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すれ違い⑤
お互いがお互いに譲らないのだとお互いが悟り、2人とも黙ってしまった。何を口に出したらいいのか、言葉が見つからなくなってしまった。頭で色んな言葉を巡らせることすら止めてしまい、2人は沈黙した。
そのまま2人の時間は止まった。通り過ぎて行く人の気配が無くなっていき、周りの人の声や音は聞こえなくなっていった。世界は動いてるのだが、2人の世界は止まっていた。世界から取り残されてしまっているかのようだった。むしろその逆だったかもしれない。2人だけの世界が2人の中で動いていた。放心状態にも近い状態だった。しかし、その中にどこか心地良さを感じてしまう。その心地良さがどこから来るのかはわからない。2人の時間は止まっていたが、不快なものはなかった。感情や言葉や思考が停止していても、2人はお互いに何か繋がっているものを感じていた。目に見えない、言葉では説明できない何かで繋がっていた。そして時間が経てば経つほど、何か心の奥から熱い感情が沸いてくる。最初はなんの感情なのかわからなかった。ただただ何か熱いものが沸いてくる。それだけしか感じなかった。