帰宅途中(2)
「さて、じゃ、帰るぞ」
「これから、本屋さんに行って帰る。あっくん、先に帰ってていいよ」
そんなことを許したら、夕食を食べさせた意味がなくなるではないか。
「今日は遅いから、明日にしろ」
「弘樹君が送ってくれるから、大丈夫。まだ九時前だよ」
「そんな時間まで、制服でウロウロするな。弘樹君だって、帰りが遅くなるだろ?」
「いや、大丈夫です。ウチは十一時までに帰れば……」
余計なこと言うな。
「だーめっ!女の子がこんな時間に出歩かないっ!」
「真澄さんと出歩いてるくせに」
「真澄はいいのっ!大人だからっ!」
あー言えばこー言う。やりにくいこと、この上ない。
「弘樹君も、もう帰りなさい」
兄にここまで言われて、強く出られる高校生はいない。ご馳走様でしたと頭を下げて、弘樹は別方向に歩き出した。
「あっくんのバカ!本屋に行こうねって約束してたのに!じゃないと弘樹君、隣の席の女の子に借りた本、読まなくちゃならないじゃない!」
「なんだ、それ?」
「中学生みたいだけど、ホームルーム前に、読書の時間があるの。弘樹君の隣の席の女の子、しょっちゅう弘樹君に本を貸してるの!」
意味が通じない。
「本くらい、借りたらいいじゃないか」
「ダメなのっ!だって、可愛いんだもん!」
瞬間、吹き出しそうになった。
「隣に座ってるんじゃ、本借りるくらい阻止したって、手遅れだろ」
「ちょっとでも接触させたくないのっ!」
所詮、ガキはガキだ。見た目が可愛いってだけで、アイだコイだと騒ぐ。
妹と並んで歩きながら、敦彦は真澄からの電話を受けた。
「あ?今、帰り。奈津とメシ食ってきた」
『えー?最近、べったりじゃない?あっちゃんって、シスコンだった?』
「違うって。駅で会ったら、彼氏と一緒だったから」
『そうしたら兄としては、遅くならないようにって訓示垂れて、小遣い渡すのが正しいんじゃない?』
そんな、泥棒に追い銭してやるような真似、できるもんか。
『なーんかあたしより、なっちゃんのが大事にされてるよねー』
「そんなこと、ないだろ」
『あたし、会社の男の子に飲みに誘われてんのよね』
「断れ!!!」
『ほらー。直接阻止じゃなくって、あたしの主体に任せようとするー』
「信用してるからだろ?頼むわ」
奈津も歩きながら、メールを打っている。
「奈津っ!歩くときは前見て歩け!事故に遭うからっ!」
思わず受話器に向かって叫び、気がつくと真澄の通話は切れていた。