後編
よろしくお願いします!
魔法調薬を始めて約8時間……
朝日が登り始めた頃、ようやく村民全員に行き渡るだけの(冷酔病)の特効薬が完成した。
「ようやくだな……。」
夜通し調薬作業を行っていた為、疲労はそれなりにたまってたが、まだやることがある。
「村長に言って村の人々を集めないとな。」
するとそこに部屋の呼び鈴が鳴る。
扉を開けるとそこには相棒の姿。
「首尾は?」
「しっかり掴んできたわ。」
そう言って、傭兵は資料を薬師に渡す。
一通りそれを見ると傭兵にそれを返して、作り上げた(冷酔病)の特効薬の小瓶が入ったケースを傭兵に渡した。
「これを村長に依頼して村全体に行き渡るようにしてくれ。」
「貴方はどうするの?」
「今の資料を見る限り、もう一本同じ物を作る必要がありそうだ。まあそれは10分くらいで終わるから俺もその後すぐに向かう。」
「なるほどね、分かったわ。」
そういって、傭兵は薬を持って部屋を出て行った。
「さて、後は村の力を思い知らせないとな。」
そういって、薬師は1個だけ残ったレージュの実を見やった。
空が完全に明るくなった頃にはすでに村長から話を聞いた(冷酔病)の患者が特効薬を求め長蛇の列をなしていた。
薬師と傭兵はそれを手慣れた様子で配っていく。
「ありがとう……!」
「貴方たちが来てくれて本当に良かった!!」
村の人々は喜んだり、涙を浮かべながら特効薬を受け取り服用していく。
勿論、服用してすぐに治る訳では無いので後は休息をしっかりとるよう伝える。
「薬師さん!」
その列の中で昨日、レージュの実の調達を手伝って貰ったマストも頭を下げ受け取りに来る。
「村長に怒られてきたか?」
「盛大に怒鳴られましたよ。でも感謝もされました。」
マストは頭をかきながらほがらかに笑って見せた。
「叱るのは当たり前だ、この馬鹿者が。」
薬師の隣で特効薬の配布の記録簿を書いていた村長が呆れた様子でため息を吐いた。
「まあでも、こればかりはマスト、お前さんの功績も大きい。……娘を頼んだぞ。」
「……はい!」
周囲に笑い声がこだまする。
「ど……どういう事だ!!」
すると少し離れた所から村民じゃない男の怒声が響いた。
振り向くとそこには高そうな服を着たいかにも高貴な身なりの男性が苛立った様子でこちらを睨んでた。
「モ、モーガス様……。」
「あれほど私が国に交渉するまで待てと言ったのにそれを無視してどこぞの薬師如きに薬を作らせ配ってるだと!?」
「い、いや……それは……。」
「それにそこの魔法薬師!関所の張り紙を見なかった訳ではあるまい!これは国家に対する重罪だぞ!」
すると薬師はため息を吐いて、ワーワーと怒る貴族を睨み付ける。
「あんな偽の紋章で俺らが騙される訳がないだろ。」
「なっ……偽物ってどこにそんな証明が……。」
「これよ。」
そういって傭兵が先ほどの資料を掲げる。
その資料を見て貴族は青ざめ始める。
「昨日、彼に付き添う者としてはルール破りだけど、魔導鉄道で貴方の屋敷にお邪魔したわ。」
「アンチテーゼでいいって言っといたしな。」
「そしたら証拠が出るわ出るわ。探す時間より拝借していく資料を選ぶ時間の方が掛かったわ。」
「し、侵入しただと!?貴族の屋敷の侵入はじゅうざ……」
「今から裁かれる人が何を言ってるのかしら?」
「な……!」
そこで入れ替わるように今度は薬師が続けざまに口を開いた。
「村長からお前が視察に来て村長宅にお邪魔したと聞いて大方確信してたよ。一方的に好意を寄せてる村長の娘さんに拒絶されたからって腹いせに本来の予防薬の流通をこの村だけ止めてるだろうって。」
「なんですと!?」
「ラーナが断ったからって!?」
これにはさすがに村長とマストも驚愕する。
「そうです。」
するとそこにもう一人、銀色の長髪の女性が姿を現した。
「ラ、ラーナさん……。」
貴族はぎくりとした様子だがそれに構わずラーナは真相を告げた。
「私は何度かそこにいるモーガス伯爵の求婚を断っていました。私にはマストという愛する人がいますから。」
「ラーナ…。」
マストは小さく名前を呼ぶ。
ラーナはマストに軽く微笑むと再び全体向き直る。
「それからしばらくしてモーガス伯爵、いえ、そこのストーカーに脅迫されました。」
「ストーカー!?」
絶望したような様子のモーガスに構わず、ラーナは続けた。
「流行病で村が潰されたく無かったらはやくマストを捨て私の求愛を受けろと。」
村の人々の怒りが一斉にモーガスに向けられる。
そりゃそうだ。いくら立場が上だからといって、たかが個人の感情で自分達が苦しむ事になったのだから。
「私は何事も一生懸命で村の為に頑張ってるマストと共に生きる!あなたのような立場やお金だけで威張り散らす貴方の人形にはならない!」
「こ……この……!!」
モーガスの顔がみるみる赤くなりついに噴火した。
「てめぇのようなアマはぶっ殺して見せしめにしてやる!!」
モーガスは腰につけていた剣を抜くとラーナを斬り伏せようと襲いかかる。
「ラーナっ!!」
すぐにマストがラーナを守るべく体で覆うように守ろうとする。
「二人そろって死ねぇ!!」
そして大きく剣を振りかざすが……。
「ふんっ」
ガギャン!!
