優の好奇心
木の影に隠れながら、裏門の様子を伺う。裏門前に近藤が立っていた。近藤は外を向いて、走ってくる生徒達に声をかけながら迎え入れている。
「あともう少しだぞー、がんばれー」
近藤は厳しい先生だか、体育教師としては優しいほうだと思う。時には体育会系という感じの事を言い出したりするが、生徒思いだ。顔もくやしいがイケメンだ。女子生徒のファンも多い。しかし、結婚はしていない。運動ができる優しいイケメンが結婚をしていないとなると、逆に色んな噂が流れる。極度のマザコンなのか?とか、もしくは同性愛者なのか?とか、勝手に憶測が独り歩きしている。『おっ、優発見。よし、また優の隣にどさくさに紛れに合流しよう』翔はそう決めると、優が来るタイミングを測った。裏門から優が入ってくる。近藤は相変わらず外を見ていて、こちらを見ていない。『よしっ、チャンスだ』翔はパッと飛び出し、うまく優と合流した。優もすぐに翔に気づき、2人で親指を立てて、グッとポーズを決め合った。仲良くグラウンドのトラックを半周周り、2人は無事にゴールした。
「翔、うまくやったな」
息を切らしながら、優が小声で言った。
「優、ありがとう。本当に助かったよ」
翔は息を切らしたフリをしながら、小声で優に返事をした。
まもなくすると、いつもビリでお決まりの奴がゴールした。それと同時に近藤もグラウンドへと戻ってきた。
「よしっ、みんな全力で走りきったみたいだな。各自ストレッチしたりして、そのまま解散していいぞ」
そう言うと、近藤は校舎へと向かって歩き出した。と思ったら、途中で足を止めみんなの方を振り返った。
「おい、翔。ちょっと来い」
近藤が翔を呼んでいる。翔は優の顔を見ると、優も翔の顔を見た。『バレたか』という空気が2人の間に流れた。翔が近藤の側に向かった。
「はい、先生なんですか?」
「翔、お前ちゃんと走ってたか?」
「はい、ずっとちゃんと走ってました」
「俺はずっと裏門でみんなが戻って来るのを迎えていたが、お前が入ってくる姿を見なかった。本当にちゃんと走っていたか?」
「あ‥‥‥はい‥‥‥ちゃんと走ってたと思います」
「‥‥‥俺の目を見ろ」
翔は近藤の目を見たが、近藤の圧に負けてしまい、一瞬にして目を逸らした。
「‥‥‥‥ちょっとだけ走ってないかもです」
「そうだよな。後で職員室へ来い」
「はい‥‥‥」
近藤は再び校舎へと向かって歩き出した。翔はトボトボと優の近くへと戻った。
「‥‥‥翔‥‥‥バレちゃった?」
「うん、バレてたみたい。みんながちゃんと外を走ってきてるのか、裏門に立って見張ってたらしい」
「その為にわざわざ裏門にいたのか。やられたな」
「後で職員室に来いって言われた」
「そっか‥‥‥」
「あっ、そういえば優に話したいことがあったんだ」
「おっ?どうした?」
「俺さ、立ちションするのイヤでさ、旧校舎に入れないか、入り口探したんだよ」
「えっ?そうなの?さっさと立ちションして用を済ませて、のんびりと昼寝でもしてたのかと思ってた」
「俺も悩んだんだけどさ、もしも立ちションしている姿を誰かに発見されたら、立ちションプラスサボりっていう最悪なパターンだなと思って」
「あははは。確かに。立ちションする為にサボったみたいになるもんな。でも、実際そういうことなんだけどな」
2人はクスクスと笑い合った。
「まぁ、確かにそうなんだけどね」
翔は笑いながら苦しそうに答えた。
「話の続きだけど、旧校舎に入れる扉を見つけたんだよ」
「おぉ、ラッキーじゃん。それで中に入ったの?」
「うん。中に入ってトイレ見つけて、ちゃんとトイレで用が足せた」
「おめでとうございます」
「そこまではよかったんだよ。まだこの話には続きがあるんだ」
「うん?あっ、わかった。大きい方もしたとか?」
「イヤイヤ、違う違う。それならまだいい方だ」
「なにがあったの?」
「用を済ませたあと、みんなが戻ってくるまで、旧校舎内を散策したんだよ。どこも何も置いてない空き教室だったんだけど、一部屋だけソファが置いてあって、気になって中に入ってみたんだ」
「うん、それで?」
「なんか座り心地の良いいいソファでさ。うっとりしたんだよ」
「そのソファの座り心地が、俺に話したいことなのか?」
「イヤ、それもあるけどもう一つあって‥‥‥その教室に、未練仏がいたんだよ‥‥」
「えっ?本当に?」
「うん、本当に。俺もなんだかよくわからなくなっちゃって、とりあえず、すみませんって言って出てきちゃったよ」
「そんなことがあったんだ。その未練仏はどんな人だったの?」
「制服を着てる女の子だった。歳は俺達と変わらないぐらいだと思うから、多分女子高生だと思う」
「そっか‥‥可愛かった?」
「はぁ‥‥優は女の子って聞くとまずそこを確認したがるよな。可愛いか可愛くないかで言うと、わからない」
「わからない?微妙な人だったのか?」
「イヤ、よく見てないし、よく覚えてない。そんな冷静に顔を見れる余裕はなかった」
「そっか。でも、気になるな」
「俺も気になるんだよ。あのソファって、旧校舎を使わなくなってから、誰かが持ち込んだ物だと思うんだ」
「俺はその女の子のが気になるけど」
「おいおい、やっぱりお前は女の子のことか」
「お互いの気になることを解決しに、後で行こうよ?」
「えっ?あの教室に?行くの?」
「うん、行こうぜ。行ってみたい」
「うーん‥‥‥わかった。でも、余計なことはしないようにしよう」
「うん、OK。昼休みに行くのはどう?」
「昼休みか‥‥‥俺、近藤に呼び出しくらってんだよな‥‥‥」
「あっ、サボった件か。でも、昼休みいつも近藤捕まらないぞ?俺も前に職員室に呼び出されて行ったけど、昼休みはいつもいないんだよ。だから、放課後に行けば?」
「そうなんだ。行ってもいないなら意味ないからな‥‥でも、一応顔だして、近藤いなかったら旧校舎行くのは?」
「うん、わかった。いなかったら言い訳できるもんな。そうしよう」
2人はお昼休みに旧校舎へ行く計画を立てた。その後の授業は、優はなんだかソワソワと浮ついた空気を出していた。『よっぽど楽しみなんだな。でも、行っても楽しいことがあるっていう保証はないんだけどな』翔はそう思いながら、浮ついた優を横目にお昼休みまでの授業を過ごした。そしてお昼休みを迎えた。