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転生無双!! チン説弓張月 ―― 純愛路線かハーレムか!? それが問題だ!  作者: 幸田 蒼之助
デカい馬を手に入れろ!

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あれに伏見殿が見えまする

 出立の日となった。

 状況が状況のため、我々は目立たず騒がず、ひっそりと京を離れるつもりだった。

 だが、あてが外れた。前日、下男下女が大騒ぎしながらオレ達の旅支度を整えたため、

 ――源氏ヶ御館で、何やら動きがある。

 と掴んでいる市民がいた。中には館の下女にカマをかけ、

「八郎冠者(かじゃ)とそのご一行様が、名馬を求めて明日より旅に……」

 と、核心情報を引き出した者もいた。噂はたちまち洛中に伝わった。

「うわ。こりゃ失敗ですな。人だかりが出来てござる」

 郎党の一人が額を抑えた。

 須藤重澄。重季さんの兄である。既に元服から数年。館において、“将来を期待出来る”と一目置かれている。

 重季さんが色々と細かい所に気配りの出来る、まさにオレの世話役にピッタリの性格なのに対し、兄の重澄さんは比較的大雑把。良く言えば豪胆な気質。兄弟で両極端なキャラである。

 二人、顔はよく似ているが、重澄さんの方が少しゴツい。

「まあ、バレとるんやったらバレとるで、しゃあないなぁ。むしろ開き直って、堂々としておれ」

 郎党一五人、下男五人に伝える。

 館の正門を全開にし、全員が表通りに出た。先に若宮八幡に寄り、手を合わせて旅の無事を祈願し、あらためて五条通をゆく。

 郎党のほとんどは騎乗だが、数名と下男は徒歩(かち)だ。徒歩勢の歩速にあわせてゆっくりと、洛南へと進む。

 旧暦の二月に入ったばかりである。

 雨の心配こそなさそうだが、空は薄い雲が張っている。そんな空模様とは対照的に、京の街は沸いていた。

 ――あれは、噂の八郎冠者ではあるまいか。

 一行が歩みを進める方々で、子供達が走り回る。子供の話を聞きつけた人々が次々と沿道に集まり、新たな人だかりが出来る。

 なにしろオレは、郎党達より頭一つ分ばかし、背が高い。どだい、目立つのだ。

(こら、目立たんように行動すんのはハナっから無理やな)

 沿道の人々の声が、嫌でも耳に入る。

 ――馬探しに行く言うてはるそうな。

 ――なるほど、馬が(ちい)そう見えますなあ。あれやと(つろ)おすやろ。

 ――せやけどほんに、男前やなあ。あれで大きいお馬に乗らはったら、映えて男ぶりも益々良うなりますやろなあ。

 妙齢の女性達がキラキラした目でオレを眺め、若い男共が歯噛みして悔しがっている。わははは、ざまぁ見ろ♪

 いや、調子に乗っていられる状況ではない。

 ――八郎冠者が少納言信西様を、コテンパにとっちめて恥をかかせ、信西様が激怒されておられるそうな。

 そんな声が聞こえた。

 十条通を越え、そろそろ洛外か、といった辺りに差し掛かった頃のことだ。既にこんな所にまで、あの噂が広まっていると判り、ドキリとした。あれからまだ、一〇日と経っていないではないか。

(やり過ぎたか)

 多少の後悔はある。

 だが、しゃあないやろとも思う。烏帽子なり頭巾なりが転げ落ちて、頭皮がむき出しになる。それが前世で例えるならば、ズボンとパンツを一気に下げて局部ポロリン状態……に等しい恥辱だとは。

(いや、知らんわ)

 そないな話、学校で(なろ)てへんし。

 まあ、習うわけないけど。

(大体、冠が転げ落ちたのも、ヘタレ信西の不注意やろ)

 というわけで、仕方がなかったという結論に落ち着いた。今後、我が身に何が降りかかろうと、その都度何とかするしかない。

 まずは作戦通り、ほとぼりが冷めるまで一時的に京を離れるのみ。

 それでダメなら、何か別の手を打てばよい。

(せやけど、まだ京を離れたくはないんだが)

 便利グッズ生産、販売体制が軌道に乗り始めたばかりである。あれを放棄するのか。実に勿体ない。

 そしてお鶴を、どうする?

(もし都落ちすることになるとして……女子(おなご)を長旅に連れていけるんやろか)

 まあ、無理だろう。

 馬に乗れるオレでさえ、早くも疲れを感じている。なによりケツが猛烈に痛い。徒歩での移動はもっと大変だろう。いや徒歩移動組を見回すと、表情は平然としているが。……

 重季さんに尋ねてみると、当世において女性が長旅をする事は、皆無だという。

 そりゃそうだろう。道中、何かと苦難や危険を伴うものだ。

 徒歩勢に気を使ったり、馬を労るためゆるりと移動していたら、伏見に辿り着いた辺りで日が暮れかけた。

「今宵の宿を探しましょう。あれに、伏見殿が見えまする」

 重季さんが指差す方を見れば、なるほど大きな館が高台上に見える。源氏一門、源光基の館だという。

 そうか。当世、ビジネスホテルなんか、あるわけ無いよな。……

 あちこちに交渉して一夜の宿を探すのか。

「うむ。重季さんに任せる」

「はっ。承知っ」

 重季さんは兄を伴い、馬に鞭を当て館へと走った。

 彼は、八幡太郎義家公の再来と言われるオレの姿に触発され、近頃随分と頑張っているらしい。

「八郎様を、しっかとお支え出来るよう」

 と、オレの真似をして近所の僧の下に通い、読み書きを習っていると聞く。

 そういえばオレが、店の宣伝を旗指し物に大書きしているのを見て、重季さんはショックを受けてたっけ。あ、店の売上を計算していた時も、そうだった。

「それがしも学問をせねば……」

 (こぶし)を握りしめ、決意を固めているように見えた。そのせいか、次第に頼もしさを増してきたように感じる。今など、まさにそうだ。こちらが指示する前に、さっと動いてくれる。

 そんな事を考えているうちに、二人が館の方から馬で駆け下りてきた。

「八郎様、宿の交渉をして参りました。光基様より『お越しあれ』とのお言葉を頂戴致しました」

「そうか。ご苦労」

 今晩の宿は、無事確保出来た。一行は高台へと向かう坂を上り、伏見殿へと向かった。

 

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