「なっ!?」
ドカッ!
「グボベっ!?」
そこに割って入った傭兵が剣を振り抜いただけでモーガスの剣が砕け、さらにすぐに蹴りあげただけでモーガスは宙に舞い上がり盛大に地面にたたきつけられた。
「伯爵であろう男がこの程度で……。侵入しやすさも納得ね。」
「コソ泥みたいな言い方になってるよ……。」
薬師は軽く突っ込みを入れつつ、痛みにもだえてるモーガスの所に歩み寄る。
「な……なにを……。」
そして懐から液体の入った三角フラスコを取り出し、蓋を開けてモーガスの開いた口に突っ込んだ。
「んぐ!?」
不意打ちで中身を飲んでしまうモーガス。
「(冷酔病)は体が凍え強烈なめまいを起こし、最悪死に至る病気だ。それを利用して二人の恋路を邪魔するんて言語両断。」
やがて飲みきったのを確認し、フラスコを抜き取り地面にたたきつけてる。
フラスコは割れて粉々になるが構わず死に神のようなオーラを放ちモーガスを怯えさせる。
「知ってるか?薬は薬にもなれば毒にも成る。」
すぐにモーガスに異変が生じる。
「がああ!熱い!痛い!どうなってる!?」
ジタバタと激しく這いずるモーガスに薬師は容赦無く伝えた。
「レージュの実はこの村のよう醸造すれば上質な酒に、俺みたいに調薬して薬にすれば冷えた体を温め、酔いの症状を抑える薬になる。だが下手につかえば体温が急上昇、体中がやけどのように熱くなり、痛みには敏感になる。これは約1週間は治らない。」
「や、薬師が毒を盛っていいのかよ!?」
熱さと痛みに苦しみつつも必死に声を上げるが薬師はあっけからんと伝えた。
「これはレージュの実を搾っただけのただのジュースだよ。原料のままでは薬とは言えないし咎められもしない。」
「グ……クソがぁぁ!!」
その20分後、傭兵が村に戻る前に通報していた国の騎士団が駆けつけた頃にはモーガスは気絶して、村長が騎士団に事情を説明した。
何故、薬師と傭兵が説明しないか?
実はその時にはいつの間にか薬師と傭兵の姿が無くなっており、騎士団の一部が村の周囲を探し回ったが、全く見つからなかったという。
それから1週間が過ぎた頃……
(モーガス伯爵家貴族階級剥奪!!脅迫、配給品横領、王家紋章偽造、その他にも罪状ありか!?)
新聞の見出し一面に取り上げられた記事を見て、傭兵は呆れた様子でため息を吐いた。
「腹いせ一つで貴族の誇りまで潰して何がいいのかしらね。」
「さあな。」
道の途中にある大樹に背を預け、薬師はコーヒーを嗜み、傭兵は近くの都市で買った新聞をめくっていた。
「今回の件で王家の使者が村を訪れて謝罪をしたんだって。村長は王家へ理解を示してその証にレージュ酒を献上したそうよ。」
「まあ今回の件はあのモーガスとかいう元貴族の独断だしな。」
さらにページを開いた傭兵だが突如目を見開く。
「ちょっと!これ見て!」
「なんだ?ページが連続するくらいいくらでも……。」
(マスト並びにラーナ、王家の推薦で男爵家に昇進!名領主誕生の兆しか!?)
二人は思わず顔を見合わせ、互いに笑い合った。
魔法産業の賜物を嫌い、己の技術と魔術のみで薬を作る旅の魔法薬師。
その旅の魔法薬師に付き添ういかなる強敵もスカウトも斬り捨てる凄腕の傭兵。
二人の素性を知る者は誰一人といない。
しかしはっきりしている事が一つ。
二人が通った途には何かしらの花が咲くという事だ。
評判が良ければ連載版に作り直して続きも書きます!(もうあらかた話も決まってます!)
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