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転生無双!! チン説弓張月 ―― 純愛路線かハーレムか!? それが問題だ!  作者: 幸田 蒼之助
飛躍への旅立ち

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邪魔するんやったら帰ってやー

 夏本番とも言うべき暑い時期を、オレ達は壷井で過ごした。

 荷駄車の試作第一号は、オレの指示により、郎党達の手で入念な耐久テストが行われた。数日の後、オレは、

「よし合格だ。九州までもつだろう」

 と判断を下した。

 残る一九台は、堺へ半月おきに引き取りに行った。

 毎回、五台前後完成している。郎党一五名を連れて行き、その場で一通りテストした後、壷井に持ち帰り耐久テストを行う。それの繰り返しである。

 さすがに三回目ともなると、

「為朝様がわざわざ出向くこともありますまい。儂らだけで大丈夫でござるぞ」

 と、郎党達が言い出した。

(せやな。全部、オレがやらんでもええやろ。少しずつ郎党達にも任せんと)

 良い機会だ。

 既に作業を知っている者達を集め、テスト項目表を作らせた。今までテキトーに、あれこれチェックしていただけだったが、皆で話し合ってそれらを一覧にまとめたのである。

 また何やら重季さんが、

「か、斯様な手が……」

 と衝撃を受けている様子。

 こういった項目表だとかタスクリストだとかは、しっかりした仕事をこなそうと思えば極めて重要なのだ。ミスを減らす事のみならず、思考の整理にも役立つ。

 重季さんは、傍らでずっとオレの仕事ぶりを見ていたため、項目表作成作業に何か得るものがあったらしい。

 郎党達が話し合って作成した項目表に、オレも少々手を加え、彼らを堺へと送り出した。

 ちなみに早々から、幌布(ほろぬの)も用意させている。

 これがまた、意外と大変だった。生地はムシロでええやろ、と軽く考えていたのだが、さにあらず。いざ近場の見世(店)を覗いてみると、サイズも合わないし枚数も確保出来ない。

(こりゃ全部、特注か)

 近隣の百姓数十人を集め、サイズを告げてムシロを作らせた。

 だが、それでも足りない。

 館周辺の壷井衆、石川衆にも声をかけ、下男下女に作らせた。

 いやいやいや、それでもまだ足りない。懸架装置を工夫する時間的余裕が無く、代わりに何らかのショック対策が必要になったせいである。

 代案は、尻にクッションを敷く。荷駄車に乗って移動する人員分、多少固めのクッションを用意する。

 とはいえ、当世にはウレタン等の便利な素材が無い。驚くべきことに、ワタさえあまり生産されていないのだ。布地も比較的高額である。となると、ムシロと草藁で作るのが現実的な手段となる。

(マジで、何もかんも面倒やなあ)

 原料にせよ製品にせよ、とにかく生産力が低過ぎる。今回のように突然大量の物資が必要になると、咄嗟に対応出来ない。

(しゃあないわ)

 荷駄車二台を曳き、近隣の日置(へき)荘(興福寺の荘園)まで足を延ばすと、サイズを告げてムシロを作らせた。

 帰路は、農家を回り藁を買い付けた。さらに、あちこちの空き地で大量の茅を刈って荷駄車に満載し、持ち帰った。

 藁は、下男下女達が編むムシロの材料である。余った分は、茅と一緒に広げて天日干しにする。

「為朝様。これは何に使われるので?」

 数日がかりで干し上がった草藁を眺めつつ、郎党達が首を傾げた。

「うむ。クッションを作る」

「く、くっしょん?」

 下女達を集めさせた。

「こういった物を、作れ。我々が九州へと発つまでに、七〇個作れ」

 細長いムシロを四つ折りにし、間に干した草藁を挟む。さらに、それを袋状にしたムシロに詰め込み、口を縫い合わせてみせた。

「ははあ……、あれでござるか。僧侶が使う、座具の代わりでござろう」

 年嵩の兵衛太郎さんが言う。

 聞けば、僧侶達は座布団のような物を既に使っているらしい。

 オレは頷く。

「まあ、そうだ。荷駄車は振動が酷いからな。尻の下にこれを敷けば、多少はマシになるだろう」

「ほう」

 郎党達は勿論のこと、下女達まで目をキラキラさせながらオレを眺める。

(オレ、そないスゴい事、やっとるか?)

 どうもよくわからない。なにしろこちとら、転生者だからな。

 まあ、考え込んだところで仕方ないから、今後もオレ流でゆく。前世で大した歴史知識を仕入れていないから、それらを利用してヒャッハー!!……は無理だ。それより知恵、工夫でもって郎党達を食わせていく。知恵、工夫でもってこの世を渡り切る。それで行けるところまで行く。……

 その夜も、オレの寝所は大盛況だった。

「お邪魔致しますぅ」

「邪魔するんやったら帰ってやー」

「はぁい」

 つい、返事しながら部屋を出ようと踵を返した女人衆が、慌てて戻って来た。

「ちょいとお待ち下さいまし!」

 おいおい。まさかのノリツッコミかよ。……

 某・新喜劇でお馴染みの芸って、実は意外と歴史が深いんやな、と妙に感心した。

 どうにか彼女を撃退する。が、程なく次の侵入者がやって来た。

「知恵と武術に恵まれし、見目麗しき若武者様のご寝所はこちらでございましょうか?」

「ちゃうでー」

「あ、失礼致しましたぁ」

 去ろうとした女人衆が、慌てて戻って来る。

「危うくダマされるところでございましたわ!」

 うわ。まさかまさかのノリツッコミ二連発かいな。……

 しばらく、引きも切らない侵入者の襲撃を、あの手この手で華麗に撃退する。

 やっと落ち着いたか、とホッと胸を撫で下ろしたその時、あの人(ゝゝゝ)がやって来た。

(あちゃあ。とうとう……)

 叔父さんの娘の、おつやさんである。


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