第一話
「やったあ、最優秀賞!」
「最後の最後に縁起がいいね」
「実力だろ、実力」
「団結力なら結中一だよね! 体育祭の学年種目も一番だったし」
「ねえねえ、一本締しよーよ!」
「あ、いいなそれ」
結宮中学校、2-2の教室。合唱コンクールが最優秀賞で終わり、明日から夏休みということもあり、ほとんどお祭り騒ぎな状態。
このクラスは最近では珍しく、クラス全員が仲良しというこのあたりではちょっと有名な学級です。
つきあってる子達以外は、みんなあだ名で呼び合ってるくらいですしねえ・・・男女関係なしに。
で、私もその一人、明槻 真幌。愛称はルーです。はじめは、英語で幌を表す“ルーフ”だったんですけど、みんな呼びづらいっていうから省略されました。
このあだ名がまた、結構広まってしまって・・・いまじゃ、真幌って呼んでくれる人、全然いない。
・・・まあ、まほろば・・・昔の言葉で“すばらしい場所”、なんていうのからとった名前・・・嫌いじゃないですけど、でも、ちょっと恥ずかしい。
「ねえねえルー、いつもの見せてよ!」
私の肩をつっつきながらそういうのは、リンこと、鈴宮 理奈。あだ名の由来は、苗字の鈴と、名前をローマ字書きしたときのRinaから。
・・・この2-2の仲間達は、“師匠”以外で、唯一私の秘密を知る人達。何かって? それは・・・
「・・・いきます」
私がそう言うと、みんなの視線が一気に集まった。
・・・今日は、花にしましょうか。色々と、嬉しい日ですし。
「・・・白露と共に芽吹き、癒しと共に開くもの。祝福と共に、今この地をあざやかに彩る」
ちょうど私の頭上に、小さな光が生まれる。
本当は、こんな長い詠唱は必要ありません。ですがみんなの希望ですし、言ったからといって何か不都合が起きるわけでもありません。・・・私も、楽しいですしね!
「顕著せよ、咲きほこれ。“芳華”!」
ふわぁ・・・
教室の真ん中に、たくさんの花が現れる。よし、次は・・・
「流れ来て、過ぎ去っては巡るもの。今、またこの地に帰り来る」
花のある所に、また小さな光が現れた。みんなが、息を呑む。
「吹き揺らせ。“風”!」
今度は、光が風に変わり、花を優しく揺らし、教室全体に贈る。全員の手元に、美しい花が舞い降りた。
「へえ、芳華と風の組み合わせ? 同時に使えるもんなのか・・・風を準備している間も、花は落ちてこなかったし」
手の中の花を見つめながらつぶやくのは、クレバーこと、玖月 巧。たまにクレブとか、クレ、クルなどと呼ぶ人もいます。由来は英語で巧智な、賢いなどの意味をもつ、cleverから。その名の通り、かなり賢い人です。
「まあまあ、あんまり難しく考えないの! すごく神秘的で、綺麗じゃん!」
リンは、その肩に手をのせ、にっこりと笑う。どうでもいいけど、かなりの美人さんです。
「さすがは魔術士ルーフ。友達に魔術士が居ると、こういう時に華やぐ」
落ち着いた声でそう言うのは、カームこと、笹水 涼。由来はやっぱり英語で、冷静を意味するcalm。
他のクラスではクールとか、冷たいとかで近寄り難い印象なようですが、2-2では、普通に接しています。カームが友達と言う人はなかなかいないので、そう呼ばれる事が2-2メンバーの間では、密かな自慢になっていたりも・・・。
さて、ここまで来て何か気がついたのではないでしょうか?
・・・そう私、ルーフは、実は魔術士なのです・・・。
カームは、女の子です。一応。