海中の死闘
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カナタ達が<アーヴァンク>と戦闘をする中、デューイは<ディープワン>を追っていた。
『このままだと海に出るな。十中八九そこに待ち伏せがいるはずだ。――連中がどれだけの戦力を持ち込んだのかこれではっきりする』
川の中を進んでいた二機は海に出た。するとコックピットに警報が鳴りレーダーに二十機以上のAFの反応が表示される。
<スサノオ>の前面には<アーヴァンク>の群れが立ちはだかり、そこに合流した<ディープワン>から下劣な笑い声が聞こえてくる。
『ひひひひひっ! 調子に乗って私を追ってきたのが運の尽きでしたねぇ。これだけの数の<アーヴァンク>に囲まれて生き残ることは不可能ですよ。このままなぶり殺しにして差し上げます』
『その物言いと、この間の抜けた戦術……思い出したぞ。何度か戦った事があったな』
『間の抜けた……だと!? ふ、ふふ……減らず口もそこまでです。<ディープワン>も<アーヴァンク>も水中で性能を発揮する機体。先程と同じようにいくと思ったら大間違いですよ』
海中を動き回る<アーヴァンク>のスピードは地上での鈍重なものとは別物でミサイルの如く俊敏なものだった。
機体の各部にハイドロジェットを搭載し魚類のように優雅かつ素早く海中を移動する。
『水中では我々に勝つことも逃げることも不可能です。――全機ミサイル発射ァァァァァ!!』
<アーヴァンク>のバックパックに備えられているミサイルポッドから対地対空ミサイルが一斉射される。
これは水中で使用すれば魚雷となって目標物を追っていく獰猛なハンターと化す。
<スサノオ>は水中戦装備のハイドロジェットユニットを最大出力にして無数のハンター達から逃げ回る。
水陸両用機と同等以上の動きを見せる<スサノオ>に一瞬だけ驚くダイブであったが、ミサイルの群れから逃げるデューイを見て歓喜する。
『くふふふふふっ! いいぞ、いいぞぉぉぉぉぉ。予想以上に動きがいいが、それだけではミサイルの包囲網から逃げ切ることは出来ない。一発でも当たって動きが鈍ればそこに次々と着弾してジエンドだ! さあ、早く私に見せてくれ。お前が粉々に砕けて海の藻屑になるその瞬間を!!』
ダイブは自分だけ安全な後方に回り込み海中で行われる狩りをじっくり眺める。
海中を猛スピードで動き回る<スサノオ>と<アーヴァンク>によって周囲には大量の泡が発生していた。
<スサノオ>は巧みな動きでミサイルを回避し標的を見失ったミサイルは次々に爆発する。海面付近で爆発したものは水柱を発生させ戦闘の激しさを伝える。
『何故だ……何故当たらない!? こちらのテリトリー内での戦いなんだぞ。水中専用のこちらが後れを取るはずは……!』
一向に状況に変化がない中、ダイブの中にあった僅かな不安がどんどん大きくなっていく。
水中という特殊な環境においては通常のAFは性能を大きく低下させまともに戦うことすら出来ない。
一方で水中専用の機体ならば水の中を弾丸の如きスピードで泳ぎ回ることが可能だ。
そう考えれば汎用機の<スサノオ>が装備を変更したとしても、水陸両用の<アーヴァンク>が負けるはずがないのだ。
しかも<アーヴァンク>は二十機以上いる。戦力差は圧倒的なはずだった。
――にも関わらず、あの忌々しい青い機体は未だに落ちる気配がない。
理解出来ない状況が焦りを生み広がっていく。ダイブはこれまでデューイに破れてきた戦いを思い出していた。
完璧だと思っていた戦略が容易に突破され最後は自分自身も敗れて破壊される。
そんな苦々しい記憶が次々と思い出され屈辱が怒りに変わっていった。
しかしダイブは怒りに駆られて敵に突撃したりはしない。そんな事をするのは愚か者だ。自分はあくまでこの場を取り仕切る指揮官なのだ。
部隊の頭脳たる自分が前に出て危険に晒されるのは得策ではないし、そのような役目は無人機たちに任せればいい。
それがダイブ・ロノエの戦いに対するスタンスであった。
今までそうであったし、これからもその考えを変える気はない。
そう思っていた矢先、<スサノオ>に群がっていた<アーヴァンク>が次々に破壊され始めた。
レールガン――電磁力で加速された実弾は海中でも威力を落とすことなく敵機の分厚い装甲を貫いていく。
『こう距離が近ければレールガンの威力が殺されずに済む。――包囲網を敷けば簡単に勝てると思ったようだが、その安易な戦術が逆に仇となったな』
ミサイルを撃ち尽くした<アーヴァンク>は爪で引き裂こうと<スサノオ>に接近してくる。
デューイはハイドロジェットユニットを使いこなし水中戦に適応、敵機の爪を難なく回避しカウンターとばかりに至近距離からレールガンをお見舞いして撃墜する。
『……さすがに敵の数が多すぎるか。地上にいたAFの数とこの場にいる数を合わせて約六十機。これだけの数を陸路や空路で『ノア11』領内に運び込むことは不可能なはずだ。そう考えれば残りの可能性は海のルート……それもこちらの索敵に引っかからない深海航行が可能かつ一度に数十機以上のAFを搭載可能な潜水艦。それがこの付近に待機している可能性が高い。――ならば!!』
<スサノオ>のハイドロジェットユニット推進部の反対側の装甲が開放され砲口が顔を出す。
その内部では取り込まれた水がD粒子の重力制御機能によって圧縮されていた。
『D粒子圧縮良好……砲弾形成完了。――ハープーン発射!』
圧縮された大量の水が砲弾となって左右のハイドロジェットユニットから発射されると、重装甲の<アーヴァンク>を一撃で葬り残骸が海底目指して沈んでいった。
その恐るべき威力を目の当たりにして戦闘を離れた場所から見ていたダイブは驚きを隠せない。
『何だ今の砲撃は!? <アーヴァンク>を一撃で粉々に吹き飛ばしただと。どうして汎用機が水中であれほどの性能を発揮できるんだ?』
海中で水陸両用機を圧倒する<スサノオ>に対してダイブは納得がいかなかった。
そしてこのままでは圧勝で終わるはずだった戦いが惨敗という形に変わる事実を認めることが出来ないでいた。
――戸惑うダイブに<スサノオ>から通信が入る。
『この状況を理解出来ないようだな。お前は<スサノオ>を単なる汎用機と侮っているようだが、こいつは各種ウェポンモジュールを装備することであらゆる環境に適応し百パーセントのパフォーマンスを発揮できる。お前たちのテリトリーである水中も例外ではない。このような状況になったのは<スサノオ>と私を侮りすぎたお前の詰めの甘さが原因だ』
デューイは淡々と説明しながら一機また一機とハープーンとレールガンで敵機を撃破していく。
四散した<アーヴァンク>の集団は身体をバラバラに崩壊させ海の藻屑と化していく。
仲間たちの亡骸を隠れ蓑にして<スサノオ>の背後に回り込んだ一機が死角から爪で襲いかかるが紙一重で躱す。
回避と同時に<アーヴァンク>のメインカメラにディフェンサーシールドの先端を打ち込み、至近距離からのレールガンで止めを刺すのであった。




