一日目 夢、希望は無い
▼▽ 一日目 夢、希望は無い ▽▼
立ったままお話しするのもあれなので、一緒に座ってお話しする事にした。僕の座ってる席は、窓際のパルちゃんが座ってた席の隣だよ。
「パルちゃんパルちゃん。パルちゃんの夢とか目指してるものって何?」
僕は目指したい事があったのでこの学園に来た。他の人がどうなのか気になるし、パルちゃんはここでの友達第一号なのでぜったい聞いておきたい。
「ぬ。私の家は習い事ばかりで厳しかったので、深く考えた事はないな……」
「僕は強くなって、英雄とか勇者とかヒーローとかそうゆうのになりたいんだ!」
先に言っておいた方が言いやすいだろうと思って、先に僕の夢を言った。
僕の夢を言うと大体の人に鼻で笑われるけど、パルちゃんは笑わなかった。パルちゃんはどちらかと言うと驚いているように見えた。
「目指すものがあってうらやましいな。私の夢は……」
目を閉じてる。言うかどうか悩んでるのかな? そう思って黙って待った……
「なになに?」
ちょっと時間がたって、パルちゃんが目を開くと手招きしてるので耳を近づけてみた。
「普通の、お嫁さんだ」
凄い小さい声だし、顔が真っ赤!
「ぇー?」
からかったら怒りそうだから止めておこうと思ったけど、疑惑の声は抑えれなかった。
パルちゃんの格好からして、浪人とかサムライや落ち武者になるものだと思っていたんだけどなぁ……僕の予想はあんまり当たらない。
「その疑わしそうな目はなんだ!」
唇を尖らせてなんか面白い。
「んー。じゃあ、パルちゃんの好きな人はどんな人?」
「ぬ。好きな人が出来た事が無いので、そこまでは考えてなかったな」
好きな人がいないのに誰のお嫁さんに? 意味がわからなくて、ちょっと混乱しそうになったので、自分に当てはめて考えてみた。
「僕はやっぱり目指してるものに向かって頑張ってる人かなぁ。なんかカッコイイし」
「うむ。芯があってくれれば尚更いいな」
昔を少し思い出して言うとパルちゃんが同意してくれたので、嬉しかった。
「うんうん。更に付け加えると、ピンチに助けてくれる人がいいなー」
「ん? ティルは自分がヒーローになるのではないか?」
初恋かどうなのかもわからないけど、僕を励ましてくれた人を思い出しながら。
「小さい頃仮面を被った人に助けてもらって、そうゆうのに憧れてるんだ。僕もヒーローになりたい。だけど、その助けにでもいいからなりたいって努力してるんだ」
「そうか。なれればいいな。応援してるぞ」
真面目くさって答えてくれるパルちゃんが可愛く見えたので、顔を近づけてみた。
「ありがとー」
「ちょっと、顔が近すぎる……ぞ?」
なんとなく、頬に触れるような軽いキスをしてみた。
パルちゃんは目を見開いて、ドンドン赤くなってく。純情なんだなぁ……そう思ったけど、僕もそんな事思える経験はないんだけどね。
「なっ、なっ、何をする!」
「僕のいた所では、仲良くなった人と喜びを分け合おうって、体の一部分にキスをするんだ。祝福って意味もあるらしいんだ」
パルちゃんが大きな声を出したので、真面目ぶって答えてみた。ほんとはからかうための嘘なんだけどねー。
「そっそ、そうなのか。怒鳴ってすまない」
「うん。他意はないから安心してね」
パルちゃんのどもり具合が面白くて癖になりそうだ。
「ぬぅ。でででは、わわ私もしなければいけないな……」
「えっ?」
急にガッチリと肩をつかまれた。まずい予感がする!
逃げようとした。でも、動けない。ヤバイ、結構力が入ってる。真実味のある話をしちゃったからか! パルちゃんの喉からゴクリと音が聞こえた……
「ちょっちょっと待って!」
「大丈夫だ。すっ、すぐに終わるからジッとしていろ」
本格的にヤバイ。僕のファーストキスが! 防ぐにはこれしかない!
