第47話 初期化の中の選択
街が、世界が、白紙に戻っていく。
石畳は設計図の線に、建物はラフ画に、人々は落書きの消しゴムカスに変わって消えた。
残ったのは、僕とリュカと魔導書少女――そして、空に浮かぶ巨大な観測局の“目”。
「……対象、モブ勇者。
矛盾因子、削除のため強制初期化続行」
冷徹な宣告が、鼓膜ではなく魂を震わせる。
◇ ◇ ◇
リュカが剣を構え、白紙の光を斬り払った。
「肉まん! もう時間がない! 決めろ!」
「決めろって……何を!?」
「モブであることを貫くか、それとも……何か別の役を選ぶか!」
リュカの目は真剣で、そしてどこか祈るようだった。
◇ ◇ ◇
「……あなたが選ぶんです」
魔導書少女も淡々と告げる。
「皿洗いのままか。
それとも、勇者・魔王・賢者・聖女……どれかの役を引き受けるのか」
白紙の光が僕の靴を飲み込みかける。
桶を抱えていた日常が消えていく。
もし役を選べば、この初期化は止まるかもしれない。
でも、それは――僕が“モブであること”をやめることだ。
◇ ◇ ◇
「僕は……」
喉が震える。
勇者になんてなりたくない。
魔王もいやだ。
聖女なんて無理に決まってる。
賢者も知識ないし。
僕はただ、皿を洗って、泡を見て、桶の水をひっくり返す……そんなモブの生活が欲しいだけなんだ。
◇ ◇ ◇
「僕は……皿洗いモブだ!」
叫んだ瞬間、白紙の光が一瞬だけ止まった。
観測局の目が、大きく揺らぐ。
「……宣言確認。
矛盾、強化。
世界の初期化処理……不可能」
空に亀裂が走り、光が逆流した。
◇ ◇ ◇
だがその直後。
空の目はさらに冷たい声で言い放つ。
「矛盾因子の存在により、物語構造は不安定化。
次段階――“全舞台崩壊”を実行する」
「はぁ!? 初期化止めたのに、今度は崩壊ってどういうこと!?」
胃がねじれる痛みに、僕は思わず叫んだ。
◇ ◇ ◇
次回、「矛盾の果て」
お楽しみに。




