祝宴の菓子に毒を混ぜたと糾弾された職人は、実演一つで覆します——「わたくしの薔薇は、七枚ですの」
惜しい。実に惜しい。金貨を薄く削って花びらにしたような白砂糖が、食べられもせず毒だの証拠だのと騒がれている。
「毒を盛ったのはお前か、リゼット!」
ロラン伯爵が砂糖の薔薇を招客たちの頭上へ掲げた。萼の裏には針で刺したような穴があり、その周りだけ艶が濁っている。けれど、わたくしが真っ先に数えたのは穴ではない。
一、二、三、四、五、六。
六枚。しかも左へ引いた飴。花芯の焦がしも、火を怖がった子どもの頬ほど薄い。毒以前に出来がよろしくない。わたくしを陥れるなら、せめて砂糖代に見合う仕事をなさいませ。
「お答えしなさい! この薔薇はお前の手癖そのものだと、ルシアンも認めている!」
ロラン伯爵の背後で、ルシアンが重々しく頷いた。彼は混入された穴を覗き込み、それから会場の隅にある自作の卓上飾りを、肘でそっと後ろへ押した。砂糖の葉と花を盛った、たいそう華美で、たいそう六枚だらけの飾りである。
「同じ職人として残念です。これほど似ていては、庇うこともできません」
なんと慈悲深いお声。砂糖を煮すぎた鍋底より薄っぺらい。
わたくしの頭には、今朝の仕上げが浮かんでいた。右へ一息で飴を引き、指先で七枚を重ね、花芯だけ炎へ寄せた。盆へ載せたとき、見習いの給仕が六枚ではないのかと尋ねたので、わたくしは胸を張ったのだ。
「わたくしの薔薇は、七枚ですの」
一枚多ければ、そのぶん白砂糖も余計に使う。だが七枚でなければ、開きかけの薔薇のふくよかさが出ない。見栄には金がかかる。そして職人の見栄は、食べればおいしい。
ああ、あのうち一輪くらい、仕上げ台の陰で味見しておけばよかった! 祝宴用だからと我慢したわたくしの品行方正を返していただきたい。
「菓子屋の作った物に毒が入っていたのよ」
「薔薇を作れるのは、この女なのでしょう?」
「主賓にもしものことがあれば、どうするつもりだったのだ」
招客たちが短く囃し、わたくしとの間に半歩ずつ隙間を作った。香水と絹が潮のように引いていく。砂糖が湿気を嫌うように、高貴な方々は疑いをかけられた使用人をお嫌いらしい。
「まず事情を——」
「黙れ!」
ロラン伯爵の声が天井の飾り布まで震わせた。わたくしに向けている間だけ、よく響く立派なお声である。
「祝宴と客人を危険にさらしたのだぞ。お前の言い分で、これ以上この場を汚すな。すぐに厨房からも屋敷からも出ていけ。お前が作った菓子はすべて下げさせる!」
すべて。
蜂蜜の焼き菓子も、木苺の砂糖漬けも、朝から飴を糸ほど細く引いた籠も。あの籠の持ち手だけで白砂糖を一袋使ったのに! 名誉を奪われるのも困るが、食べ物を無駄にされるのはもっと困る。順番がおかしい? お腹が空いているので仕方がない。
「伯爵、その前に一つよいかしら」
静かな声が、騒ぎの真ん中へ刃のように入った。
アデライド殿下は長卓の最上席に座ったまま、銀の小さな匙を皿へ置いた。殿下の前にあった菓子皿は、白い底まできれいに見えている。毒が見つかった薔薇と同じ盆から、給仕が取り分けた皿だった。
「で、殿下! そちらもすぐお下げします。もし毒が——」
「もうないわ」
空の皿を指先で押し出し、アデライド殿下はわたくしを見た。
「うまい」
