儂らにも稽古をつけて下され
桜が散る頃、オレ達一行は無事、壷井の館に戻った。
旅の経費はまだ半分程残っている。馬の購入費用たる砂金も、まだ半分程残っている。アヴェンタドールは壷井の負担ということで良いらしいので、随分と費用が浮いた格好である。
というわけでゼニも砂金も、そして時間も余ってしまった。
(ひと月以上、暇になったな)
人の噂も七五日、という諺に従うならば、そういうことになる。ここ壷井で暫く時間を潰し、それから京に戻るべきだろう。
父・六条判官為義の言葉に従うならば、前世における神戸辺りまで足を延ばすつもりだったが、あっさり三頭の馬が手に入ってしまった。
(まあ、何にせよ上手くいっとる)
やるべき事は色々ある。新たな課題も見えてきたのだ。ここは浮いた時間を有効活用すべきだろう。
オレは郎党達を鍛え始めた。
弓の個人レッスンである。立ち位置であるとか構えであるとか、いわゆる基礎を再確認させた。論理的に説明しながら欠点を指摘すると、
「なるほど。これは目から鱗が落ち申した」
と誰もが声を上げ、矢が的に命中する度、
「ほう。冠者の申される通りじゃ」
小躍りして喜ぶ。
競争要素も取り入れた。日々の成績を競わせると、皆、目の色を変えて稽古に励むようになった。
そして馬術である。
こちらはオレ自身も、まだまだ修行の余地があると感じている。郎党達と共に、腕を磨いた。
幸いにして馬が三頭、手に入ったのだ。オレもより深く、馬術を極めんと走り込む。
やはり三頭にはそれぞれ個性がある。アヴェンタドールは勝ち気で、戦闘向きだろう。ただし持久力には少々難アリか。マイバッハは相変わらず甘えん坊だが、それが欠点というわけではないようだ。意外にタフなので、少しずつ追い込んで鍛えている。
よく分からないのがシルビアで、茫としている。
アヴェンタドールやマイバッハが猛っていても、一頭だけ我関せずといった感じで周囲の草を齧り、悠々とデカいウ◯コをする。
(コイツはハズレか。それともまだ、鍛える余地があるのか)
未だ見極めがつかない。特に欠点があるようにも見えないので、どこかで覚醒してくれれば面白いのだが。
三頭それぞれを眺めていると、マイバッハがフゴフゴと小さく鼻を鳴らし、オレに甘えてくる。
いや、ちょっと待て。ちん◯んをはむはむするのはやめなさい!
それは食べ物ちゃいますねん。
そしておもむろに顔を上げるマイバッハ。唇を捲るような、変顔をする。あれだ、フレーメン反応ってヤツだ。
(あかんて。やめてくれぇ。オレの股間からフェロモン臭が漏れてんのがバレてまうやろ)
そんな様子を見ていた郎党の一人が、ニヤニヤしながら地べたに転がっていた小枝を掴むと、絵を描き始めた。
「わははは。上手いではないか」
他の者達が、腹を抱えて笑い出す。
オレに甘えるマイバッハ。うっとりとした表情で、オレの股間にナニする構図。アヘ顔の、オレ。コミカルなタッチで巧みに描いている。
みっともないからカンベンして欲しいんだが、それにしても上手い。
「お前、絵心があるな」
そう褒めた瞬間、ひらめいた。
(せや!)
これを利用しない手は、ない。
「他に、この様な絵を描ける者は?」
我も、と三人が手を上げた。
「よしよし。では、来たるべき日に備え、絵の稽古を行う」
「はあ!?」
というわけで、絵師養成プロジェクトが始まった。
オレには絵心など無いが、それでもガキの頃、マンガのキャラを色々と真似して描いている。
それらを思い起こしつつ幾つか地面に描いて見せ、にわか絵師四人と共に、当世に存在しないコミカルタッチを議論しつつ研究。
「何をしておられる?」
そこへ叔父さんがやって来た。
「あははは。京に戻っても状況が好転しない場合は、こいつらの力を借りようと……」
はあ?、と叔父さんは首を傾げる。
「それより、冠者。儂らにも稽古をつけて下され」
オレ達の稽古の様子を見て、壷井衆が騒いでいるらしい。その噂を聞きつけ、石川衆――館周辺の一族――までもがオレの指導を望んでいるのだとか。
なるほど。
オレは全員を数組に分け、順番に個人指導を行うことにした。一巡すると二日間、合同で戦術演習である。
少し前に、師匠から“孫子”を学び始めた。戦国時代の戦法についても、わずかだが知識がある。そんなオレに言わせれば、当世の戦は意外と工夫が足りない。
なにより驚かされるのが、いわゆるタイマン勝負である。両軍対峙の後、
「やあやあ我こそはどこそこの住人、何の何某である。我と思わん者は尋常に勝負致せ!」
と名乗りを上げる者が登場する。それに呼応する者が登場して、タイマン勝負が始まるのだ。それで軍の勝負が決するという。
(なんやねん、それ!?)
軍の勝負じゃないやんけ。
いや、全員でがっぷり四つの戦いもある。が、遠距離から弓を射掛け合い、片方が怯めば片方が馬で突っ込み刀や薙刀で打ち崩す。それだけらしい。
オレは叔父さん達と諸々議論を重ねつつ、新たな戦法を考案した。
平成令和の人間的に、ちょっと驚いたのが、当世にはまだ“槍”が存在しないことである。
いや、古代には確かに“鉾”が存在した。それが後に、槍として復活する筈なのだが、現時点ではまだ存在しないようだ。
「ならば、槍を使いましょう。薙刀より扱い易い筈です」
刀にしろ薙刀にしろ、攻撃動作が複雑である。とりわけ、長さのある薙刀を馬上で振り回すのは、あまり賢いとは言えない。直線的な攻撃動作である槍の方が有利だろう。リーチも薙刀より槍の方が長い。
その証拠に、戦国時代の野外合戦では薙刀が消え、槍が主流になっている。
急遽竹槍を用意させ、合同演習に投入した。
「騎馬ならずとも、槍歩兵も戦力になります」
馬を与えられていない郎党や、体力に勝る下男に竹槍を持たせてみた。三mの竹槍、四mの竹槍を使うなどして、テストを重ねた。




