表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/51

第8話 モブのせいで歴史が動く?

モブは、背景であり、通行人であり、その他大勢。

……だったはずだ。

なのに今日、僕はとんでもないことをしてしまった。


◇ ◇ ◇


ことの始まりは市場だ。

朝から人だかりができていた。

勇者ギルドの使者が演説をしていたのだ。


「聞け! 北方の砦を奪還したのは勇者一行の功績である!」

「勇者が討ったのは魔王軍の将軍、レギオン!」

「この勝利をもって、我らの世紀は開かれた!」


大げさな言葉に、群衆は沸いた。

拍手と歓声。

パン屋の主人はパンを投げて喜び、子供たちは木の剣を振り回す。


けれど、僕は首をかしげた。


だって、その戦いを――僕、見ていたから。


◇ ◇ ◇


数日前。

砦近くの村で荷物運びをしていた僕は、偶然にも“勇者の決戦”を目撃した。

確かに勇者たちは奮闘した。

でも、とどめを刺したのは彼らじゃなかった。


……落石だった。


崩れかけた砦の天井が耐えきれず、ドーンと崩落。

下にいた魔王軍の将軍を直撃。

勇者が放った一撃は、ほんのかすり傷。


つまり、“勝利”は勇者の手柄じゃなく、ただの事故だったのだ。


◇ ◇ ◇


「……ねえ、それ、本当に勇者の功績なの?」


気付けば、口が勝手に動いていた。

群衆の歓声の中で、僕の声は小さかった。

けれど近くにいた何人かが振り向き、そしてまた数人が耳を傾ける。


「砦が崩れて……将軍が下敷きになっただけじゃ?」


沈黙。

次の瞬間――群衆にざわめきが走った。


「え? そうなのか?」

「いや、でも勇者さまが勝ったって……」

「いやいや、見た奴がいるってことか?」


僕は慌てた。

違う、僕はただ独り言を言っただけなんだ!

モブのつぶやきが、どうしてこんなに大きくなっていく!?


◇ ◇ ◇


「……あなた、本当におかしい人ですね」


例の魔導書少女が横に立っていた。

もう驚きもしない。毎度のごとく、彼女は必ず現れる。


「モブの声は、本来なら届かない。

けれど、タイミング次第では“歴史を揺らす囁き”になる」


「揺らすつもりなんてなかったんだ!」


「そうでしょうね。でも、結果は同じです」


少女はページをめくり、さらりと書き込む。

“歴史:砦奪還、勇者の功績に疑義あり”


いやいやいや!そんな脚注を残さないで!


◇ ◇ ◇


夕方、酒場《金獅子亭》は妙な空気に包まれていた。

勇者の噂話で持ちきりだ。


「勇者の勝利、実は事故?」

「いや、勇者さまが瓦礫を呼んだに違いない」

「どっちにせよ、将軍が死んだのは事実だろ?」


僕は皿を洗いながら背筋が寒くなった。

モブがうっかり零した一言で、歴史の評価が揺らぐなんて。

勇者たちが知ったら、僕は……


「……処刑とか?」


自分で呟いて震えた。

ああ、これだから余計なことは言いたくなかったんだ!

モブは静かに背景に溶け込むべきなんだ!


◇ ◇ ◇


夜。

路地裏でひとり反省していると、ヴァルドが現れた。

登録しない勇者。いや、元勇者。


「お前が言ったんだってな。砦の勝利は事故だったって」


「ひ、ひい! 違うんです、あれはその……!」


「……ははっ。いいじゃねえか」


ヴァルドは笑った。

「勇者の看板が剥がれるくらいで揺らぐ歴史なら、そもそも大したもんじゃねえ」


彼の言葉に、ほんの少しだけ胸が軽くなった。

でも、同時に確信した。

モブのささいな一言が、時に世界を動かしてしまう。


……僕が最も避けたかった展開だ。


◇ ◇ ◇


次回、「魔王軍の内情をモブが覗く」


お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