たった一言で、わたくしの蜂蜜と木苺と白砂糖が救われた。胸の奥より先に胃袋が感激した。そうでしょうとも! と駆け寄りたいところだが、両脇を衛兵に挟まれているので、鼻の穴だけ少々得意げに広げておく。
「しかし殿下、念のため、この者の身柄を先に——」
ロラン伯爵は掲げていた薔薇を胸元まで下ろし、腰を折った。先ほどまでの雷鳴が、急に天気雨ほど細くなる。
「職人の口を塞いで、どうやって職人の罪を聞くの?」
「むろん、確認のためでした。わが家の者が殿下の御前を騒がせぬよう、慎重を期したまででございます」
確認とは、返事を聞く前に解雇を申し渡すことらしい。貴族の辞書は砂糖より高価なうえ、たいへん都合よく溶ける。
アデライド殿下は空皿の脇を軽く叩いた。
「リゼット。話して」
「ありがとうございます。まず、その薔薇はわたくしの仕事ではございません」
「見苦しいぞ!」
ロラン伯爵の声がまた膨らんだ。殿下が目を上げると、すぐに縮んだ。よくできたふいごである。
「いえ、しかし、この手癖は明らかで——ルシアン、お前もそう言ったな?」
「はい。飴の薄さ、花の形、どれもリゼットの作風によく似ております。私も職人として検分をお引き受けしましょう」
ルシアンは忠実な顔で一歩出ると、わたくしのそばを通り過ぎざま、声を落とした。
「認めたほうが傷は浅いぞ。伯爵のお慈悲に縋れ」
「まあ。砂糖の焦がしが浅い方は、助言まで浅いのですね」
「何だと」
「こちらの話ですわ」
ルシアンはわたくしを囲む招客の数を見て、口元だけ笑った。それから検分役らしく混入花へ手を伸ばし、花弁を示してみせる。
「この細い引き方こそ、リゼットがいつも使う技です。これだけの品を作れる者は、ほかにおりません」
お上手、お上手。褒めているようで、縄を首へ掛けてくる。だが、その縄は六本撚りだ。わたくしのは七本である。
「その花は六枚。飴は左へ引かれ、焦がしが浅い。わたくしの仕事とは三つとも違います」
「そんな細かな違い、口では何とでも言える」
招客の声に、いくつもの頷きが重なった。ごもっとも。腹立たしいが、ごもっともである。薔薇の花弁を数えて生計を立てていない方々に、右だ左だと唱えても、踊りの手順くらいにしか聞こえまい。
証明するには、手を見せるしかない。
万人の前で。
わたくしが何年もかけて覚えた温度の取り方も、指を離す一瞬も、飴を切らずに引く角度も、全部。職人にとって手の内は、倉の鍵より重い。今日ここで晒せば、明日には見よう見まねの花が市場へ三輪は咲く。それもきっと不格好に。ああ嫌だ、想像だけで砂糖を取り上げたくなる。
「殿下。鍋と火、それに白砂糖をお借りできますか」
「何をする気だ」
「その場で一輪、作らせてくださいませ」
ロラン伯爵が片手を振った。
「必要ない。お前が似た花を作れることなど、初めから分かっている!」
「では、似ているかどうか、皆様にご覧いただきましょう。口で違いが分からないなら、目の前で手を動かすまでです」
「時間稼ぎに決まっている!」
「砂糖は惜しみますが、時間まで惜しんだ覚えはございません」
アデライド殿下の指が上がった。それだけで衛兵がわたくしの脇から離れ、給仕たちが動き出す。
「火を。鍋を。白砂糖も」
「殿下!」
「ロラン伯爵。あなたは先ほど、客を守るための確認だと言ったわね」
「は、はい」
「なら、確認なさい」
