デカい馬を買うた客を探せ
風呂でのひと騒動の後、オレ達は広い座敷に招かれ、酒を振る舞われた。
食事は、正直ショボい。雑穀混じりの、塩分若干多めの粥、プラス結構塩分多めの汁椀。それに根菜の煮物と漬物。酒も前世のようなクォリティには程遠く、アルコール度数も弱そうだ。
とはいえ、こちらは突然やって来たのだから、そのレベルでも充分、歓待を受けていることになるのだろう。その辺は源氏ヶ館と大差ないから、これが当世流と認識すべきなのだろう。
「わははは。大いに飲め」
光基さんは上機嫌である。
その傍らにちょこんと座っているのが、色白下膨れの、ちょっと可愛らしい感じの娘さんである。歳の頃、本来の八郎君一二歳より一つ二つ上、といった辺りか。
時折、横目でオレの方を眺めては、ぽっと頬を染めている。
「儂の大事な娘じゃ。そなたにやろうと思うたが、止めじゃ止めじゃ。悪う思うな。あないな巨魔羅を見てしもうてはのう……。娘がたちどころに極楽浄土へ逝ってしまうわい。いかんいかん」
どっ、と笑いが起こった。
オレの郎党達はゲラゲラ笑いつつ、さもありなんと納得顔。光基さんの郎党達は、どういう事だとオレの郎党達に話を聞き出し、一気に座が盛り上がる。
「六条堀川・源氏ヶ御館の女人衆は皆、既に八郎冠者にぞっこんでござる。我ら男人衆は須らく、寂しき一人寝を託うてござる」
郎党の一人がそう言うと、またもや、どっと座が沸いた。
娘さんは、オレや光基さんに辛うじて聞こえる程の小声で、
「私もそろそろ、噂に聞く極楽浄土を見てみとうございます」
オレに酌をしながら、ちょっと頬を赤らめる。
「おいおいおい。いかんいかん。お前には荷が重いわ」
慌てふためく光基さん。
いや、光基さんの側からは見えてないだろうけれど、娘さんの目つきが妙に色っぽい。
(あかんて。やめてくれぇ)
妙齢のおなごが羞恥に頬を染めつつ積極攻勢、というのは極めて破壊力が高い。彼女のたった一言で、オレの無邪気な相棒はたじたじとなり……いや勘違いして小躍りし始めた。勘弁してくれぇ。……
幸いにして、オレと光基さんのHPが尽きかける前に、宴はお開きとなった。
翌朝。――
早くから、オレ達は旅装を整えた。
「酒代って、幾ら位だ? 昨晩の酒代として、如何程渡せば良い?」
重季さんや資家さん――中年の郎党――と協議し、去り際、光基さんに追加のゼニを渡した。光基さんが懸念顔で、
「旅の初日より、そない散財して大丈夫か!?」
「大丈夫です。それがし、多少の商いを手掛けておりまして、ゼニには余裕があります」
「おう、そうじゃったのう。噂に聞いておるぞ。商品に恋人の名を付けて売りまくっておる、と」
「いやいや。それ、誤解ですから」
オレ達一行は伏見殿を辞し、奈良を目指した。
旅路はまだ少々寒いが、幸いにして快晴である。オレ達は京田辺でもう一泊し、それから平城京に入った。
既にあちこちで、情報収集済である。即ち、
――名馬を手に入れたければ、まずは平城京の市に参られよ。晴れの日には市が立つ。
という。オレ達一行は、重季さん達の交渉でとある寺に逗留しつつ、数日、市を眺めた。確かに馬も売買されている。
「見事な馬よのう」
郎党達が見惚れるような名馬――オレには良くわからないが――も、ちらほら居た。だがオレの体格に合うような大きな馬は、さすがに見当たらない。国産の馬は全般的に小さい。
馬飼(馬商人)達に色々と尋ねてみるも、
「数ヶ月に一度くらいは、大柄な馬も見かけますな。しかしいつ、そのような馬が市に出てくるかは全くわかりません」
という。
(まあ、そらそうやろなあ)
前世と異なり、ネットでオークション情報が確認出来るわけではない。カード決済でWeb売買、というわけにもいかない。
確かに東北地方は名馬の産地ではあるが、かと言って東北に行けば必ずデカい馬が手に入るという保証はない、とも言われた。
「どうするか……」
三日程、市を眺め、オレは皆に相談した。
「運を天にまかせ、一〇日程は市の様子を見てみましょう」
そう主張する郎党の顔を眺めているうち、ふとひらめく。
「せや! 何も、市の馬飼から買わんでもええやんけ」
「は?」
「数ヶ月に一度くらいは、デカい馬が市に持ち込まれとんのやろ? っちゅうことは、それを買うた人間がこの周辺におる筈や」
「はあ」
「そういう、デカい馬を買うた客を探せ。そいつらと直接交渉して馬を買えばええねん」
「あっ!!」
つい興奮して前世の関西弁全開で語ってしまったが、幸い郎党達に意図は通じたようだ。
たちまちのうちに、戦術が固まった。市に赴き大柄馬の販売情報を収集。それらの販売先――特に大和源氏の一族――を可能な限り調べ上げ、そこへ郎党を走らせた。
オレはオレで、逗留先の寺の住職をとっつかまえてゼニを掴ませる。
「すまぬが、少々ご助力願いたい。実はそれがしが斯様に大柄な体格ゆえ、色々と難渋しております。例えば馬が小さ過ぎてな。デカい馬が欲しゅうて、京よりこちらへ探しに参った次第です」
「なるほど……。お察し申し上げます」
「そないなわけで、ちと情報収集願いたい。齢四から七程度のデカい馬を探しておる。寺の情報網で探して欲しい」
成功報酬を匂わせると、住職は二〇ほど若返ったかという勢いで座敷を飛び出した。
たちまち、両方から情報が集まった。
――数ヶ月前、宇野荘に居を構える源七郎(親治)様が、栗毛の途方もない大きな馬を買われた。
という。双方共、情報が一致していた。
「ほれ。とりあえず一つ、見つかった」
オレは郎党を伴い、馬を売ったという馬飼を訪ねた。
馬齢、数え五つだという。
「どう思う? その、宇野荘とやらを訪ね、譲って貰う価値があるか? 今後何年くらい乗れる?」
「大切に育てれば、一〇年は乗れましょうぞ。御前様の大きなお体に丁度良い、実に見事な馬だったと憶えております」
おっしゃ、とオレは小躍りする。
寺に戻ると住職に礼を言い、宿代や謝礼を渡して、
「明日、出立する」
と皆に告げた。
ところで、宇野荘って、どこ?




