謎の女性
「あっ、未練仏だったんだね」
鈴が小声で翔の耳元で言った。翔はうんうんと頷いた。そこにいたのは20代ぐらいの女性の未練仏だった。ここ、ねずみ遊園地には未練仏はほとんど現れないので、遊びに来ている人には珍しかった。ただ、一切現れないということではなく、未練仏が現れるとすぐにお坊さんが来て、強制成仏させるのだ。公共施設やこの場所のような遊園地、また観光地やオフィスビルなど、景観や秩序を守る為に影響が出てきそうな場合は、その場所に対して許可を取っていると、強制成仏させることができるのだ。ここねずみ遊園地も、強制成仏許可を取っている遊園地なので、未練仏が現れた瞬間に強制成仏することができる。遊園地等の、人が思い入れが強くなるような場所に現れやすいので、そのまま放っておくと、すぐに未練仏だらけになってしまう。未練仏だらけになっている遊園地には、遊びに来ようという人が減ってしまう。その為の強制成仏許可だ。今現れてしまった女性も、まもなくお坊さんが来て強制成仏されてしまうだろう。この女性もそれはきっと理解しているのだと思う。しかし、その女性は、何かを訴えるわけでもなく、ただ凛として立っている。『ジムにいる時に、心臓発作か何かで亡くなったのかな‥‥』と翔は思った。その女性の服装が、運動していたような服装をしていたからだ。Tシャツの下に長袖のインナーを着ていて、下は短パンのジャージで、その短パンの下にスパッツのような物を履いている。靴は履いておらず、裸足だった。ただずっと立ったままの女性を、翔と鈴も立ったまま見ていた。