驚異のオカマ フォルネス・スズキ
<クラーケン>は触手脚を鞭のようにしならせて<スサノオ>に叩きつけようとしてくる。
デューイは三十メートルから成る複数の鞭を回避しながらレールガンとハープーンを撃ち込むが、それもまた触手脚に阻まれ本体に到達しなかった。
しかも<スサノオ>の攻撃を受けた部分の損傷はほとんどない。並のAFならバラバラに吹き飛ばされる威力であるにも関わらずだ。
『直撃したはずだ。それなのにこの程度のダメージだと!?』
『んふふ、そんな腰の入ってない撃ち込みじゃダメダメよ。<クラーケン>の脚はピンポイントでDフィールドを展開しているの。D粒子の重力制御機能も合わさって水中でもしなやかに動いて防御力も高いわけ。――その機体のシールドと似たようなものよ。だってそれ、表面にDフィールドを展開することで水抵抗を減らして機体の加速度を上げてるんでしょ?』
『――っ!』
水中でのディフェンサーシールドの役目を看破され沈着冷静なデューイも一瞬動揺する。
その表情の変化をフォルネスは見逃さなかった。
『さっきも言ったでしょう。あなた達の情報を集めてるって。<アーヴァンク>との戦闘データはしっかり取らせてもらったわ。ちょっと分析すればその水中用装備の特徴なんてまる分かりよ』
<クラーケン>の触手脚は嵐の如く振り回され海中では渦が生じ<スサノオ>を自分の方へと引き寄せ始めた。
『こいつ……水流を操って……!』
『カモ~ン、デューイちゃん。遠慮せずワタシの胸に飛び込んできなさい! あっつ~い抱擁を交わしましょうよぅー!!』
『冗談ではない!!』
デューイはハイドロジェットユニットをフル稼動させ渦から逃れようとする。
しかし機体の体格差から生じるパワー差の為か徐々に<クラーケン>の方へと引き寄せられていく。
渦は台風のように<クラーケン>を中心として円を描くように流れている。
『そんなに怖がらなくても大丈夫よ。ワタシが優しくキャッチしてあげるから。ほーら身体から力を抜いて水の流れに身を任せれば良いのよ』
コックピットのモニター越しに見える<クラーケン>は両腕を大きく開いて<スサノオ>の受け入れ準備をしていた。
デューイの脳裏には保育装置から出てきてから今までの思い出が次々と思い出されていた。
『こんな訳の分からない奴にやられて堪るか!!』
デューイが特攻を覚悟するとルーンから通信が入る。
『ようやく繋がったみたいですね。中尉、何とか<スサノオ>を浮上させてください。その後はこちらで対処します!』
『ルーンか! ――了解した!!』
デューイは意を決して全速力で<クラーケン>目がけて突っ込んで行く。渦の流れも合わさって爆発的に速度が上がる。
――この一瞬に賭ける。
デューイは操縦桿を力強く握り神経を研ぎ澄ます。
そんな彼とは正反対にフォルネスは自ら近づいてくる<スサノオ>を受け止めるため、興奮した様子で十本の触手脚をウネウネ動かしていた。
『自分から来てくれるなんて興奮しちゃう! いいわぁ、デューイちゃん。ワタシが優しくがっつりネットリあなたの新世界を開いてあげちゃうーーーーー!!!』
『――断る!!』
デューイは<クラーケン>にぎりぎりまで接近すると推進系を全て停止させ限界まで出力を上げていたハープーンを発射した。
ハープーンは、ほぼゼロ距離で<クラーケン>に放たれたが、それは直撃の寸前に触手脚で防御されてしまう。
だがそれはデューイの計算の内だった。
渦の中心である<クラーケン>のすぐ近くは台風の目の如く水の流れは激しくない。
<スサノオ>は敵機付近で最大出力のハープーンを発射し、その反動によって台風の目の中を急浮上し海面に向かっていく。
フォルネスは<スサノオ>を追って急いで<クラーケン>を浮上させ始めた。
『味な真似をしてくれちゃって~。逃がさないわよーーーー!!』
『……くっ!』
デューイは<スサノオ>の推進系を最大にして海面に到達するとその勢いのまま上空へと飛翔する。
その後を追って<クラーケン>もまた海面から身体を出し<スサノオ>の脚部を触手で絡め取った。
『ふふふふ、つーかまーえた!』
フォルネスが歓喜の声を上げた直後<クラーケン>に砲弾が直撃し、その巨躯を大きく震わせる。
突然の攻撃に驚いたフォルネスがその犯人を捜すとそれはベイエリアに立っていた。
全身深紅の装甲を纏いバックパックと連結したレールキャノンの砲口を<クラーケン>に向けているAFが一機。
『つっ……あれは、<カグツチ>。あの距離から撃ってきたというの!? 不完全な状態でやるじゃない』
次の砲撃を予想しフォルネスが身構えると今度は<スサノオ>を捕えていた触手脚が切断された。
何事かと思っているとその場に死神の鎌を携えた漆黒のAFが出現する。海面すれすれをホバリングしニードルバレットで追撃を敢行する。
『今度は<ツクヨミ>ですって? 光学迷彩で姿をくらましていたのね。仲間を助けるために海上までやってくるなんて、その心意気は立派だけど初撃でワタシを倒せなかった以上あなたの負けよ。このまま海中に引きずり込んで熱い抱擁で圧死させちゃうわよ!』
『あー……アタシはオカマに抱きしめられて喜ぶ性癖はないのでお断りしまーす』
ルーンが興味なさげに断るとフォルネスは声を荒げて怒り始めた。
『ワタシだってメスには興味はないわよ!! デューイちゃんとこれから海の中で仲良ししようと思っていたのに邪魔してくれちゃって……マジでぶち殺すわよメスガキィィィィィィ!!!』
『うわ、怖……。見た目も中身もモンスターなんて、そんな姿見られたら男の人に嫌われちゃいますよー』
『……はっ! あらやだワタシったら声を荒げたりなんかしてはしたない。――メスガキちゃん、これからあなたを海中に引きずり込んでぶっ殺してあげるわねん』
ルーンに茶々を入れられて落ち着きを取り戻すもフォルネスは強い殺意を彼女に向ける。
水中用装備ではない<ツクヨミ>を触手脚で包囲し捕縛しようとした時、その頭上から接近する機体があった。
レーダーに反応があり上空に注意を向けた瞬間、<クラーケン>の首元に二振りのビームソードが深く突き刺さる。
『がはっ!! な……んですってぇぇぇぇぇぇぇ!? こいつは……この機体は……』
<クラーケン>の頭上から降下してきた<タケミカヅチ>がライキリで襲撃し、フォルネスの視界には深紅の双眸で自らを睨み下ろす純白のAFの姿が映るのであった。




