ありきたりな妄想
「あっくんも、遊園地でデートするんだ?」
ソフトクリームのコーンを齧り終えた奈津が、巻いてあった紙を丸めながら言う。
「たまには外で遊ぼうと思うことだって、あるよ」
真澄の鼻の頭に、小馬鹿にしたような皺が寄るのを、見えないことにした。向かい側(忌々しいことに、奈津の隣である)に座る男の子は、ごくごく普通の顔でフレンチフライを口に運んでいる。
彼女の兄が同席してるんだから、ちょっと緊張した顔くらいしやがれ。可愛げのない。
完全な言いがかりだ。敦彦は紙のコップを傾けて、中の氷を口の中に入れ、ガリガリとそれを噛み砕く。同じ中学校出身で、同じ高校に入ってから仲良くなったのだと、先刻奈津に説明されたばかりの相手は、敦彦よりも五センチ程度背が低い。今風に髪をワックスで盛ってはいるが、丸い目が頓狂に子供っぽい。
「弘樹君、次は何に乗る?」
「んー……お化け屋敷にでも行こうか」
お化け屋敷=暗闇=手を握る気だろ。
「真澄、俺たちもお化け屋敷行く?」
「お化け屋敷ぃ?今更そんなもの……」
「最近はつくりが凝ってるらしいから」
四人連れ立ってお化け屋敷まで歩く途中、敦彦は並び順が気になる。前に奈津とオトコが嬉しそうに並んでいる。割って入りたいような衝動に駆られ、隣の真澄に気がついて、いかんいかんと自制する。
妬いているわけじゃないんだぞ。兄貴としてだな、妹の監督義務が……
「はい、お二人ずつお入りくださーい。次の組の出発は、二分後になりまーす」
二人ずつ?団体で一緒に入れないのか?
「奈津は俺と入るか?怖がりだろ?」
「あっくんと遊びに来たんじゃないの!真澄さんと入ればいいじゃない!」
ごもっともな台詞である。敦彦の後ろで、真澄は思いっきり溜息を吐いていた。
「あっちゃん、来たくもないお化け屋敷に、妹の邪魔をしに来たわけ?」
「いや!真澄と二人で嬉しいとも!」
「リアリティ、皆無。あたし、帰ろうかなあ」
帰られてしまったら、敦彦がここに来た理由がなくなるではないか。お化け屋敷を出たら妹と別行動することを約束させられ、スピーカーから流れてくる妹の悲鳴を聞く。
抱きついたりしてないだろうな。そして、抱きつかれたのを良いことに、あいつが……
自分にしか照らし合わせることができない悲しさで、敦彦の妄想はあらぬほうに寄る。遊園地のお化け屋敷で、コトに及ぶ不埒者は、いない。
お化け屋敷を出たら、当然のように奈津は待っていなかった。
「保護者つきでデートしたい子なんて、いないわよ。諦めなさい」
肩を落とした敦彦に腕を絡ませ、真澄が顔を覗き込む。
「いい子じゃないの、彼。礼儀正しくて、優しそうだったわよ」
いい子だろうが何だろうが、敦彦は知ったことじゃない。もしもあいつが奈津を傷つけるようなことがあれば、俺がただじゃ置かない。それをしっかり理解させておかなければ。