ほどなく銀鍋と小さな炉、白砂糖の壺、水差し、木匙が長卓の前へ並べられた。わたくしは壺の中を覗き、思わず唇を結ぶ。上等。粒が揃っている。これを一粒たりとも毒騒ぎの犠牲にはできない。
「そんな道具だけで、あの薔薇が?」
誰かが訊いた。
「足りませんわ」
「では作れないのか」
「食べてくださる方が必要です」
招客たちが揃って目を逸らした。先ほどまであれほどお口が達者だったのに、砂糖一輪で見事に喉がお休みになる。わたくしとしては自分で食べる気満々なので、むしろ好都合だ。
水と砂糖を鍋へ入れ、火に掛ける。木匙を回すのは最初だけ。溶け始めたら触れない。透明な液が小さな泡を立て、甘い匂いが毒だの罪だので濁った広間を、少しずつわたくしの仕事場へ変えていく。
「火が強すぎるぞ」
ルシアンが先輩ぶった声を投げた。
「あなたの花芯には、そう見えるでしょうね」
「焦がせば証拠にならん」
「焦がすのは芯だけです。花まで焦がすほど、白砂糖に恨みはございません」
鍋を火から外し、冷たい台へ移す。飴の縁を木匙で持ち上げ、指へ取れる熱まで待つ。早ければ皮膚を持っていかれ、遅ければひび割れる。招客の息がこちらへ寄ってくるのが分かったが、顔を上げる暇はない。砂糖は貴族より待ってくれないのだ。
薄く伸ばした飴をつまみ、右へ一息で引く。
「今、右へ?」
「はい」
「混入した薔薇は」
「左ですわ」
わたくしは一枚目を巻いた。芯になる小さな花弁。二枚目を添え、三枚目を重ねる。熱を残した縁が、触れたところだけ互いに溶け合った。
「型は使わないのか」
「わたくしの指が型です」
「同じ大きさにはならないだろう」
「花びらが全部同じ大きさでしたら、薔薇ではなく行儀のよい野菜ですわね」
小さく笑いがこぼれた。さっきまでわたくしを毒婦扱いしていたお口から。帳消しにはしない。だが仕事を見て笑ったぶんだけ、採点を零点から一点へ上げて差し上げよう。百点満点で。
四枚目。少し外へ反らす。
五枚目。根元を締める。
六枚目を重ねたところで、ルシアンの親指がぴくりと動いた。彼の視線はわたくしの手元ではなく、混入花と、自分の卓上飾りの間を往復している。
(菓子屋風情、砂糖の花が何の証しになる——)
その顔にそう書いてあった。残念ながら、職人は砂糖に字を書かずとも、作った者の癖くらいは残してしまう。
「これで同じではないか」
ロラン伯爵が混入花を掲げ直した。
わたくしは返事をせず、最後の飴を取った。薄く、広く、端だけをわずかに波打たせる。右へ引いて、六枚目の外へ重ねた。
七枚目。
開きかけた薔薇が、わたくしの指の中に咲いた。
最後に細い火を近づけ、花芯だけへ淡い琥珀色を置く。甘い匂いに、ほんのわずかな香ばしさが混じった。ここ。ここまで火を怖がらない。焦がしすぎず、逃げもしない。わたくしの一輪である。
「職人の手は口より正直。ご覧のとおりですわ」
「茶番だ!」
ロラン伯爵が卓を打った。空皿が小さく鳴り、アデライド殿下の目がその手へ落ちた。
「お前がどれほど巧みに花を作ろうと、毒が出た事実は変わらん! この場で解雇する。今後、私の名に関わる祝宴には二度と入れない!」
そうですか。
では、この一輪もロラン伯爵家の物ではない。
わたくしは出来たばかりの薔薇をつまみ、口へ入れた。七枚が舌の上で薄く砕け、花芯の焦げが甘さを追いかける。上等な砂糖。火入れも完璧。何より濡れ衣の最中に食べる自作菓子は、背徳的においしい!
