第43話 モブの拒絶
未記録の王が伸ばした腕が、僕の記憶を飲み込もうとする。
桶の音も、皿洗いの日々も、静かな市場も――全部が白紙になろうとしていた。
◇ ◇ ◇
「……やめろおおおおお!」
僕は叫んだ。
その瞬間、胸の奥から光が爆ぜ、影の腕を弾き飛ばした。
「僕は……モブだ! 物語の王にも、矛盾の同胞にもならない!
僕の役割は……ただ皿を洗うだけだ!!」
光が走り、未記録の住人たちが後ずさった。
彼らにとって、役割を拒みながら居場所を持つ存在は毒なのだ。
◇ ◇ ◇
「拒絶ヲ……選ンダ……」
未記録の王の胸の「×」印がひとつ、赤く輝く。
「役割ヲ棄テル者……存在ノ矛盾……破壊スル……!」
リュカが前に飛び出す。
「よし! 今度はハッキリ敵に回ったな!」
「よしって言うな! 胃に穴が空くわ!」
◇ ◇ ◇
戦いが始まった。
王が放つ墨の奔流が、空間そのものを塗り潰していく。
石畳も建物も、全部が紙片に変わって消えていった。
リュカは斬り込み、魔導書少女は光の文字で応戦する。
だが数が多すぎる。
未記録の住人たちが次々に湧き、僕たちを取り囲んでいった。
◇ ◇ ◇
「モブ……勇者……役割ナシ……矛盾……」
彼らのざらついた声が頭に響く。
「うるさい! 僕は舞台袖で見てる観客なんだ!
スポットライトは、他の奴らに当ててくれ!」
また光が弾け、影たちが霧散する。
だけど、未記録の王だけはびくともしなかった。
◇ ◇ ◇
魔導書少女が小さく呟く。
「……やはり、“拒絶”の宣言では足りません」
「えっ、まだ何かいるの!?」
「そう。あなたは“モブとして生きる”ことを宣言しなければならない。
それこそが、未記録の王に対抗できる唯一の矛盾です」
リュカが振り返り、汗だくの顔で叫ぶ。
「お前の言葉で決めろ! ここで生き残るか、飲み込まれるか!」
◇ ◇ ◇
未記録の王が再び腕を振り下ろした。
墨の津波が迫る。
僕は震える声で――けれど、確かに叫んだ。
「僕は、皿洗いモブとして……この世界で生きる!」
◇ ◇ ◇
次回、「皿洗いモブの矛盾」
お楽しみに。




