オーバーホール
気持ちを新たにしてAF工場区画に到着するとそこには見知った人物がいた。大きく手を振って僕たちの到着を歓迎してくれている。
「よう、おはようさん。お前らちゃんと眠れたか?」
「おはようございます、テツさん。皆しっかり休んできました。この先に<タケミカヅチ>と<カグツチ>がいるんですよね?」
「ああ、百聞は一見にしかずって言うからな。説明するよりも実際に見て貰った方がいいだろ。俺に付いてきな」
テツさんの後について歩いていくと道中メンテナンスを受けている数多くのAFがいた。
その中には独自にカスタム化されたであろう機体が何機もいてサルベージャーが所持している物よりもより実戦仕様であることが分かる。
「ここで調整を受けているAFは戦闘で傷ついた機体やパイロットの特性に合わせて改造中の機体だ。他にも各種武装テスト用の試作機もある」
僕たちが珍しげに見ているのに気がついたテツさんが説明をしてくれた。
「こいつは凄いな。どいつもこいつもサルベージャーの物とは比べものにならない装備が施されてやがる」
「ははは、外見だけじゃないぞ。中身もかなり弄っているから見た目が<ソルド>でもパワーが段違い、なんてのもざらにある。――着いたぞ」
工場内の一区画に装甲が全て外され骨格である内部フレームのみの機体が二機並んでいた。
フレームの形状は部分的に異なる部分があるが基本的には同一のもので同じシリーズの機体であることが一目で分かる。
「これが<タケミカヅチ>と<カグツチ>……こうしてフレームだけになるとほとんど一緒なんですね」
「まあな。アマツ型フレーム――百年前の大罪戦争で造られたAFの中でも最高レベルの代物だよ。今でもこのアマツ型フレームを一機分造るのに量産機十機以上のコストは掛かるからなぁ」
「そんなに高価なんですか!?」
「そりゃそうさ。フレーム全てがナノニウムで構成されているから基本的にはメンテナンスフリー……高くもなる。今回オーバーホールまでやってるのはリアクター交換のためってのもあるが、二機とも百年間碌なメンテなしに放置されていたからだ。今後本格的に実戦投入する前に新品同様にしておこうって事になったんだよ」
「なるほど……」
フレームだけになった<タケミカヅチ>を見上げているとコックピットから爺ちゃんが出てきた。
こっちに気が付くと昇降機で降りて来る。
「おはよう。街はどうだった?」
「凄く良いところだったよ。今度爺ちゃんも一緒に……あ……」
「ん? どうした?」
「爺ちゃんは技師長って言われるぐらい偉い人なんだよね。そんな人を爺ちゃん呼ばわりするのはどうかなと思って……」
アメリア副長あたりはこういう階級による呼び方とかに厳しそうだし軍人として大事なことだと思う。そうなると爺ちゃんを今後は何て呼んだ方がいいのだろうか?
そんな心配を他所に爺ちゃん本人は笑っている。
「今まで通りで構わんよ。テツ達もわしの事はおやっさん呼びしとるし、お前にかしこまった感じで呼ばれるのは変な感じじゃからの。最も他の部隊の者の前では技師長呼びが良いとは思うがの」
「そっか。分かったよ」
軍属になることで爺ちゃんとの関係性が変わるんじゃないかと思っていたけど、そうはならなくて正直安心した。
環境が変わっても根っこの部分は変わらないのだろう。機械弄りをしている爺ちゃんはサルベージャーの時と同じく生き生きしている。
「それじゃアンナとジタンはテツの指示で動いてくれ。そうしているうちにここの空気にも慣れるし徐々にこなれてくるはずじゃ。ここにいる連中はどいつもこいつもAFを始めとした機械オタクばかりじゃから話が合うじゃろ」
「うっす!」
「合点承知!」
アンナとジタンはテツさんと一緒にフレームだけになった<カグツチ>のメンテナンスをしにいった。
残った僕とフィオナ、バルトの三人は爺ちゃんから現状の説明を受ける。
「現在<タケミカヅチ>と<カグツチ>は装甲を全て外してフレームの状態確認をしておる。それが終われば本格的なメンテナンス――オーバーホールが開始される予定じゃ。その間アップデートを施しフレームとアーマーを最新の状態に仕上げる。この作業に約二週間かかる。フレームのメンテが終わったらアーマーを取り付けて終了じゃ」
「二週間か、待ち遠しいなぁ。フルスペックの<タケミカヅチ>に早く乗ってみたいよ」
「だな、オレも同じだぜ」
バルトとオーバーホールが終わるのを待ち遠しく思っていると爺ちゃんが途端に真顔になる。
「そうそう、バルト。お前さんに言っとかなければならない事があるんじゃが」
「なんだい、とっつぁん?」
「<カグツチ>のナノニウムアーマーはこれから新たに製造を始める。だから完全に仕上がるのに一ヶ月近くはかかるぞ」
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
バルトの大声が工場内に木霊した。近くにいた整備士たちが何事かと思いこっちを見ていてちょっと恥ずかしい。
周りの視線には目もくれずバルトは爺ちゃんに詰め寄っていた。
「頼むよとっつぁん。何とか二週間で仕上げられないか? 一ヶ月もお預けなんてそりゃねえぜ!!」
「何を言うとるんじゃ! アマツシリーズのナノニウムアーマーは量産機の物よりも高性能な分、完成に時間が掛かる。それに一ヶ月間お前たち新人パイロットは日々の訓練に追われる事になるじゃろう。どのみち今の技量ではフルスペックの<カグツチ>を扱い切れん。それはカナタも同じじゃ」
「……そんなに凄えのか?」
「今までとは別物と考えていい。機体が完成してもパイロットが未熟で性能を引き出せない、なんて事になったら本末転倒じゃろ」
爺ちゃんの挑発とも言える言動に心が奮い立つ。バルトも同じように感じたらしく目が合うと頷き合う。
「言ってくれるじゃねえか、とっつぁんよ。――いいぜ、機体が完成するまでの一ヶ月間腕を磨いてやるぜ」
「僕もバルトと同じだ。パイロットとして機体の性能を発揮できなかったら情けないからね」
「二人とも良い面構えじゃ。そんなお前たちに良い物をやろう」
そう言って渡されたのはタブレット型の端末だ。爺ちゃんが首を縦に振ったので電源をオンにするとオーバーホール後と思われる<タケミカヅチ>と<カグツチ>の機体スペックやウェポンモジュールのデータが表示される。
そこには今までとは明らかに桁違いの性能が記されており、驚くと同時にワクワクして顔がにやけてしまう。
「爺ちゃん、これって……」
「<タケミカヅチ>は二週間後、<カグツチ>は一ヶ月後――そのスペックで完成する予定じゃ。自分たちの目標がはっきりしていた方が訓練にも身が入るじゃろう。わしからのささやかなプレゼントじゃ」
「ありがとう、爺ちゃん」
「サンキューだぜ、とっつぁん。これで一ヶ月退屈しないで済む」




