帰宅途中
仕事帰りの敦彦が駅の階段を下りると、目の前に見たような制服姿のカップルが居た。もう八時過ぎだというのに、これからドーナツ屋に入ろうとしている。
「奈津っ!こんな時間に、なんでウロウロしてんだ」
「あれ?あっくん、おかえり。お母さんには、ご飯いらないって電話したから、これからご飯」
「ご飯って、ドーナツがか……」
隣にいるのは、ブレザーのクセにスラックスを腰で引っ掛けているバカ(と、敦彦は思う)である。
「弘樹君、だっけ?制服は規定通りに着たほうが、頭が良さそうに見えるよ」
慌てて制服を直す高校生を、敦彦は冷ややかな目で見下ろした。
「高校生の小遣いじゃ、ドーナツだろ?メシ、奢ってやろうか?」
「いいのっ!奈津がドーナツがいいって言ったのっ!」
「奈津ならそれで足りるかも知れないけど、彼氏は足りないと思うよ。ねえ、弘樹君?」
有無なんか、言わせるもんか。これ以上遅い時間に、暗い道を一人で帰されたら困る。かといって、送らせたらもっとアブナイじゃないか。
「そこにあるラーメン屋、結構旨いから。弘樹君、いいよな?」
雰囲気が良くてリーズナブルなパスタの店を通り過ぎ、旨いが油臭いラーメン屋に入る。
「奈津、パスタの方が良かったなあ」
うるさい。奈津だけなら、もっと高級な場所に連れて行くんだ。
「ところで部活、こんな時間までやるの?」
他の学校と合同のコンサートがあるのだと説明を受けたところで、注文したものがテーブルに並んだ。
「何?ステージに立つわけ?」
「一年生なんて、出してもらえないよ」
奈津が答えたところで、弘樹が口を挟んだ。
「いや、なっちゃんは出ろって言われてたじゃない。先輩たち、なっちゃんの取り合いしそうだし」
取り合い?なんだ、それ。
「なっちゃんはキーボード上手だし、人気があるんです。他のクラスのヤツも……」
「そんなこと、ない。それに奈津が好きなのは、弘樹君だもんっ!」
敦彦は思わず、むせた。
こいつら、兄が目の前に居るってわかっての会話か。
「お兄さん、聞いてくださいよ。なっちゃん、俺の目の前で先輩とメアド交換するんです」
「浮気とかじゃないもんっ!連絡先だもんっ!」
お兄さんだあ?じゃなくって、なんだこの会話。
「……痴話喧嘩なら、俺の居ないところでやってくれ」
「あっくんが一緒にって言ったんじゃない。頼んでないよ」
ごもっともである。