フィオナの真実①
◇
艦長室からカナタ達が退室した後、その場にはロイ、アメリア、デューイ、フィオナ、ノーマンが残っていた。
「……さて、ここからは話が長くなるだろうからソファに座ることにしよう。それとフィオナ君はコーヒーは飲めるかね?」
「は、はい……コーヒーは好きです」
「それは良かった。先日質の良い豆が手に入ったんでね、ちょっと待っていてくれ」
ロイが艦長室に備えられてあるソファに座るように全員に促すと戸棚からコーヒーメーカーを取り出しコーヒー豆をセットした。
「自分で豆を挽いて淹れるのがいいんだが、それだと時間がかかるからね。ここは全自動で済ませよう」
間もなく艦長室内にコーヒーの芳醇な香りが広がっていきロイは深く息を吸い込んで楽しむ。全員分のコーヒーの準備が終わるとテーブルに配置しフィオナの正面に座った。
「ミルクと砂糖もあるから各々好きなように飲んでくれ。ちなみに私はブラックが好みでね」
コーヒー好きのロイは香りを堪能すると少しばかりカップに口を付け味を楽しむ。フィオナもそのままブラックで飲むと目をぱぁっと見開く。
「わぁ、これ美味しいですね。程よい苦みと香りがとても良いです」
「お、分かる? 君も中々コーヒー通のようだね」
「以前のアマツ部隊にもコーヒー好きの人がいたのでよく飲んでいたんです」
「そうか……」
懐かしそうな目でカップ内のコーヒーを見つめるフィオナを前にロイは複雑な思いを抱く。
このまま純粋にコーヒーを楽しむだけの会で済ませたいと思いながらも、軍人としてこの艦の代表として職務を全うしなければならないと思い直す。
「さて、それではそろそろ本題に入ろうか。――フィオナ・トワイライト君、ある程度の話はそこにいるデューイ中尉からの報告を受けている。しかし情報を精査するために直接君自身から話を聴かせてもらっても良いかな?」
「……はい、分かりました」
フィオナはカップをテーブルに置くと深呼吸して真っ直ぐロイに視線を送った。
「話が長くなるので時系列順に説明していきます」
「……頼む」
「……百年前の大罪戦役終盤で当時のアマツ部隊は『ノア3』の中枢部への襲撃作戦を敢行し結果は成功に終わりました。ですが、その直後に<クロノス>直轄部隊の<クイーン>が襲来しアマツ部隊と交戦、被害を受けるもカウンターを与えることに成功しました。大ダメージを受けた<クイーン>はポイント『ヨモツヒラサカ』へ逃亡し、これの追撃のために『ノア11』側から部隊が派遣されました。その中にTMHX―02<イザナミ>も編成されており、私はそのパイロットを担当していました」
「<イザナミ>はアマツ部隊に組み込まれていなかったのかね?」
「<イザナミ>とTMHX―01<イザナギ>はあくまでアマツシリーズのプロトタイプという立ち位置でウェポンモジュールの性能評価試験が主な任務でした。それ故アマツ部隊所属であっても基本的には前線に出ることは無かったんです。ですが戦争終盤ともなるとAFも人員も疲弊し余裕がなかったので、やむを得ずという形でこの時は追撃部隊に組み込まれました」
「なるほど……では、続けてくれるかね?」
「はい。『ヨモツヒラサカ』で私が所属していた追撃部隊は<クイーン>と会敵、撃破まであと一歩と言うところで私が搭乗していた<イザナミ>は<クイーン>からの侵食を受け融合されました」
艦長室にいるメンバー全員がフィオナに降りかかった不幸を想像し彼女を直視できなかった。それでも彼女は淡々と話を続けた。
「侵食融合された<イザナミ>はパイロット共々<クイーン>に乗っ取られ追撃部隊は全滅。それから融合はさらに進み、現場に到着したアマツ部隊との戦闘に突入。アマツ部隊は全機が大破ないしは中破、<イザナミ>も大きな損傷を受け一時的に戦闘は中断となりました」
