表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法薬師の途  作者: ソルト檸檬
2/3

中編

よろしくお願いします!

村の北西からさらに奥まで向かった薬師は腰の小物入れから黒のグローブを取り出すと、それを両手に装着し、周辺の草原に意識を集中させる。


黒のグローブは魔力を通しやすい古代の繊維で出来ており、魔法産業が発展する前までは魔術が関係する仕事で重宝されていた。


薬師の周りの草原に魔力が広がっていく。


「聖は転輪に、邪は輪廻に、隔て廻れ精霊のまにまに。」


やがて魔力が草原に染み込み、魔力が届いた一帯の草原に変化が現れた。


具体的には一部の草は枯れ、一部の草は少し大きくなっていた。


今でこそ魔導機は予め仕掛けられた魔術等で動くが、本来は使う者のイメージが重要だ。


例えば例えば火を起こす魔術なら、自分の手のひらに火をイメージする事で火を起こす魔術として成立、発動する。


薬師はそれに従って薬草には成長を促す魔力、毒草には分解を促す魔力のイメージを詠唱にして発動させる事で、薬草を少しだけ成長させ、毒草は枯れさせたのだ。


「……よし。」


薬師は少し大きくなった薬草を観察しながら必要な種類のみを摘み取り、予め用意してたレージュの実用の籠に入れ始める。


そして日が暮れ始める頃には籠一杯に薬草が積まれた。


「次はレージュの実だな。」


ただし、レージュの実の調達には問題があった。


レージュの実は握りこぶし大の大きさがあり、重さもそれなりにある。


薬師の想定だと村民63人全員分となると最低でも40個程のレージュの実が必要になる。


それを保管庫から村で借りた宿まで運ぶのはさすがに一人では無理があった。


「どうしたものか……。」


ひとまず薬草を宿に入れるべく、村に入ろうとした。


「待ってください。」


突然、後ろから呼び止められ振り向くとそこには自分と同じくらいの歳であろう男性が立っていた。


「どうしました?」


「私はマスト、(冷酔病)にはかかってないのでご安心を。実は貴方と村長の話をこっそり聞いてました、それを踏まえて薬師さん、貴方にお願いがあります。」


するとその場で土下座をしだした。


「どうか、私にも手伝をさせて欲しいのです。お願いします!」


薬師はしばらく呆気に取られてたが、すぐに気を取り直す。


「魔法調薬は資格が無い限り、助手だろうと関わることが出来ない。悪いけど諦めて……。」


「婚約者を救いたいのです。」


ポツポツとマストという名の男がしゃべり出した。


「私はここの村長の娘、ラーナの婚約者です。しかしある日からラーナは何かに怯えていて、私が聞いても何も答えてくれない。その上、今の(冷酔病)で倒れ……」


絞り出すような声で叫ぶ。


「私はラーナを守りたいっ!!」


その言葉に薬師は遠きかつての事を思いだした。


自分が絶望していた頃、そして……


「……マストさん。レージュの実の取り扱いは?」


薬師の言葉に土下座したままだったマストは頭を上げる。


「まだ若輩ですが、収穫作業を任されています!」


「そうですか。」


すると薬師は婚約者に歩み寄ると、マストに手を差し伸べる。


「こちらの魔法調薬に干渉しない。それを守れるなら資格関係に抵触しないはず。それでいいですか?」


「……!はいっ!私に出来ることなら何でもやります!」


マストは泣きながらも差し出された手を握り返した。


「マストさんには保管庫から可能な限り熟してないレージュの実を40個ほど今から取ってきて欲しい。村長には後でこちらから伝えときます。」


「分かりました!すぐに向かいます!!」




1時間後……


「薬師さん!あまり熟してないレージュの実40個、持ってきました!」


そういってまだ少し青っぽいレージュの実をふたかごほど担いだマストが戻ってきた。


「速いな、ありがとう。明日までには調薬を終わらせるから後は帰って休んでくれ。」


「分かりました!よろしくお願いします!」


「それから……。」


薬師は懐から液体の入った小瓶をマストに渡した。


「これは……。」


「村長は心配してましたよ。本当は貴方も(冷酔病)にかかってますよね?」


「……!すいません。」


「その薬は気休め程度ですけど、症状は緩和してくれます。しっかり休んで村長の謝罪を。」


「はい、ありがとうございます。」


そうして無事、魔法調薬に必要な素材を客室に運び込んだ薬師はアタッシュケースを開いた。


中にはガラス管、天秤に分銅、諸々の道具が整然と並べられていた。


「婚約者の為にも朝までには仕上げないとな……!」


摘み取った薬草の一つ、メイア草、レージュの実の果汁と表面の果皮。


これを予め精製した混じりけの無い真水が入った鍋に分量通りに配合し成分を煮出す。


煮出したらそれを濾過して一つ目の器に注いで冷ます。


次にもう一種類の薬草、アロンの花びらそしてレージュの実の綿。


これらはすり潰し、真水に入れ煮出す。これは濾過せずに今度は宿の調理場で借りた大鍋に一つ目の器に注いだ薬液と共にに入れる。


一つ目の器に注いでた薬液も大鍋に入れる。


大鍋の8分までいれられた混合薬液を前に薬師は小物入れから再び黒いグローブを取り出し今度は右手のみ装着する。


そして手をかざし、意識を集中させ混合薬液に魔力を集中させる。


「天と地、結ぶはならざる者の御業、されど繋ぐはありうる者の所業。」


詠唱により混合から融和へ転じ、(冷酔病)の特効薬が完成する。


「あとはこれを4周だな。」


今の魔法調薬で掛かった時間が2時間(ほとんどは煮出す時間)。


薬師は夜通し作業を行うのだった。


村のため、そして身を投げ出してまで愛する人を助けようとした者の為に。

よければ評価の方もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