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新星機動のアサルトフレーム―タケミカヅチ・クロニクル―  作者: 河原 机宏
第1章 白いアサルトフレーム

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剣鬼とカナタ

『まさか本当に一人で戦おうなんて驚きじゃないか。まさか前回オレに勝ったから今回も楽勝とか思ってるんじゃないだろうねぇ?』


「自分を過信しているつもりもないし、あんたを侮っているつもりもないよ。あの時勝てたのは機体の性能差と何よりあんたが僕を甘く見ていて、そこにつけ込むことが出来たからだ。そんな油断はもうあんたには無い。そうだろう?」


『……いいねぇ、よく分かってるじゃないか。そういやさっきオレが自分はAI化された人間だって言った時も驚いた様子はなかったね。既に誰かに教えて貰ったみたいだけど、もうちょっと驚く振りをしてくれてもよくない? ちょっとつまらないよねぇ。――あ、そうだ、それならこの話をすればさすがに驚くかなぁ?』


 やたらともったいぶった様子でニタニタしているのがかんさわる。それにこの男が何を話すのか大体の見当は付いている。


『この間戦った時に<タケミカヅチ>の前パイロットについて話したのは覚えてるよね』


「剣鬼って言われていたパイロットのことか。当時のあんたら『ノア3』のA(アサルト)F(フレーム)とパイロットを殺しまくったっていう人物のことだろ」


『そうそうその通り。そいつの名前を教えてあげようと思ってねぇ。その男は元教導隊の叩き上げの軍人で階級は少佐。年齢は三十代で名前はカナタ・クラウディス――つまり百年前の君って訳さ』


「…………」


『本当に驚いたよね。だってまさかこんな甘々な少年があの剣鬼本人で、しかも再び<タケミカヅチ>に乗って戦ってるなんて運命としか思えない。んで、この話を剣鬼にやられた仲間連中に教えたら是非君に復讐したいってさ! 既に『ノア3』領内ではネームド専用の高性能AFを生産している。新世代機にはAI化された人間が乗り移れるように開発段階からOSに調整が施してあるので準備万端だ。もう君は戦いから逃れられない状況にあるんだよ! ――ねぇ、どんな気持ちだい? 生まれ変わっても殺し殺される運命から逃れられないなんて……どんな気持ち!?』


 以前ジェノバと戦った時の奴の台詞とこれまでの戦いの中で断片的に思い出した過去の記憶。

 それらを結びつけていくことで自分がかつて戦いの渦中に身を投じていたことは分かっていた。そして剣鬼と密接な繋がりがあるということも――。

 <タケミカヅチ>の中でコールドスリープしていたフィオナが僕の名前を聞いて驚いたのもこれで納得がいった。

 だから真実を聞いて驚くというよりも答え合わせが正解だったというスッキリした感覚だ。


「どうもこうもあるか。降りかかる火の粉は払う。――ただそれだけだ」


『へぇ~、本当に全然動じてないねぇ。今の君はあの頃の……剣鬼に近い雰囲気を感じるなぁ。――それじゃあ、そろそろ……殺し合おうかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 <レッドキャップ>は両手にビームアックスを携えて高速で正面から突っ込んできた。フェイントも駆け引きも無い真っ向勝負を仕掛けてきた。

 こっちも正面から飛び込んで二本のライキリで斬り込み、互いのビーム刃がぶつかり合う。


「パワーは互角……アクチュエーターまで手が加えられているのか!」


『あひゃひゃひゃ! ゼノアはパイロットとして腕前は二流だったけど機体改造に関しては中々余念が無い奴だったよ。手塩に掛けて強化してくれたお陰で、この<レッドキャップ>は中々ご機嫌な性能に仕上がっている。あいつの腕じゃろくに性能を引き出せなかったけどオレならこの通りさあ!!』


 切り払うと<レッドキャップ>はまるで生き物のように柔軟な動きで次々に斬りかかってきた。

 その一撃一撃をいなしていくが疲れを知らないかのように奴の連撃には終わりが見えない。このままではいずれこちらの集中力が切れて攻撃を叩き込まれる恐れがある。

 

『そらそらそらそらそらそらぁ!! 守ってばかりじゃジリ貧だよ剣鬼さんよぉ。言っておくけどAFと同化したこの身体は疲れ知らずだからね、時間が経てば経つほど不利になるのはそっちだよ!』