「……中断? 状況がそこまでひっ迫しているのに何故そのような事になったのかね?」
ロイの質問にフィオナは下を向き手を握りしめる。その様子を見て今から語られるのは彼女にとって辛い出来事なのだろうと周囲は理解した。
そしてフィオナは顔を上げると重い口を開く。
「戦闘が中断となったのはある出来事があったからです。それは……それは……アマツ部隊に所属していたカナタ・クラウディスの死亡です。彼は<クイーン>に取り込まれたフィオナ・トワイライトの救出に向かい自機が損傷を受ける中、<イザナミ>のコックピットブロック到着に成功しました。ですが……救出直前に自己防衛プログラムによって暴走を始めた<イザナミ>によって彼女の目の前で彼は……亡くなりました」
当時のカナタの凄惨な最期を聞いてノーマンは顔をしかめる。
フィオナはコーヒーを飲んで落ち着こうとするが自分の手が震えている事に気が付きカップを置いて話を再開した。
「彼の死によって一時的に自我を取り戻した彼女は、<クイーン>の持つナノマシンを利用して自分の人格と記憶をコピーした複製体を創りました。――それが私です」
「つまり君はフィオナ・トワイライト本人ではないと言うことか……」
「その通りです。本物と同じ人格と記憶がありますが、この身体はナノマシンで構成されたマテリアルボディとなっています。限りなく人間の体組織と同じなので簡単な検査では本物の人体と区別がつかないレベルです」
「凄い技術だ。しかし、その状況下でオリジナルのフィオナ・トワイライトが君を創り上げたのには明確な理由があっての事だと思うが、それで合っているかね?」
ロイの問いにフィオナは頷いた。
「オリジナルのフィオナが複製体である私を創った目的は<クイーン>に侵食された自身の抹殺です。彼女の意志を受け取った私は……パイロットが亡くなり機能停止していた<タケミカヅチ>を動かしアマツ部隊と合流しました。――私は認証なしでパイロット不在状態のアマツシリーズを動かせるので<タケミカヅチ>も起動できたんです」
「なるほどのう。それで海底から引き上げた<タケミカヅチ>に初めてカナタが乗った際にパイロット認証が行われたのか」
「その通りです。それによって私は<タケミカヅチ>を動かせなくなりました。それでは本題に戻ります。――アマツ部隊は既に半壊状態でまともに戦える戦力は残っていませんでした。<タケミカヅチ>も武装の大半を失いリアクターも損傷していたため出力は大幅に低下、火力はほとんど無い状態でした。そこで<クイーン>への対抗手段として持ってきていた重装甲ユニットを<タケミカヅチ>に装着し、侵食された<イザナミ>のコックピットブロックに接近後自爆することで破壊しようと考えたんです」
「何という無茶な作戦を……。いえ、これは最早作戦と言える内容ではないですね」
口をつぐんでいたアメリアが作戦内容に驚き思わず声を漏らしてしまう。他の者も似たような反応をしておりフィオナは苦笑した。
「その作戦を考えたのは私なんです。オリジナルの私は<クイーン>に対して、複製体である私は<イザナミ>に対して特攻を考えていました。ですが、作戦開始直前に敵の大部隊の増援がありアマツ部隊は撤退を余儀なくされました。私は<タケミカヅチ>を輸送機に載せて撤退しましたが、途中で輸送機は攻撃を受けて海中に沈みました。それからはノーマンさんとカナタに回収されるまで百年間コールドスリープで眠りについていたんです。――そして眠りから覚めた私は再び<イザナミ>とその核になっているオリジナルの私を抹殺するために行動を開始したんです」
フィオナの話が終了し艦長室は静寂に包まれた。ロイはカップに残ったコーヒーを一気に飲み干すとフィオナに質問を始めるのであった。




