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新星機動のアサルトフレーム―タケミカヅチ・クロニクル―  作者: 河原 机宏
第1章 白いアサルトフレーム

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初陣の後で


 敵が撤退するのをコックピットから見届けた。追撃しようと思えば出来たかも知れない。

 でも今は自分の中に別の自分がいるような感覚に襲われていてそれどころじゃなかった。

 初めて本格的な戦闘を経験したはずなのに、何度も戦った事があるようなひどく落ち着いた感覚があった。

 これが勘違いで無かったのなら、この感覚は以前の――保育装置で再生される前の自分のものであった可能性が高い。

 そうであったのなら以前の僕は軍人だったのだろうか。そんな事を考えていると<ランドキャリア>から通信が入った。


『カナタ、無事か!?』


「爺ちゃん……僕は無事だよ。爺ちゃんの方こそ大丈夫? <ランドキャリア>は被弾したんでしょ?」


『あの程度のダメージ大したことないわい。それよりもすぐにここを離れるぞ。さっきの連中の仲間がまだいるかもしれん』


「分かった。でもその前に――」


 戦闘で破壊されたA(アサルト)F(フレーム)<ゴブリン>の残骸を回収し<ランドキャリア>のコンテナに搬入した。今回の仕事の収入がゼロなのは火を見るより明らかだ。

 だったらこのAFのパーツを売って資金に変えるしかない。

 こういった行為は管理局側からすれば違法と言えるが、実入りが少ないサルベージャーにとっては命を繋ぐ必要な行為だ。

 うちも仕事の依頼品は管理局に納めてきたが、その過程でたまたま手に入ったパーツ等はサルベージャー達の間で開かれる『マーケット』で売ってきた。


 <タケミカヅチ>のパワーは<ソルド>よりも数段上で<ゴブリン>のパーツ搬入はスムーズに完了した。


『疲れているところ悪いが、安全域に行くまでそのまま護衛してくれ。その方が襲われた時に対処しやすいし<ランドキャリア>の足が速くなるからのう』


「了解」


 <タケミカヅチ>を先行させて索敵をしながら進んでいく。道すがら爺ちゃんと通信でやり取りをする。


『それにしても驚いたのう。お前がその機体に乗れた事といい、あの重装甲の下がそのような姿だった事といい……』


「うん……」


『どうかしたのか?』


 爺ちゃんに訊かれて戦闘中に経験した自分の変化を話した。最後まで話すと爺ちゃんは答えてくれた。


『お前も知っている様にわしらは死ぬと『クレイドル』の中枢システムに登録されている遺伝子データに基づき再生され、以前の記憶はリセットされる。それから保育装置で二年の時間を費やし第二次性徴期まで成長する』


「……うん」


『しかし何かのきっかけで以前の記憶が断片的に蘇るケースが稀にある。今回の場合はAFでの戦闘がそれに該当していたのじゃろう』


「それじゃ以前の僕はAFに乗って戦っていたってこと?」


『その可能性はあるという事しか言えんな。――以前の自分の事が気になるか?』


「これまでは別に気にしていなかったけど、今はちょっと……ね」


 しばらくお互いに沈黙した後爺ちゃんが言った。


『以前の記憶が蘇ることによって当時の人格と今の人格が混ざり合い、精神に異常をきたすケースがあったという話を聞いたことがある。だから……』


 そこまで話すと爺ちゃんは気まずそうに口をつぐんだ。その先は言われなくても分かった。

 

「ありがとう爺ちゃん。この事はとりあえず頭の隅に置いておくことにするよ。今はそれよりも色々と考えなくちゃいけない事、やらなくちゃいけない事があるから」


 こうしてこの件は心にしこりを残したまま一旦保留する事となった。

 

 戦闘した場所からかなり離れた場所まで移動を終え追撃の危険がない事を確認すると休憩を取り今後について相談する事にした。

 この辺りには大罪戦役中に破壊され放棄された都市がある。もう誰も住んでいないゴーストタウンだ。

 ビルやスポーツ観戦が行われていた巨大ドームが今も形を留めているので隠れみのにはうってつけだ。

 <ランドキャリア>と<タケミカヅチ>をドームの中に隠すと、<ランドキャリア>の操縦席で爺ちゃんと話し合いを始めた。


「あの<タケミカヅチ>という機体についてはこれから調べるとして、その前に今後の事を話し合わないといけんのう」


「そうだね。あの人たちが管理局の人間なら今頃僕たちは反逆の罪を着せられて指名手配されているだろうね」


「十中八九そうじゃろうな。あの手の輩はそこらへん抜かりはないじゃろう。つまりわしらは管理局の追っ手や指名手配の報奨金目当てのサルベージャーから逃げながら生活をしなければならないという事じゃろう」


「……『クレイドル』に……政府に助けてもらえないかな?」


「恐らくその辺も既に手を回されているじゃろう。それに『クレイドル』は末端のサルベージャーの問題などには干渉せんじゃろうし。とにかく自分たちの力で何とかやっていくしかないじゃろう。いざとなれば……」


 爺ちゃんが何かを言いかけると操縦席内に『ピピピピ!』とアラームが鳴った。

 それはコールドスリープされていた少女のバイタルを観察していたモニターのものだった。


「どうやらお姫様が目を覚ましたようじゃな」

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