「リゼット!」
「自分の仕事を自分で食べただけですわ。毒など入っておりませんもの」
喉を通るまで、全員がわたくしの口元を見ていた。倒れない。苦しまない。当然である。わたくしは白砂糖を愛している。愛するものへ毒を混ぜる趣味はない。
もう一輪を作る。今度は見せるため、先ほどより速く。右へ引き、七枚を重ね、花芯へ焦げ色を置いた。完成した薔薇を置くよう促すと、ロラン伯爵は握っていた混入花をその隣へ置いた。
六枚と、七枚。
左へ引かれた硬い花弁と、右へ流れるふくらみ。
色づいたかどうかも曖昧な芯と、淡い琥珀の芯。
「わたくしの薔薇は、七枚ですの」
招客たちの顔が、並んだ二輪へ向いた。次にわたくしの指を見る。それから一斉に、ルシアンを見た。
ああ、実にいい眺め。先ほど引いた潮が、今度は向こうへ引いていく。絹の裾が擦れ、ルシアンの周りに丸い空白ができた。疑いというものは足が速い。しかも自分が間違っていたと悟った方々に追い立てられると、驚くほど全力で走る。
「な、なぜ私を見るのです」
ルシアンは両手を広げた。忠実な職人の顔が、鍋から上げたばかりの飴のように崩れかけている。
「私はただ、似ていると申し上げただけです。リゼットを尊敬して、多少その作風を真似たことはありますが、それだけで毒を盛ったことにはならないでしょう!」
「多少?」
わたくしは会場の隅を顎で示した。
ルシアンの袖が動いた。背後へ押していた卓上飾りを、布ごと隠そうとする。だが砂糖細工というものは、急いで隠すにはたいそう不向きだ。花束の端が袖へ引っ掛かり、一輪が卓から転げ落ちた。
六枚の薔薇。
床へ落ちた拍子に花弁が割れ、左へ引かれた筋が露わになった。花芯は薄い狐色。混入花と同じ、火を惜しんだ色である。
「それをこちらへ」
アデライド殿下が命じた。
「お待ちください、殿下。これは宴席の飾りとして私が作ったもので、毒の薔薇とは——」
衛兵が卓上飾りを持ち上げ、二輪の隣へ置いた。左へ流れる筋が揃う。浅い焦げが揃う。六枚目の花弁だけが少し細く、根元を親指で押し潰す癖まで揃っていた。
ルシアンの手が伸びた。
「触らないで」
アデライド殿下の一言で、その手が宙に止まる。
「これは違います。たまたまです。同じ菓子職人なら、似た手順になることも——」
「では、今ここで一輪お作りになってはいかが?」
わたくしが鍋を差し出すと、ルシアンは後ろへ下がった。先ほどまで検分役を買って出ていた足が、実演台からだけは実に礼儀正しく距離を取る。
「私はリゼットのような見世物はしない」
「見世物に負ける証言とは、ずいぶんお安いのですね」
「黙れ!」
ルシアンが怒鳴り、混入花を掴もうとした。その親指は迷わず六枚目の根元へ掛かり、卓上飾りと同じ角度で花弁を押し潰した。
「手癖は真似できても、指の運びまでは盗めない」
ルシアンの口が開き、閉じた。助けを求めるようにロラン伯爵を見たが、伯爵は並べられた三輪から目を上げない。先ほどロラン伯爵の背後で見せた頷きは、どこにもなかった。
「尊敬して真似ただけです! 毒など知らない。私はただ、この女の薔薇に似せれば、誰も私を疑わないと——」
言ってから、ルシアンは両手で口を塞いだ。
これは砂糖より甘い。わたくしの腕を盗んだつもりで、最後は自分の舌に足を掛けられて転ぶとは。ごちそうさまでございます。
「連れていって」
アデライド殿下が告げ、衛兵がルシアンの両腕を取った。彼は卓の脚へ踵をぶつけ、飾り布を引きずりながら抵抗した。
「違う、私は毒を入れただけで、誰かを殺すつもりまでは——伯爵、何とか言ってください! あなたの祝宴を守るために、私は!」
卓上飾りの薔薇が一輪、また一輪と床へ落ちた。どれも六枚だった。ルシアンはその上を踏み砕き、扉の外へ連れ出された。最後まで謝罪はなく、砂糖を惜しむ声もなかった。職人としても零点である。
扉が閉まると、招客たちはロラン伯爵を見た。
伯爵の手には、まだ混入花がある。リゼットが作った物だと掲げ、返答を遮り、屋敷から追い出すと宣言した六枚花。手放せば床へ落ちる。持っていれば、自分が誰を先に差し出したのかが見える。どう転んでも見栄えが悪い。お気の毒に、とは思わない。
