしい。

十八歳だと信じ込めばそうなるはずだ。


「そんなはずはない。恥ずかしい思いをさせてしまってすまぬが、カバンから取り出してパンツを替えた際にはえていなかった。だからわかってしまったのだが、もう大丈夫だ」

「えっ?」

 そう言ってパルちゃんは僕を強く抱きしめてきた。思考がちょっと追いつかない。

 パンツを替えた? 誰の? もしかして僕の? もしかして見られた?


「安心しろ。誰にも言わぬ。心配するな」

 放心しちゃった心を無理矢理集めて、パルちゃんの言葉を少し考えた。

 そうか。つまり、パルちゃんを消せば誰にも知られないって事か。とりあえずパルちゃんを消してから、パンツを消そう。


「パルちゃん、僕のパンツはどこ?」

「とりあえず、あそこに干しておいたぞ」

 顔を動かして、視線で示してくれた。

 僕も視線を動かすと、細い針金で作られたような布巾掛けのような所に僕のパンツは掛かっていた。そんな目立つ所にそのまま掛けるなんて、絶対許せない!


「パルちゃん。僕、頼みがあるんだ」

 パルちゃんの背中に腕を回して、手を組んだ。

「なんだ? どんな事でも任せてくれていいぞ」

「一緒に、旅に出て欲しいんだ」

 足に力を入れてベッドに体を固定する。


「んん? 旅? 今行くのか?」

 不思議そうにしているパルちゃんを少し可哀想に思うけど、止める気はない。

「そうだよ……あの世に一緒にね!」

 そう言いながら、パルちゃんをベッドに引きずり込んだ。誰かの悲鳴が聞えたとか、聞こえなかったとか。今日の事は、僕の思い出に一生黒歴史として残ると思う……


 ……でも、まだ今日は終わってなかったんだ。あの後、パルちゃんに普通に逆襲されて、ノートに書いてあった事を有言実行された。

 全力は出さなかったけど、動ける場所が少なくて体捌きで負けた。この世は力が全てだと思い知って、悔しかった?

 パルちゃんは僕の三つ年下だと教えてもらったから敬語を使う気なんて無いし、動悸が治まったので今日の予定を教えてもらう所だ。


「今は確か、訓練場で運動能力の測定をしているはずだぞ」

「パルちゃんの変態! 僕もうお嫁にいけない……」

 少し目を潤ませて見詰めてみたけど、パルちゃんは冷たい目で僕を見返した。優しくない! 嘘泣きは通じないかなぁ。


「今日と明日の空いた時間で話し合いをして、総合力試験用のパーティを組んでおけと言っていたぞ」

「へぇーそうなんだ。僕はもうどうでもいいよー」

 そう言った後、またベッドに倒れこんでみた。

 パルちゃんが微笑を浮かべて、襲い掛かるように両手を上に構えた。それだけなのに、背筋がぞわってなった。僕はパルちゃんが苦手になったかもしれない。

 すぐに起き上がって、屁理屈を言うしかないと思った。


「ちょっ、ちょっとまってよ! 疲れてるの! もう休みたい」

 パルちゃんが僕を睨んで、息を大きく吸い込んだ。

 もうその手には乗らないぞ! と意気込んでいたらパルちゃんが息を大きく吐いた。

「フゥ……お漏らしして疲れたのか?」

「あああああっ! パルちゃんのばぁかぁっ!」

 折角封印したのに解かれた。絶対に復讐してやる! 心に堅くそう誓った。今日はもうめんどくさくなってきたからする予定はないけどー。


「さぁ、測定に行くぞ!」

 そう言ってパルちゃんは僕を抱き起こそうとしたけど、断固拒否した。

「行きたくないんだよー。わかってよー」

「駄目だ! 行くぞ」

 パルちゃんは強く引っ張るけど、僕は更に頑張った。


「年上を敬う気持ちはないのー?」

「ティルに限ってはないな」

「ぇー。なんでだよーっ」

 わがまま言う子供のようにジタバタしてみた。

「そのような態度をとるからだ。まぁいい、行くぞ」

 パルちゃんも強情だなぁ。心配してくれるのは嬉しいんだけどねー。


「んー。なんかどうでも良くなってきちゃったしー」

「なるほど……そうか。わかった」

 パルちゃんはそう言った後、手を放してくれた。そのまますぐに振り返って、ドアに向けて歩き始めちゃった。

 おかしい。

 なんか言われると思っていたのにな。そう思ったけど動くのも考えるのもめんどくさくてベッドに寝転んでいる。

 ギギギとドアの開く音が聞こえた。

「あの先生に、さぼり、としっかり伝えておくから、安心して休んでおくがいい」


「ぁ……ぇ?」

 パルちゃんはこちらを見て優しく言ってくれた後、バタンとドアを閉めた。優しいのは言葉だけで、口端が吊りあがってたし、心配そうに見てたわけじゃないはずだ。そう思いながら、んー、まぁいっかと思い直してゴロゴロしていた。

 少し考えると嫌な予感がした。

 あの先生? 僕って、先生って二人しか知らないんだけど?

 あれ? もしかして……まさか……


 あの女の先生? それなら、あれをばらすとかやりかねないかもしれない。ぁぁ……ああ……やばひ。

 すぐに起き上がって、ベッドから降りて立ち上がった。床にカバンが置いてあったのでそれを持って、すぐにドア目掛けて駆け出して、ドアを開いた!

「パルちゃん待ってーっ!」

 そう叫んで左の方を向いて駆け出そうとしたら、後ろから誰かに抱きつかれた。この感触はパルちゃんだ。怒ってないのかなと思ってそっと聞く事にした。

「パルちゃん? 待っててくれたの?」


「当たり前だ……」

 助かった。逆の方向に行く所だったみたいだ。それ所か、訓練場の場所を知らない事に今更気付いちゃったんだけど。

「置いていったら、そのまま寝てしまいそうな雰囲気だったからな」

 僕の事を良くわかってるなぁと思った。鬼の顔を思い出さなかったらそのまま寝ているつもりだったし。


「心配かけてごめんね、パルちゃん」

「気にするな。ではいくぞ」

 そう言った後、パルちゃんは僕の手をつかんで先を歩き始めた。

「ちょっと、早いよ、パルちゃん」

 僕も手を握り返して、手を繋いで一緒に歩き始めた……


▲△ 一日目 指導室 △▲


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