上総御曹司
ガチ歴史小説チックだけど……あれあれぇ!?、といった謎テイストを味わって頂きたいと思います。
なので、なるべく縦書きPDFにてお読み下さい。
原作には、1話毎のサブタイトルはありません。当サイトへの掲載の都合上、便宜的にテキトーなサブタイトルを付与しています。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大幅大改定!!
当作品は、逆行転生というSFチックな設定をベースとしつつ、歴史小説っぽいタッチの珍妙な作風を心がけています。
お気軽に読み流しつつ、随所にある重要なテーマについてもちょろっと意識して頂けると幸いです。
というわけで、我が国の歴史において指折りのスーパーヒーローの活躍を、お楽しみ下さい。
京は六条堀川に、大きな館があった。
洛中の者は、
――源氏ヶ御館
と呼んでいる。河内源氏の一族郎党と、大勢の使用人が暮らしている。
その日は朝から、館中が沸いていた。指折り旅程を数えるに、今日あたり当家の嫡男“上総御曹司”が、関東から久々に帰ってくる筈なのである。
館には“左女牛井”という、京屈指の名水が引き込まれている。
館の下男、下女達はこの清らかな水で、館中を隅々まで掃除した。好天を幸いと、郎党達も率先して庭の草を毟り、箒で掃き清めた。それを館の当主である六条判官が、落ち着き無くあちこち歩いて回りつつ、
「ここを、もそっとしっかり磨け」
と、館の者達に指図するのである。
立派に成長し関東でその名を轟かせる嫡男。その帰省に喜ぶ、父。誰もが当主の心中を微笑ましく思い、
「心得てございます」
と笑顔で応じた。館中の者が嬉々として掃除に励んでいた。
そんな中、ひとつの騒ぎが起こった。
ここ数日、
「酷い頭痛がする……」
と自室にて臥せていた当館の八男が、漸く起き出してきたのである。
誰もがその姿を見て、驚きの声を上げた。
「八郎。お前、急に背が伸びたのではないか!?」
父、六条判官は目を丸くした。
息子・八郎は今年、かぞえ一一である。臥せる前の身長は五尺程であった。そもそも一一歳で五尺というのも随分大柄であるが、わずか数日で更に六尺にまで伸びていたのである。館内の誰よりも背が高くなっていた。
「どういうことだ?」
皆が訝しがった。顔つきまでキリリと引き締まり、別人のように変わっている。
そんな騒ぎの最中、待ちに待った上総御曹司一行が館に帰着し、草鞋を脱いだ。
精悍な顔が、真っ黒に日焼けしている。
下女達は無作法にも黄色い声を上げ、たちまち御曹司の周囲に群がった。旅装を脱がせる者、手拭いで汗や埃を拭ってやる者、左女牛井の水を張ったタライを持って来る者、足を洗ってやる者。……
すぐに風呂が立てられた。御曹司一行は蒸し風呂で旅の垢を落としさっぱりすると、真っさらな衣類に着替えた。そして宴が始まった。
「無事、戻りましてございます。父上もお変わりなき御様子で、恐悦至極に存じまする」
胡座をかき両のこぶしを床に着け、御曹司は父・六条判官に頭を下げつつ挨拶する。
「うむ。お前の噂はここまで良う響いておるぞ。大いに励んでおるようじゃな」
父も嬉しそうに、しきりに頷く。
それから御曹司は、居並ぶ兄弟に視線をやり、中でもひときわ大きな八郎に目が止まった。
「ほう……八郎か。お前、大きゅうなったな」
にこやかに声をかける御曹司に、八郎は黙って頭を下げた。
「それがじゃなあ……」
父・六条判官が御曹司に語りかけるのである。
「ほんの数日前まで、八郎の背は五尺であった。齢一一やさかい、五尺でも随分大きいが、ここ数日頭痛で臥せておる間に、さらに六尺に伸びおった。皆、驚いておるところじゃ」
「まことでござるか……。不思議な事も、あるものでございますな」
「八郎。そなた、偽者ではあるまいか!?」
と、横から口を挟んだのは、当家次男の義賢である。
「いやいや。左様な筈はございませぬ」
末席の若侍が、すかさず声を張り気味に反論した。彼の名は重季という。幼少の折から八郎の世話役を務めている、若党である。
「まあ、他ならぬ重季がそう申すのであれば、偽ではあるまい」
父は笑った。御曹司も破顔し、
「世の中、色々あるわいの。不思議な事も珍しくないぞ。大柄なのは武家の男として、良き事ではないか。のう、義賢よ」
と言う。義賢はなおも何か言いたげであったが、盃の酒を口に含んで黙った。
「八郎。お前は立派な侍に成れるぞ。……そうじゃ、明朝はお前に、弓の稽古をつけてやろう」
御曹司は八郎に笑顔を向け、そして盃を煽った。皆、大いに飲み大いに食い、御曹司の武勇伝を肴に夜半まで盛り上がった。