「にゅああんっ」
パルちゃんの胸をつかんで、全力で揉んだ! 大きくて柔らかい胸が揺れて、視線が集まってる気がするけど、気にしたら負けだ! 声なんて聞こえない!
ああ……これは楽しいかも。この感触っ、妬みがわいてあまり癖にはなんないな。そろそろ止めないとパルちゃんがまずいかもしれない。
「ふぅ。危なかった……」
「……ふぁぁぁっ、っ、っ。何をするっ!」
やばっ。パルちゃんが剣に手を掛けて、立ち上がっちゃった。目が潤んでるし完全に怒ってるように見える!
「落ち着こうよパルちゃん。目が怖いよ」
ここで僕が焦ったら大惨事になりそうなので、ドキドキなる心臓を気にしないようにしてゆっくり言った。
「……ふぅ。はぁぁっ」
パルちゃんが目を閉じて深く息を吐いているので、怒りを何とかしようとして心の葛藤と戦っているんだなと思った。
「静かに! 席に座りなさい」
パルちゃんに謝ろうと思ったけど、大きな声が聞こえたので中断した。声のした方を見たら、いつの間にか教壇に先生ぽい人が二人来てた。
一人はグレーのスーツで男の人。目が青くて金色の髪で背がとても高く、顔が良くて遊んでそうな感じの人。
もう一人はグレーのスーツで女の人だよ。目が赤くて長い金色の髪を後ろでひっつめてる感じ。背も同じ位高いなぁ。
女の先生の方が体格がいいような気がする。
パルちゃんがちょっと震えていて怖かったけど、カチンと鞘と柄を打ち鳴らした後、座ってくれた。
怒っているのがわかるので、パルちゃんに謝りたい。だけど、喋って先生達に怒られるのも嫌なので、カバンからノートとペンを取り出した。
「私の名前はグリム・アルダ、座学系授業の担任です。私が受け持つのは、社会常識・文学・歴史・雑学。趣味は……」
男の先生が自己紹介を始めた。自己紹介が長くなりそうだと感じたので、ノートとペンを出して正解だったみたいだ。
謝ればすむどうでもいい事で関係がこじれるのも嫌なので、ノートに、
『ごめんなさい』と書いて、パルちゃんの前に置いた。
『絶対に許さない』と書かれて戻ってきた。
『悪気はなかったんだよ』『許せない』
『ほんとに許して』『駄目だ』
『許してよう』『嫌だ』
『ごめんなさーい』『許さん!』
んーと……少し言葉を考えて、横目でチラッとパルちゃんを見たけど駄目だ。ついっと膨れて顔を僕からそらして、聞いてくれそうにない。
他の手段はないかな?
「話を聞いてない生徒が居るようですが、私は特に気にしません。困るのは聞いていなかった人達ですからね……」
先生の声をバックコーラスに考え始める。
あっ! というまにひらめきが出て、思いついた事をノートに書き始めた。
『パルちゃんがあんまりにも可愛かったから、つい。ごめんなさい』
パルちゃんはノートをジッと見詰めて、悩んでるっぽかった……
『条件付で許す』って帰ってきた。許してくれるかも?
『うん。なんでもするよ』『本当だな』
『ほんとだよ!』『本当に、本当にか?』
『絶対守るよ』『ティルの気持ちはわかった』
『許してくれるの?』『ああ、すまない。心の狭い私を許してくれ』
『狭くなんてない、とっても優しいよ。ほんとになんでも言ってね』
そう書いた後、僕は良かったぁ、と思って気が抜けて息を吐いてしまった。それからすぐに、パルちゃんから返事が来た。そこには……
『全力で揉んでやる!』
ノートを目一杯使って、とても大きい字で、気持ちを込めた感じで書かれてた。
とてもじゃないけど何を? とは返せないし、ジッとそれを見たまま動けなかった。ちょっと背筋がぞわぞわってするし、鳥肌がたってきたかも。
何が起こるか怖いけど、こじれたままなのも嫌だし、
『わかったよ』と、大きく書かれた文字の端に、小さく書いてパルちゃんの前においた。
パルちゃんがノートを見て不気味に口端を歪めたのを確信すると、ノートの上に急に灰色のスーツを着た腕が伸びてきた。
誰だろうかはわかってるけど、考えたくないから誰だかわからない事にした。
灰色のスーツに覆われた手が動いて、ノートに何か書いてる。
『君とはゆっくりお話ししなければいけないな』
僕は横目でそれを見た。
パルちゃんを見ると、パルちゃんはその文字を見て顔を上げて、その人を見て真っ白になった。いつの間にか女の先生が横に来て、微笑んでいた。
僕はすぐさま素知らぬ振りをしていたので、助かったと思った。
パルちゃんごめんね!
