少女は異世界を30回救うことになっても僕を1回救いたい
短編です。
朝が来た。
いつもの代わり映えのない風景と習慣。
目を開いて天井を見続ける。
視線を一点から動かさないのがポイント、というより癖だ。
いつも通りだ。
何も変わらない。
視界の隅に入り込む朝の光が
午前4:30ごろだと僕に伝える。
あと2時間はこのままでいられる。
心地良い。
頭の中は空っぽ、きっとどこかに置いてきてしまったんだ。
最近忙しかったし。
いつも通り、天井を見てる。
窓から射し込む光が僕に午前6:30だと告げた。
僕は仰向けの体を起こす。
体を起こして初めて気がついた。
ふとんのすぐ横に女の子が座っていた。
僕は驚いた。
言葉にならない素っ頓狂な声を出して、
女の子が座る対面にある壁に衝突した。
なんで僕の部屋に知らない女の子がいるのかわからなかった。
制服姿の少女がいる。
起きてから時間が経っているので頭は十分動くはずだが、
僕の頭は緊急事態に弱いらしい。
まったくわからない。
状況が飲み込めない。
昨日の晩に僕が連れ込んだとか?
記憶にない少女の、僕の顔を覗く視線が痛い。
初対面の人にこんな目付きはしないよなぁ、なんてニシは考えていた。
少女が声を出す。
「私は涼川ユイナって言います」
「怪しい者じゃありません」
「白城場中学三年生です」
どこか必死さが感じられるような強い言い方なのが印象に残った。
自分の情報を開示してくると逆に怪しいと感じてしまうのが人間だ。
ニシは優しい口調に努めた。
「どう入り込んだかは知らないけど、
僕は外に出かけるから、もう僕の部屋には来ないでね」
そう告げた時、少女は目に涙を溢れさせ、大粒の涙をポロポロと流しはじめた。
困った。
こんな時、どうすればいいかニシにはわからなかった。
異性を泣かせたことのないニシ。
そんな彼の前で年下の少女がポロポロ泣いている。
もしかして、本当に昨晩何かやってしまったのだろうかと考えだしたころ、
涙を拭って少女は言った。
「あの、今日はお弁当を作ってきました」
「朝、食べてないですよね、これどうぞ」
少女の横にある、通学バッグであろうものの中から、
かわいらしい小包を出してニシに手渡す。
「...ありがとう」
少女の発言に引っ掛かりを覚えるも、とりあえず感謝の言葉を述べておく。
朝食代わりの弁当を貰う喜びより、少女の涙が止まったことに安心した。
乗る予定の電車の発車時間にはまだ余裕があった。
ニシは少女と少し話をすることにした。
「失礼かもしれないけど」
「僕たち、どこかで会った?」
「実は僕、君のこと全然覚えていなくて」
少女は少し時間を置いて答えた。
「今日、初めて会いました」
ニシは頭の中が?マークでいっぱいになるのを耐えて聞いた。
「じゃあ、僕が寝てる間に部屋に入ってきたってこと?」
「はい」
少女は伏し目がちに答える。
「なんで?」
問い詰めるような、少し冷たい聞き方だったかもしれない。
「あなたが...」
「あなたが今日死んじゃうから」
「それを止めたくて」
少女の目は、また涙で溢れそうになる。
今にも泣きだしそうだった。
「大学生にもなってこんな話は信じられない」
「それに今会ったばかりでどうしてそんなことが言えるの?」
「根拠がないならそれは君の空想話だよ」
少女はまた目を拭って言った。
「あなたは今日、駅で私を助けて死ぬの」
少女の声は震えている。
「?、でも、君が駅にいなければ僕は」
「それでも死んじゃうの!」
僕の言葉を遮り、少女は続ける。
「何度も何度も何度、繰り返しても必ずあなたは駅に行って今日死んでしまうの!」
「私のせいよ、きっと私が自殺なんてしようとしたから!」
「あなたは私が命を絶とうとした時、あなただけは私を助けてくれた」
「私はあなたに生きてほしいの!」
「だから私は何度もやり直したの」
「あなたが死んだ後、私はいろんな人生を生きて幸せを感じることができたの!」
「今日、自殺していたらそれはきっと気がつかなかったことなんです」
「私はあなたに生きてもらいたいんです」
「私は死後、異世界で、その世界を救うことと交換に今日ここに戻ってきています」
「あなたの駅まで歩いて来る道を逆算してやっと部屋までたどり着いたんです」
「部屋を知るのに26回」
「今回で30回目の今日です」
「お願いです。駅には行かないでください」
少女はそう言って静かになった。
「30回目の今日か...」
「大事な発表があるし、僕の大学生活の分岐点なんだよ、今日は」
荷物をまとめて
外へ出ようとするニシ。
付き合っちゃだめだ。
早く出よう。
少女に背を向け、ニシはドアノブに手を掛ける。
「もうやだ」
少女の小さい、とても聞こえないような声が耳に入った。
なぜその声に気づいたのかもわからない。
その小さな悲鳴はニシに響いた。
ニシはスマホを取りだし、
いくつか電話をかけ、断りを入れた。
繋がらないようならメールを送った。
「...今日くらい、いいよな」
久しぶりに頬がやわらいだ気がした。
一通りスマホを操作した後、ニシは電源を落とした。
部屋に戻って言う。
「今日僕は暇になったけど、これでいいのかな? 」
「うん」
少女は笑顔で涙を溢していた。
ニシは腰を降ろして言った。
「実は僕も行き詰まっててさ」
「とびきり楽しかった人生の話とか聞かせてよ」
「はい」
少女も僕の前に来て座る。
そんな少女の嬉しそうな姿だけで
今日の僕は救われたと思う。
他にも色々書いているので読んで欲しいです。
評価も欲しいです。