「リゼット」
ロラン伯爵がようやくわたくしを見た。先ほどよりずっと小さな声だった。
「誤解があったようだ」
「誤解」
「祝宴を守るため、急いで判断せざるを得なかった。だが、お前の腕は私が誰より承知している。戻りなさい。今回の件は不問とし、これまでどおり、わが家の職人として——」
「これまでどおり?」
伯爵の言葉が止まった。わたくしは鍋の縁に残った飴を木匙でまとめた。冷えれば剥がれにくい。後始末は早いほうがいい。不要になった主人との縁も同じである。
「そうだ。私が育てた職人なのだから、これからは一層よい待遇を約束しよう」
ロラン伯爵が手を差し出した。招客たちの前で切り捨てた手を、今度は招客たちの前で拾い直そうというわけだ。毒の混じった薔薇より、よほど喉に引っ掛かりそうである。
「伯爵は、わたくしの返事を一度もお聞きになりませんでした」
「だから、それは客を守るために——」
「いまもお聞きになりませんのね」
わたくしはアデライド殿下の空皿を見た。
「戻りません。わたくしは、疑わなかった方を選びます」
差し出されたロラン伯爵の手が、ゆっくり下がった。先に目を逸らしたのは、わたくしから。次にアデライド殿下から。最後に、招客たちからだった。
アデライド殿下は席を立ち、実演台まで歩いてきた。並んだ薔薇を見比べ、七枚のほうへ指を伸ばす。けれど触れずに、わたくしへ問うた。
「もう一輪、作れる?」
「白砂糖をいただけるなら、百輪でも」
「食べるのは?」
「半分ほど、わたくしが」
「多いわね」
「職人には検品の義務がございますので!」
殿下の口元がほんの少し動いた。笑ったのかどうかは、聞かないでおく。空皿を残す方は、肝心なところを言葉にしない。
「王家御用達として迎えます。工房は、わたくしの名で構えなさい」
木匙を落としかけた。白砂糖何袋ぶんだろう。いや、工房一軒を砂糖へ換算するな、わたくし。だが作業台は広いほうがいい。炉は二つ。乾燥棚も欲しい。鍵の掛かる砂糖庫は絶対。夢が急に具体的な設備になって押し寄せてくる!
「お受けします」
「早いのね」
「砂糖が湿気る前に決めました」
そうして、ロラン伯爵家の厨房へ戻ることなく、わたくしは自分の名で工房を持った。王家御用達の印をいただいた日より、新しい作業台には注文書と白砂糖の壺が並び、誰の面目を守るためでもなく、誰に食べてもらうかを考えて鍋を火へ掛けられるようになった。
最初の大仕事は、アデライド殿下の祝宴へ納める菓子だった。
右へ一息で飴を引く。一枚、二枚、三枚。四枚目を外へ反らし、五枚目と六枚目を重ね、七枚目をふわりと開く。花芯だけを火へ寄せれば、白い薔薇の奥に淡い琥珀が灯った。
いつもなら、形のよい一輪ほど自分の口へ入れたくなる。味見は義務。最上の一輪を選ぶのは職人の権利。そう唱えれば、砂糖の薔薇など何輪でも胃袋へ納められる。
指が伸びた。
けれど、その一輪には触れず、銀の小皿へ載せた。
祝宴の席で、アデライド殿下は小皿を受け取った。以前と同じように、余計なことは何も聞かない。ただ七枚の花弁を見てから、わたくしを見る。
「こちらは味見をしておりません」
「珍しい」
わたくしは小皿へ伸びかけた指を、エプロンの後ろへ隠した。
「この一輪は、わたくしの口には入れません。信じてくださったあなたに、召し上がっていただきたくて引いたのですもの」
アデライド殿下は薔薇を一枚ずつ眺めたりはしなかった。指でつまみ、そのまま口へ入れる。七枚の花弁が軽い音を立てて砕けた。
やがて、また空になった皿がわたくしへ返された。
「うまい」
わたくしはその皿を、両手で受け取った。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
「悪くなかったな」と思われたら、★や感想を残していってもらえると、とても励みになります。
作者ページには他の短編も並んでいます。よろしければどうぞ。