心の中でそう思っていると、すぐに僕の顔にも魔手が伸びてきて、顎をつかまれた。先生は僕の顎を持ち上げ、強引に先生の方へと振り向かされた。
微笑んでるけど、鬼に見えた。僕もナニモシテナイヨと誤魔化すために笑ってみたけど、震えて頬が引きつってたかも。
その後先生は、ノートに文字を追加して、教壇に戻っていった。
『君【達】とはゆっくりお話ししなければいけないな。とぼけようとした君は、特に覚悟しておくように。嘘つきは先生許せないんだ』
パルちゃんは立ち直ったみたいで、その文字を見て僕を見て、口を押さえはじめた。
笑いをこらえているように見えるけど、もちろんパルちゃんも怒られるんだからね!
悔しくなんてないぞーっ! そう意気込んで震える心を誤魔化した。
「……以上で私の紹介は終わりです」
男の先生の自己紹介終わったみたいだ。結構長かった感じだけど、全く覚えてない。
「私の名前はレイシア・フォルケン。体育係授業の担任だ。私が受け持つのは格闘術・基本武術・運動。趣味と好きな事は体を動かす事だ……」
そこで女の先生は言葉を切って僕の方を見た。
「嫌いな事は裏切りと嘘つきだ!」
大きな声が耳に届いてカッと見開かれた目が、ヤバイ。
こ、こ、怖くなんてなかったし、震えてなんてないし、目の前が真っ白に……
「……以上で終わりだ。予定通り次は第四訓練場に移動するように。解散!」
あれ……体が揺れてる。僕なにしてたっけ? ぼけっとしてたから、気付かないうちに先生のお話が終わっちゃったのかな。
「テッティル。だ、大丈夫か?」
この声はパルちゃん? いつの間にパルちゃんの機嫌が戻ったんだろう。
ぁぁ、何か替えないとヤバイかも。僕を心配して揺すってくれてるみたいだけど、このまま揺らされてるとまずい事になりそうだ。
「大丈夫じゃないから、ちょっと揺らさないで欲しいかな」
「いきなり目を閉じて、動かなくなったから心配したぞ。ずっと支えていたんだからな」
そう言ってパルちゃんは抱きしめてくれた。僕も少しだけ抱き返した。
「パルちゃん、ありがとう。嬉しい」
「なに、気にするな。それに、アノコトは忘れてないから安心しろ」
パルちゃんはそう言って微笑んでくれたけど、僕は言われて思い出して、思い出したくなかった。思い出したせいで背筋にゾクゾクッてきて体が震えてヤバイ。
「ごめんね、ちょっとトイレ行きたくなっちゃたから、離して欲しいかな」
「丁度いいから私も行くか。でも、レイシア先生の所に行かなくていいのか?」
誰の名前か一瞬わからなかったけど、あの鬼の名前だったような気がする。
「大丈夫だって、行こう」
「君はその前に指導室だ」
やばいの後ろに居たーっ! 教壇にいたはずなのに、なんで僕の後ろにいるんだろう。そんな事よりもトイレだ。トイレに行かないとまずい。
「トイレ行きたいです……」
「駄目だぞ」「君は駄目だ」
僕は二人に脇を抱えられて、ブランブランと連行されて教室から出た。我慢しないといけないけど、我慢しても駄目ポイ……
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