第48話 矛盾の果て
世界は白紙に戻るはずだった。
だが僕が「モブとして生きる」と叫んだ瞬間、初期化は止まり、逆に世界そのものが軋み始めた。
建物は線画と彩色の間で揺れ、人々は声と沈黙の狭間で消えたり現れたりする。
舞台装置が壊れて、照明も幕も暴走した――そんな有様だ。
◇ ◇ ◇
「……これが“矛盾の果て”か」
リュカが剣を握りながら呻いた。
「世界が、お前を排除できずに揺らいでる」
魔導書少女は静かに記す。
“矛盾因子により、物語構造が崩壊。観測不能領域、拡大中”
「拡大中って軽く言うな! 胃が爆発する!」
◇ ◇ ◇
空の“目”が割れ、そこから無数の声が降り注ぐ。
「役割を持て……」
「勇者となれ……」
「魔王となれ……」
「聖女となれ……」
……うるさい!
なんでそんな選択肢しかないんだよ!
僕は叫んだ。
「皿洗いでいいんだ! 僕はスポットライトに立たない!」
その矛盾が光となり、観測局の目をさらにひび割れさせた。
◇ ◇ ◇
だが同時に、街の人々の姿も揺らぎ始める。
勇者ギルドの兵士たちも、市場の商人も、皿洗い仲間も……みんな紙片になりかけていた。
リュカが歯を食いしばる。
「お前の矛盾が、世界そのものを壊してる……!」
「えっ、僕のせい!? いやいや、モブがラスボスってどういう展開!?」
◇ ◇ ◇
魔導書少女が初めて、わずかに表情を揺らした。
「……選択の余地はありません。
あなたは“世界を巻き込む矛盾”そのものです」
彼女の本が光り、僕の視界を覆う。
そこに記されたのは――
『矛盾の果てに、物語は終幕を迎える』
◇ ◇ ◇
次回、「残された舞台」
お楽しみに。




