表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

カフンショウ

作者: 多賀嶋

 またこの季節がやって来た。毎年毎年憎たらしいものだ。今年もニュースでは過去最大だと告げている。むしろ減らす努力をしているのかと問い詰めたくなるぐらい、記録を更新している。環境問題や地球温暖化など知った事か。そんな、いつ解決するかも分からぬものよりも、目先の問題をとっとと解決したい。本当はこの手で根こそぎ燃やし尽くしてしまいたいが、そんなことをしてしまえば罪に問われ、前科がついてしまう。かと言って役所や国に頼んだ所でやつらは動かない。自然現象による発火こそ、いつ起こるか全く分からない。赤の他人が放火なり火の不始末なりで火事を起こしてくれやしないかと思っても、あてにならない。



 ああ、こんなことを考えている間にも頭が痛い。鼻水が流れ、痰が絡み、咳が出る。目の痒みはますます酷くなり、涙が止まらない。まったく、これだから花粉症は嫌なんだ。誰か一刻も早く治す薬を作ってくれ。それか花粉を出す植物を根絶やしにしろ。

 ああ、鼻がムズムズする。堪えようにも限界だ。勢いに任せて、くしゃみを一発。



 男はくしゃみをすると、体から己が飛び出した感覚に襲われた。浮遊感が訪れる。

(一体どうしたことか)

 疑問が沸くが分からない。

 答えは下から聞こえてきた。意識を向けると、なんと己の体が見つめてくるではないか!

「お前は花粉となったのだ。この地球に害を成し得るようなやつを、野放しにはできん。この体には別の魂を入れる。お前は地球存続の為に礎となってもらう」

 体は男に背を向ける。

(ふざけるな!)

 怒りが沸き上がり、男は殴りかかろうとするが、行動に移せず困惑する。

「無駄だ。もうお前は一つ一つが粒子となりつつある。いずれ意識も消えるだろう。少しでも多くの雌しべと交われるように祈っている。達者でな」

 そう言って、体は振り返らずに去って行った。

(待て、待ってくれ……!)

 願いも虚しく、男の意識は消えていった。



花粉は舞う。風に、鳥に、虫に乗り。

花粉は舞う。人に、動物に、物に付き。

花粉は舞う。地面に、川に、海に落ち。

花粉は舞う。数多くの内の一つが、雌しべと交わる。

やがて種となり、芽となり、花となる。



 新たな命がまた一つ、咲き誇っている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