第27話 路地裏のモブ同盟路地裏のモブ同盟
夜の街を駆け抜ける。
背後では勇者ギルドの兵士たちの怒号と、鎧の軋む音。
僕と魔王候補リュカは、ただ必死に逃げるしかなかった。
◇ ◇ ◇
「こっちだ!」
僕は狭い路地に飛び込み、洗濯物が垂れ下がる裏道を縫うように走った。
桶を抱えたままなのは、もう癖みたいなものだ。
「はぁ……はぁ……なんで、お前まで逃げるんだ……」
リュカが息を切らしながら言う。
「だって、君が捕まったら嫌だろ。
それに、モブは舞台袖から見届ける役だからな」
「……説得力あるのか、それ」
リュカが苦笑する。
◇ ◇ ◇
ようやく兵士の気配が途絶えたとき、僕らは人気のない路地裏に身を潜めた。
崩れた石壁の陰、夜風が生温く吹き抜ける。
リュカは膝を抱えて座り込み、ぽつりと言った。
「勇者ギルドも魔王軍も、俺を“役”に縛り付ける。
勇者と戦う魔王。魔王に討たれる勇者。
そんな舞台に立ちたくない」
「わかるよ」
僕は桶の水面を覗き込んだ。泡が月明かりに揺れていた。
「僕だって、勇者にされそうで必死に逃げてる」
「……同じだな」
◇ ◇ ◇
そのとき。
頭上の窓から、ぼそりと声が降ってきた。
「おや、面白い取り合わせですね」
魔導書少女が、いつの間にか二階の窓辺に腰掛けていた。
本を抱え、冷たい目で僕らを見下ろしている。
「モブ勇者と魔王候補。
どちらも“主役”を拒む異物。
……同盟を組めば、案外面白い観測になるかもしれません」
「観測って言うな!」と僕は叫んだ。
リュカは少し考え込んでから、真剣な顔で僕を見た。
「同盟……悪くないな。
一人で逃げるより、モブ同士で支え合った方が生き延びられる」
「だから僕はモブ勇者じゃないってば!」
でも、リュカの瞳は揺らがなかった。
彼は手を差し出した。
「モブ同盟、結ばないか?」
僕は桶を抱えたまま、しばらく悩んで――そして笑った。
「……しょうがないな」
手と手が重なった。
路地裏の暗闇で、ひっそりとした誓いが結ばれた。
◇ ◇ ◇
次回、「ギルドの影と裏切りの足音」
お楽しみに。