 焦るな。挑発に乗って焦って動けば奴の思うつぼだ。<レッドキャップ>の性能は<ガルム>を大きく上回っている。この間と同じ戦い方をすれば負ける。

 あの生物みたいな変態的動きを見切ることが先決だ。


「……右腕振り下ろし、左腕横薙ぎ……次、左右同時袈裟懸け……次、左右時間差で斬り上げ……!」


 <レッドキャップ>は流れる様な動きで次々に攻撃を繰り出してくる。それを回避と防御で凌ぐ。

 そうしているうちにジェノバは一定のリズムでビームアックスを打ち込んでいるのが分かった。


「――それなら!!」


 相手のリズムに合わせてライキリによる攻撃を叩き込む。相手の波長に乗ることで、まるでダンスを踊っているような感じになる。

 お互いにスラスターや全身のバーニアを最大限活用して大地を滑走し空中を飛び、様々な場所で斬り結ぶ。

 デューイさんとの戦いでは防御無視の攻撃全振りをしたことで機体を傷つけてしまった。

 今回はそんな事はしない。これ以上相棒の身体を傷つける訳にはいかない。


 一撃一撃を丁寧にさばいて狙っているその瞬間が来るのを待つ。


『予想以上にやってくれるねぇ。――なら、これでぇぇぇぇぇぇ!!』


 長い攻防が続き、ついにしびれを切らしたジェノバが突っ込んできた。さっきから何度も目にして気が付いた奴の悪癖が出た。

 ジェノバは性格的に辛抱強いほうじゃない。ちまちました作業が苦手なタイプなのだろう。そんな面はこの斬り結びの中で何度も顔を出していた。

 ――そこが狙い目だ。


「それを待ってた!!」


 <レッドキャップ>が突撃しながら両手のビームアックスを大きく振り上げる。

 その動作に合わせて<タケミカヅチ>のスラスターを全開にして突っ込み奴の懐に入り込んだ。

 

『なっ……にぃ……!?』


 <レッドキャップ>の黄色いメインカメラが驚いたようにこちらに向けられている。

 慌ててビームアックスを振り下ろそうとしてくるが、その前にライキリを敵のビーム刃に当てて動きを封じ膝蹴りを腹部に叩き込む。


『かはっ!』


「リズムを崩した。ここから一気に決める!!」


 膝蹴りを受けて一時的に動きが止まっている間にライキリをそのまま袈裟懸けにして<レッドキャップ>の胸部に大きくX字の斬撃を刻む。

 ダメージを受けた箇所から火花を散らし距離を取ろうとする敵機に食らいつく。


「逃がすか!!」


『ヤロウッ!!』


 <レッドキャップ>が迎撃の為にビームアックスを構える。奴の攻撃のテンポからすると攻撃に転じるまで若干間がある。

 ――その前に奴を斬る!


 デューイさんと戦った時に使った機体の挙動とスラスターのタイミングを合わせた高速移動。

 地面を蹴り上げる瞬間に合わせてスラスターと各バーニアを連動させて急加速した。


『はやっ――』


「遅い!!」


 攻撃に転じる前の右手のビームアックスをライキリで斬り上げて動きを止め、その直後にビームブレードモードでビームアックスごと<レッドキャップ>の左腕を斬り裂いた。

 そこから間髪入れずもう片方のライキリをビームブレードにして敵機の右腕を破壊した。


『があああああああああっ、剣鬼ィィィィィィィィィィ!!』


「ジェノバァァァァァァァァァ!!!」


 両腕を破壊され機体のあちこちから火花を散らす<レッドキャップ>の胸部に二本のライキリを突き刺し、その勢いのまま後方の廃ビルに押し込んで串刺しにした。


「剣鬼、剣鬼と馴れ馴れしいんだよ!!」


『ぐ……ああ……くそ、また負けちまったか。だけど楽しかったから、まあいいか……』


「ジェノバ……帰ったら仲間たちに伝えろ。あんたらが僕に復讐するつもりなら受けて立つ。何度でも機体とお前たちを破壊し続けてやる。これをそのまま伝えろ!」


『く……ひひ……それはまた盛り上がりそうなお言葉じゃあないか。これから楽しくなりそうだ……ねぇ……!』


 <レッドキャップ>は串刺しにされたまま前進しこっちに近づいて来る。最後に食らいついてくる気か。


『ケん……きィィィィィィィ!!』


「――ぶちまけろっ!!」


 串刺しにしていたライキリを左右に斬り開いて<レッドキャップ>の上半身を破壊した。

 瞬時に後方に跳んだが敵機は斬り裂かれてもなお前進して来たことで離れることが出来ず爆発に巻き込まれモニターに光が広がっていった。

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